いのちのせんたく 第49話

何が嘘で何が本当なのか。
スザクはしばらく思案するような表情でじっとC.C.を見た後、自分の背に庇っているクロヴィスへ向き直った。
久しぶりに見る騎士としての表情に、クロヴィスもまた皇族としての凛とした表情でスザクを見つめ返した。

「殿下は、C.C.の事も見ておられたのですか?」
「そうだね、彼女のことも見ていたよ」

なにせルルーシュと共に居ることが多かったからね。
クロヴィスは真剣な眼差しでそう答えた。

「彼女は信用に値するのでしょうか?」

何を信じればいいのか、何を疑えばいいのか。
スザクはもう判断することができなくなっていた。
ならばブリタニアの皇族で、黒の騎士団の敵であるはずのクロヴィスなら、死者として手に入れた情報も交え正しい判断を下せるのではないか。
そう考えたのだ。
思考を放棄したのかと嘲笑われるような状況だが、混乱した頭は考えることをやめており、今は藁にも縋るような気持ちだった。

「少なくても、ギアスが暴走したあの時、二人が共に居たあの部屋の隣にV.V.が居た事は知っている。そして、ルルーシュ達の会話を盗聴し、嘲笑いながら聞いていたこともね。干渉したのかどうかまでは、私には判断できないが・・・」

もし彼女の言葉が真実なら、許すことの出来ない相手だよ。
それは、死者のみが知る真実。
スザクは苦しげに顔を歪ませ俯き、C.C.はやはりそうかと眉を寄せ嘆息した。
V.V.があの兄妹の穏やかな会話を聞き、ルルーシュがその力の説明を始めた時、これは使えるとルルーシュのギアスを暴走させた。
それも最悪のタイミングで。
ならば、ユーフェミアの仇はV.V.であって、ルルーシュもまた被害者だということになる。
その意思を歪められ、笑いながら日本人を虐殺している妹を、泣きながらその手にかけたルルーシュ。
もしナナリーが同じ状況となったとしても、同じようにその命をその手で奪っただろう。
愛する妹が狂気に染まる姿を、ルルーシュが望むとは思えないから。
その後ルルーシュが生きていられるかは別として。

「スザク、C.C.がルルーシュの力を抑えていたというのも本当のことだよ。ルルーシュの力は、彼女が共にある時は静まっている」

その事に嘘はない。
ギアスの成長により、容態が悪化するというのも本当で、ギアスは暴走後、使用の有無にかかわらず確実に成長を続け、今もじわじわとその精神を蝕み続けていた。
C.C.が側にいれば成長を抑えることができるため、彼女がこちらに来てくれれば、ギアスによる精神崩壊に関しては現段階で心配しなくて済むようになる。
ルルーシュの体と心を壊している理由は、ギアスによる精神汚染ではなく、あくまでも深く刻まれた心の傷。
それも本当だった。
嘘があるとすれば、ルルーシュはすでに記憶と共にギアスを取り戻しており、左目には特殊コンタクトレンズを嵌めていることだろう。
ずっと着けていると眼病になる恐れがあるため、スザクが傍を離れている間にルルーシュは蒸留した水で眼球と、コンタクトレンズの洗浄をしている。
クロヴィスはそれを知っているため、あの雨の日は様子を見ながらスザクに手伝いを頼み、ルルーシュから視線を逸らさせていたのだ。
人形のようになっていた時は、隙を見てクロヴィスが見よう見まねで洗浄していた。

「殿下、C.C.達はルルーシュを・・・」

ゼロを、呼び覚ますことはないのでしょうか。
そう口にしようとして、言っていいものか躊躇われ、スザクは苦しげに唇を噛んだ。
ゼロとしての記憶を取り戻した時は殺せと命じられている。
今語られたことが真実だとしたら、自分はその命令に従うべきなのだろうか。
ナイトオブワンを目指すのであれば、従わなければならない。
だが、それは全ての元凶であるV.V.の意のままに動く、ということになるのではないだろうか。
なにせ相手はブリタニアの内部に精通している。
皇妃であるマリアンヌを殺害できるほど深くブリタニアと関わりのある人物なのだ。
ユーフェミアの死の原因を作っておきながら、犯人はルルーシュだと臆面もなく語り、スザクを差し向けたのだ。
ユーフェミアの、本当の仇。
ルルーシュに憎悪を向ける僕を見て、さぞ楽しんでいただろう。
ルルーシュに全ての罪をかぶせ、苦しむ姿を見て喜んでいたのだろう。
日本を取り戻したいという願いと、ルルーシュへの思い、そしてV.V.への憎しみで、スザクは自分がどうするべきなのかわからなくなっていた。
その様子を、クロヴィスは眉尻を下げ見つめ、そして口を開いた。

「少なくとも彼らはルルーシュを守る側の人間だ。・・・幸いというべきか、彼らは黒の騎士団の中でゼロの正体を知る者達なのだよ。全てを知った上で、あくまでもゼロではなく、一市民のルルーシュ・ランペルージとして扱うと言っているその言葉に嘘はないよ」

真剣な声音で話されたその言葉に、スザクは、そうですか。と、俯いたまま呟いた。


C.C.とクロヴィスは会話の打ち合わせを細かくしてません。
なので、クロヴィスはあくまでもブラックリベリオン前からルルーシュが壊れていたという流れで進めていましたが、C.C.はナナリーを奪った事による喪失感で不安定になった事をポロッと口にした為、クロヴィスは顔面蒼白だったと思います。
C.C.が提示した状態悪化は、ルルーシュがゼロに戻った後の話なんですよね。
でも混乱したスザクはその矛盾に気づきません。
C.C.は後々気付きますが「枢木なら気づかないだろう」と深く考えません。

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