いのちのせんたく 第50話

なかなか戻ってこないスザクと、姿を消したクロヴィスに不安と苛立ちを感じながら、ルルーシュはコトコトと鍋を煮ていた。
鍋の中はスザクの要望通りのきのこ鍋。
いも団子も入れ、ウサギ肉と根菜もふんだんに使い、具だくさんだ。
殆ど完成しているため、これ以上火を通したくないのだが、二人はまだ戻ってこない。
釜戸の火を小さな状態で維持し、横に設置している焚き木に火を入れた。
しばらくぱちぱちと薪が弾けるのを見ていたが、自分しか居ないのに焚き火など、薪の無駄じゃないかと考えなおし、それ以上薪をくべるのはやめた。
だめだ。
手持ち無沙汰になったせいで余計不安になってきた。
不安でイライラしているぐらいなら、今のうちにできることをやってしまおうと、ルルーシュは腰を上げた。
そう、今ならなんでも出来る。
口うるさいスザクも、心配し過ぎのクロヴィスもいない。
自由だ。
この島に来てから、自分一人の時間など殆取れなかった。
一人で動くこともあるが、それは今のように料理をしたり食材を集めたりという生きる上で必要な作業をするためであって、暇を持て余して、というものではなかった。
そうだ、せっかく一人の時間が出来たのだ。
今しかできないこと・・・いや、今やっておくべきことがあるじゃないか。
ルルーシュは、釜戸の火に砂をかけて消し、重石代わりの石を蓋の上に置き、今使っていたお玉などは全て洗いって籠の中へ片付けた。
焚き火の方は火事にならないよう調整する。10分もすれば自然に消えるだろう。
あたりを見回し、よし、問題無いと判断したルルーシュは川原を後にした。




スザクは不安を抱えながらも、C.C.達黒の騎士団の面々を川原へと案内した。
クロヴィスの話を信じないわけではないが、C.C.達が本当にルルーシュをゼロに戻さない保証など無い。
せっかく三人で穏やかに暮らしていたのに、まさかクロヴィスが彼らを招き入れるなんて予想外だった。
こうなったら常にルルーシュと行動し、離れないようにするしか無い。
アッシュフォードにいた頃のように、監視するみたいで嫌な気分だが、仕方が無い。
そんなことを考えている内に川の流れる音が近づき、やがて視界がひらけ、スザク達が何時も過ごしている川原に出た。

「ほう、私達の場所と変わらないな」
「我々の場所ともさして変わりはない・・・だが、綺麗にしているな」
「ほんとねぇ、こっちなんてゴミだらけよぉ」

川原に辿り着いた騎士団の面々は、作りだけで言うならまるで自分たちの拠点に戻ってきたようだと困惑したように言った。

「各拠点は、どこも作りが似ているはずだよ。ほら、あそこに住処として洞窟、そしてその正面には、岩岳で出来た高台があるだろう?」

クロヴィスの言葉に、ああ、本当だ。同じだなと、皆が眉を寄せた。
死者として漂っている間に、各拠点の地形はなんとなく把握していたのだというクロヴィスに、ではこの島を出るために必要な物など見なかったかを聞いても、自分はあくまでも生者の動向を見ていただけだから、皆がたどり着いていない場所は全くわからないよと、眉尻を下げた。
そうは都合よく行かないらしい。
僕は彼らのことはクロヴィスに任せ、辺りを見回した。
だが、ルルーシュの姿はどこにも見当たらない。
釜戸に近づくと、そこには鍋が置かれており、蓋が飛んだりしないよう石を重石に置いていた。
釜戸の火は砂で消した跡があり、釜戸も鍋もまだ温かかった。
焚き火も用意していたようだが、こちらはもう殆消えかけており、僅かな火種がぱちぱちと音を立てていた。
この薪の量なら10分は燃えていたはず。
ならばそれより前にルルーシュは居なくなったということか?

「スザク、ルルーシュは何処に行ったんだい?」

クロヴィスは辺りを見回しながら近づいてきた

「・・・解りません。鍋の用意をして待っていると言っていたのですが・・・」
「鍋の?」
「ええ、今日はキノコがたくさん採れたのできのこ鍋を作ってくれて」

釜戸に置かれた鍋を見て、クロヴィスはなるほどと頷いた。

「すでに出来上がったから、なにか用事でも片付けに行ったのかな?」
「もうすぐ日が落ちるのに、ですか?ルルーシュ、夜目が効かないじゃないですか。それに暗くなると左目が・・・」

ルルーシュは隠しきれているつもりのようだが、両眼の調子が悪いのは一緒にいて解っていた。特に左目は辺りが暗くなると全く見えなくなることもあるようで、時間の経過ともに悪化しているように見えた。
そんなルルーシュがこれから暗くなるという時間に居なくなるなんて。

「僕、探してきます。クロさんはここにいてください」

そう言って走りだそうとしたのを、C.C.に止められた。

「なら男共全員で探しに行け。私は温泉に入る」

C.C.は一人焦る様子もなくそんなことを口にした。

「ちょっとC.C.!あなたルルーシュが心配じゃないの?」

カレンが心配そうな顔で怒ると、C.C.は口角を上げ、金色の瞳を細めた。

「私はルルーシュと繋がっている、といったのを忘れたか、カレン。あの男は無事だよ。あの男の近くに来たことで、より強く感じられる。まあ、放っておけ。どうせこのブラコン兄と二重人格騎士に四六時中付き纏われる生活を送っていたんだろう?久々に出来た一人の時間だと、その辺を自由気ままに歩き廻っているんだろうさ。慣れた場所なら目を瞑っていても帰ってくるよ。あいつはそういう男だから、あまり過保護にしすぎるな」

