いのちのせんたく 第55話


ふあぁぁぁ~。
カレンは体を伸ばしながら大きな口を開けて欠伸をした。
久しぶりに熟睡したらしく頭痛が消えて体も軽い。
体を起こすと、あれ?と思いながら辺りを見回した。
見慣れた洞窟・・・ではない。
洞窟内には幾つもの竹製の家具があり、自分は今ベッドの上にいた。ベッドの上にはラクシャータとC.C.もいて、2枚の毛布を三人で使い横になっている。
何時もと違う光景に、カレンはまだ夢を見ているのかと目を擦った。
だがどう考えてもこれは夢ではない。

「・・・ここ・・・どこ?」

一瞬混乱したが、ああそうだ、今ルルーシュ達の拠点に居るんだった、と思い出した。
久しぶりにお風呂に入り、清潔な衣服に着替え、美味しい料理を食べて、皆で楽しい話をして、久しぶりに笑って、そして寝たんだった。
腕を軽く回してみると、疲れのせいかガチガチに固まっていた筋肉がほぐれているのが解る。首周りや肩にあった痛いほどの凝りも解消されていた。
体が軽く感じられたのはこのせいか?
疲れが驚くほど取れているのは、温泉の効果か、ベッドの効果か、お腹いっぱい食べたからなのか。
それ以上に精神的なゆとりと安堵が大きいのか。
今までは毎日生きるので精一杯だった。
何よりコーネリアとヴィレッタとのギスギスとした空気のお陰でお世辞にも快適な場所とは言えなかった。
だがこの場所は違う。
自分たちの指導者であるゼロ・・・ルルーシュが居て、たった3人でここまで生活出来る空間を生み出していた。
こんな訳の分からない情況でもルルーシュなら私達を導いてくれるのではないか。
ここから抜け出せるのではないか。
そんな期待まで抱き始めていた。
未来への希望。
あの場所にいて失われつつあった感情だ。
カレンは二人を起こさないようそっとベッドから降りた。
そして昨日履いていた草履を身につけ、薄明かりの漏れた洞窟の出口へ向かう。
洞窟の入り口を閉じるための簡易の壁まで用意されていて、外と室内を完全に遮断しているという空間は、同じ洞窟だというのに安心感が段違いだった。
隙間から溢れる明かりを頼りに進んでいき、簾を持ち上げ外へ出る。
眩しさに目を細めながら外にでると、朝日はすでに登り切っており、一面の青空が広がっていた。

「おはようカレン、早いんだね」

声のする方を見ると、スザクが居た。
竹で作られた大きな箱のようなものに寄りかかり、焚き火をいじっている。
焚き火には鍋が置かれ、コポコポとお湯が沸騰し始めていた。
スザクが背にしている箱は川原に置かれていたもので、天井と床があり、四方ある壁の一面だけ塞がれていない作りで、ルルーシュを休ませるため用意した簡易休憩所だった。中で寝袋に包まってルルーシュが眠っている。
焚き火の近くにはクロヴィスと藤堂。二人も寝袋に入って寝ていた。
この場所に居たのは3人なので寝袋も毛布も3人分しか無い。だから、女性が毛布2枚、ルルーシュ・クロヴィス・藤堂が寝袋、スザクが毛布を使う事になっていたのだが。

「あんた毛布どうしたの?」
「そこにあるよ?」

スザクの視線の先にはルルーシュ。
寝袋の上に毛布が掛けられているのが見えた。

「あれだけ厚着したんだから暑いんじゃないの?」

焚き火の傍に腰を下ろしながらカレンは尋ねた。
昨夜寝る前に厚着しろというスザクとクロヴィスに負け、ルルーシュは何枚も重ね着した上にラウンズのマントを毛布代わりに寝袋に入ったはずだ。自分は毛布だけで十分だった事を考えれば、暑くて汗をかいていると思うのだが。

