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「あ、良かった。まだ寝てるみたいだ」 若干息を切らせていたスザクは、箱のなかですうすうと寝息を立てているルルーシュの顔を見て、ほっと安堵の息を吐いた。 ルルーシュのことだから、足は痛くない、もう大丈夫だと言って、日課の散策を始める可能性があったのだ。 手に持っていた魚の入った籠を降ろし、辺りを見回すが、まだ誰も居なかった。 「まだだーれも起きてきてないみたいね。・・・ねえスザク、飲水作っていい?」 タオルで汗を拭きながら、カレンは片手鍋を手に、川を指差した。 川の水は直接飲むことは出来ないので、一度煮沸する必要があるのだが。 「あ、待って。飲水ならあるよ」 スザクは立ち上がると、川辺へと足を運んだ。 そこには紐に括りつけられた竹の筒が、いくつも川の中に沈められていた。 「なにこれ」 「ここにあるのは飲水。ああ、そっちにあるのは油とかだから弄らないで。ルルーシュに怒られるよ」 少し離れた場所に同じようなものが沈められているのを見つけたカレンは、伸ばしたてを慌てて引っ込めた。 スザクは苦笑しながら、竹の筒を3本引き上げた。 「何本かはこうして冷やしてるんだ。はいどうぞ」 渡された竹の筒はよく見ると水筒で、せんを引抜きカレンは口をつけた。 冷たい水が喉を流れ落ち、運動した後の体を適度に冷やしていく。 「・・・んっ、おいしい!」 冷たい水を飲むなんて久しぶり。と、カレンは笑顔で言った。 同じく渡された藤堂も、笑顔で頷く。 スザクも水分を補給し、人心地ついた。 結局、地の利があったこともあり、海に最初に辿り着いたのはスザク。 その後三人で2箇所に設置していた投網を引き上げ、網に破損がなかったため再設置し、戻ってきたというのに1時間もかからなかった。 日時計も、まだルルーシュが起きる時間の前を指していた。 人が多いと楽だなぁ。 スザクはしみじみと感じながら、冷たい水で喉を潤す。 動ける人間が増えればやれることも増える。 この奇妙な場所から抜け出すためにも、ルルーシュと共にこの島を探索する時間は必要で、人が増えればそちらに時間を費やすことが出来るのだ。 正直今もまだ黒の騎士団を招き入れるには不安があるが、今後活動範囲を広げるためには必要か。 まあいい。僕がルルーシュの側にいれば問題はない。 「で?この後は?」 椅子に腰を下ろしていたカレンは、何すればいい?と訪ねてきた。 「いつもなら温泉に入って一汗流してから、ルルーシュが朝食を作るのを手伝うところだけど」 だがルルーシュはまだ夢の中だ。 カレンがいる以上、流石に風呂に入るのははばかられるし、彼らはお昼前にはここを離れる予定なので、その後入ればいい。 「あー、お風呂、入りたいわね」 カレンは自分の匂いをくんくんと嗅いでそういった。 海で魚の罠を引き上げたりしたことで、身体が磯臭くなっているのだ。 「じゃあ、カレンお風呂入ったらいいよ。僕たちは一度洞窟に戻るから」 カレンの着替えは干しているからすぐそこにあるが、自分たちの着替えは持ってこないといけない。 「藤堂さんも一度戻りましょう」 「そうだな」 相手は年頃の女の子だ。 藤堂はすぐに頷いた。 だが、カレンは頬を染め、しばらく考えた後、鋭い目でこちらを睨みつけてきた。 「・・・見ないでよね」 なにせ今までは男三人だけだったため、視界を遮るものは用意していなかった。だから温泉は当然露天風呂。ルルーシュが起きていれば覗きなど絶対許さないという安心感があるからなのか、カレンはルルーシュをじっと見るのだが、残念ながら熟睡中だ。 藤堂が除くとは考えないだろうから、完全にスザク一人を警戒している。 ・・・でも今更だよな。僕はカレンが水浴びしているところとか、押し倒した時とかにバッチリ見ちゃってるのに。と、スザクは思いはしたが流石に言えない。 「解ってるよ。だから洞窟に戻るんじゃないか」 視力がいいから、あそこからでもバッチリ見えるけど、藤堂がいる以上そんな素振りでも見せようものなら絶対説教されるだろう。 それを解っているカレンは、藤堂に僕の監視をお願いしていた。 酷いと思う。そんなに僕は信用ないのだろうか。 「ここに住むなら、なにか目隠しが欲しいわよね」 温泉は嬉しいけど、丸見えは困るとカレンは眉を寄せた。 「そうだね。その辺はルルーシュが考えると思うよ?」 だって、あのルルーシュだよ? そういうと、カレンは心底納得と言いたげに頷いた。 ほんとになんだろうこの差は。 「それもそうね。とりあえず私は入って着替えるわ」 もう、昨日洗った服も乾いているし。 ほら、さっさとあっち行きなさいよ。 しっしっと、まるで犬を追い払うような仕草をするカレンを残し、藤堂とスザクはルルーシュを連れて洞窟へ向かった。 |