C.C.はすたすたと温泉の方へ向かって歩き、身につけている服を脱ぎだした。

「ちょ、待ちなさいよC.C.!」

何時もとは違い、ここには男性が三人いるのだ。
彼らの目の前で脱ぐのは駄目だと、カレンは慌ててC.C.を止めた。

「C.C.、君の気持ちは判った。せめて私達がここを離れてから脱いだらどうかね?」

君には恥じらいという言葉はないのかな?
嘆息したクロヴィスがそう提案した。

「・・・なら、さっさと行け」

仕方ないと、C.C.は脱ぐ手を止め、スザクたちを急かした。

「・・・わかったよ。カレン、そこにある箱、その中に体を洗うスポンジと、竹の筒に石鹸が入っている。小さな小箱に入っている枝と塩は歯磨き用。温泉の横の水場に置かれている竹の筒の中身は、洗濯洗剤代わりの灰汁が入っているから、着てるのを洗うならそれを使って。着替えが必要なら、拠点にあるのを使っていいけど、黒服はルルーシュのだから、それ以外を使ってくれるかな?」

何も知らずに好き勝手使われては堪らないと、スザクはひと通り箱の中身の説明をした。

「待て、お前たち、着替えがあるのか?」

C.C.は真剣な表情でそう尋ねた。

「あるよ?なんで?」
「どうしてあるんだ。私達はここに来た時の服しかないのに」
「ああ、だからぼろぼろなんだ・・・」

落ち切れない汚れに、何かに引っ掛けて破れたあと。
やけに薄汚れていると思ったが、着替えがなかったからなのだとスザクは納得した。

「・・・お前たち優遇されすぎだ。で、どうしてルルーシュのは駄目なんだ?」

着替えるのであれば、ルルーシュのを着たい。
そう言いたげなC.C.に、スザクはニッコリと笑いかけた。
目が笑っていないため、明らかにC.C.に喧嘩を売っている笑みだった。

「ルルーシュは体調をすぐ壊すからね。今日はそうでもないけど、調子が悪いと何枚も重ね着をしなきゃいけないし、突然熱を出すこともあるんだ。だから彼の着替えは使わないで欲しい」

あと、ルルーシュの服を、君に着せたくはない。
という言葉はさすがに言わなかったが、C.C.は察したように目をすっと細めた。
敵。
元々敵と認識していたが、別の意味でもこいつは敵だ。
そいう意味の籠もった視線を互いにぶつけあった。

「・・・ならば、枢木。私達が着れる服をさっさと持ってこい」

本当ならば「ああ、忘れていた」と言ってルルーシュの服を引っ張りだし、下着も含めて身に付ける所なのだが、すぐ傍には暖かな湯気を放ち、鼻孔をくすぐる硫黄の匂いを放った温泉があるのだ。
早く入りたい!
服を取りに行くなど面倒臭い!
ならばこの体力馬鹿に取りに行かせればいいのだ。
C.C.のその案に、スザクはむっとした表情となったが、仕方が無いと洞窟に向かって走りだした。
皇族であり、フェミニストであるクロヴィスが居る以上拒否すれば「取ってきてくれないか」と言われるのは目に見えている。
無駄な問答をするぐらいなら、さっさと衣服を持ってきて、ルルーシュを探しに行く方がいい。 全速力で戻って来たスザクの手には三人分の衣服と、バスタオルとタオルがあった。

「そちらの女性は、恐らく僕の服では厳しいかと思いまして、クロさんの服も持ってきたんですが」

カレンとC.C.はスザクの服で大丈夫だと思うが、ラクシャータのあの豊満な肉体は、細身のスザクの服ではさすがに無理そうだった。

「構わないよ。でも困ったね、藤堂の服のサイズは流石にないからね」
「いや、私は・・・」
「心配ないだろう。男なんだからバスタオルでも巻いていればいい」

まあそれもそうかと、スザクはそれらを箱の上に置くと、ルルーシュを探しに駈け出した。

「私は畑の方を見てこよう」
「ふむ・・・作りがこれだけ似ているということは、この先に海があるということでいいのか?」
「そうだね、そこの道を真っ直ぐ進めば海岸に出るよ」
「ならば私は海辺を見てこよう。この周辺の地理もざっと見てきたい」
「では頼もうかな。スザクはルルーシュが行きそうな場所・・・この近くを先に探すだろうからね」

手分けして探そう。
そう言いながらクロヴィスと藤堂は歩き出した。
残ったのは女性三人。

「まあ、留守番は必要よね?」

ラクシャータはそういうと、衣服を脱ぎ始めた

「今入り損ねたらいつ入れるかわからないからな」

C.C.はポイポイと服を脱ぎ散らかす。

「それもそうね」

カレンも同意する洋服を脱ぎ、三人は久しぶりの風呂を堪能した。
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