「寧ろ足りないよ。ルルーシュは寝ている間体温があまり上がらないから、本当なら一緒に寝て温めるのが一番なんだけど・・・」
「・・・ああ、ホントにあんたルルーシュを抱きしめて寝てるわけ?冗談じゃなく?」

昨日スザクとクロヴィスが話した内容を思い出し、カレンは尋ねた。

「冗談なら昨日、ルルーシュがあんなに真っ赤になって怒るはず無いじゃないか」

ああ、それもそうだとカレンは納得した。
一緒に寝ようとしたスザクを押しとどめ、どうして一緒に寝るのか尋ねたカレンに暴露した話。スザクが、あるいはクロヴィスがルルーシュを温めて寝ているという内容に、ルルーシュは羞恥で顔を赤くし、ラクシャータと藤堂はルルーシュの体調の悪さを再確認し眉を寄せていた。
だから女性陣と一緒に中で、という話も出たのだが、それもまたルルーシュに拒否された。・・・まあ、ルルーシュが拒否しなければ、ルルーシュの記憶回復を心配するスザクが止めただろうから、どのみち無理な話ではあったが。

「ところでカレン、コーヒー飲む?」

今から入れるところだったんだけど?
その言葉に、カレンは聞き間違いかと目を瞬かせた。
それを、スザクはコーヒーが飲めないのだと解釈したらしく「ハーブティもあるけど?」と尋ねた。

「あ、え?ううん、コーヒーがいいわ。ってコーヒーあるの!?」
「ああ、そっか。たんぽぽとどんぐりでルルーシュが作ったものだから正確にはコーヒーじゃないんだけど、コーヒーとそんなに変わらないよ」

もう、あるのが当たり前な感じだから忘れてた。そうだよね、普通は飲めないよねとスザクは苦笑する。
自分も初めて飲んだ時は驚いたのだから、カレンが驚くのも無理は無い。

「たんぽぽとどんぐり!?」
それはあの拠点でもよく見かけたものだった。
それで、飲み物を?
予想外の素材にカレンは目を見開いた。

「うん。僕は知らなかったけど、カフェインレスだから健康志向の人や妊婦さん向けに売られているらしいよ、どんぐりコーヒーとたんぽぽコーヒー」

それで作り方知ってたんだって。
そう言いながらスザクは慣れた手つきでコーヒーの準備を始めた。

「ほら、ルルーシュはナナリーの健康のためなら色々調べるだろ?」
「あ、そか。ナナリーちゃんのためか」

ナナリーの健康を害さない飲み物。
ルルーシュとナナリーは紅茶派だが、ナナリーがコーヒーを飲んでみたいと口にしたならば、ルルーシュはナナリーにはどれが相応しいか必ず調べる。
これ以上ないぐらい納得できる理由だった。

「・・・あ、藤堂さんお早うございます」

たんぽぽの根を乾燥させたという、茶色い木のチップのようなものを磨り潰していたスザクは、作業の手を止め顔を上げた。どうやら話し声で目が覚めたらしく、藤堂がムクリと起き上がった。

「お早うございます藤堂さん」

カレンもにこやかに挨拶をする。

「ああ、お早うスザクくん、紅月」

二人共早いなと苦笑しながら寝袋から出てきた。
昨夜は腰にバスタオルだったはずなのに、いつの間にか下を履いている。
もしかしたら夜中に一度起きてこの辺りを散策したのかもしれない。

「あ~藤堂さん、私もカレンって呼んで下さいよ」

ルルーシュもスザクも名前なのに私だけ苗字で呼んでますよね?
少し不貞腐れたようにカレンはいった。
言われてみればここに居る人物では、カレンだけ苗字で呼んでいた。

「そうだな、じゃあカレンくん、お早う」
「お早うございます!」

嬉しそうに、元気よく返事をしたカレンに、藤堂は良い返事だというように口元をほころばせた。

「藤堂さんも、コーヒー飲みますか?」

飲むのなら、もう一人分追加して挽かなければいけないため尋ねる。

「コーヒー?」

藤堂もまたカレンと同じように聞き間違いがという顔でスザクを見た。

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