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「あら、お早うルルーシュ」 「・・・おはようかれん」 洞窟へ戻ると、まだどこか呆けているルルーシュが、こちらに視線を向けて返事を返してきた。だが、完全に目を覚ましていないのか呂律が回っていない。 表情も喋り方もどこか幼く見えて、可愛いと思ってしまったのは仕方がないだろう。 思わずキュンとしてしまった私に素早く気がついたスザクが冷たい視線で睨んできたが、そちらは無視だ。 しばらくしつこく睨んできていたスザクは、手に持ってたコーヒーを一口飲むと、それをルルーシュに渡した。 ルルーシュに対しては優しい笑顔なのが腹が立つ。 さっきまでの冷たさは欠片もない。 流石C.C.よね、二重人格騎士って言葉、すっごく納得できるわ。 大体、ルルーシュを皇帝に売り払ってラウンズになったのよね? しかもスザクの主であるユーフェミアの仇でもあるゼロ。 つまり敵だ。 なのに険悪な空気など欠片も感じられない。 なんでこんなにルルーシュを甘やかしているのかしら? 「ルルーシュ、はいコーヒー。まだ熱いから、ゆっくり飲むんだよ?」 ルルーシュは熱さを感じないということで、少し冷めるまでまっていたらしい。 まるで小さな子供に言い聞かせるように言うと、ルルーシュにカップを持たせた。 「わかったすざくありがとう」 両手でカップを持ち、少しづつコーヒーを啜る姿が可愛いわねと、眺めていたら、またスザクに睨まれた。別に見たぐらいじゃルルーシュの記憶関係は大丈夫でしょうと言いたいが、ルルーシュがいる手前口には出来ない。 あいつは独占欲の塊のような男だ、と言ったC.C.の評価も思い出す。 ルルーシュを取られると思って威嚇してきているのだろうか? 別に取らないわよ、今はね。 この奇妙な島から出るのが先でしょ? これ以上空気が悪くならない内に私は視線をルルーシュからスザクへ向けた。 「大丈夫なの、これ?」 今のルルーシュの状態を確認すると、途端にスザクは眉尻を下げ、心配そうにルルーシュを見た。どうやらあまり大丈夫じゃないらしい。 「多分、大丈夫だと思う。まだ意識が半分寝たままみたいだけど・・・やっぱり昨日無理しすぎてたんだ」 そういうと、スザクは手を伸ばしルルーシュの頭をなでた。 ルルーシュは文句を言うでもなく、くすぐったいのか少し目を細めただけだった。 子供扱いするようなその手を振り払わないなんて、有り得ないとしか言えない。 「普段からこうなの?」 低血圧で寝汚い話は、以前生徒会室でルルーシュが居ない時にナナリーがポロリとこぼしたから知っているけど、これはちょっと違う気がする。 C.C.達の会話にあった壊れた状態?と考えていると、スザクが小さく息を吐いてルルーシュが傾けていたカップを抑えた。 呆けているルルーシュは、スザクに言われた通りゆっくり飲んでいたが、どうやら口を離すこと無く、今までずっと飲み続けていたらしい。 「ルルーシュ、一気に飲んだら駄目だろ?休み休み飲むんだよ、ゆっくりね」 しばらく呆けた視線をスザクに向けた後「わかった」と、返事をした。 あまりにも素直な返事、呆けた視線、おぼつかない言葉。どう考えても頭が眠ったままだ。 うん、ルルーシュがおかしい事はよく分かったわ。 「無理をした翌日はね、こうなることがあるんだよ。大丈夫、まだ壊れた状態じゃないから」 問題はないよ、と言うのだが。 「・・・そうなんだ」 とてもそうは見えない。 藤堂も同じ判断をしたらしく、難しい表情でルルーシュを見ていた。 これで大丈夫なら、壊れた状態はどれほどなのだろう。 何にせよ、ルルーシュがこうならないように今後注意しなければいけない。 「そろそろ朝食の準備の時間だ。カレン、ここにある洗い物を下に運んでくれるかな?」 今使ったカップや、昨日の食事で使い、簡単に洗っただけの食器類が入った籠を指差したので、「わかったわ」とそれを持ち上げた。 「藤堂さん、その籠持ってきてもらえますか?」 「これかな?」 野菜や調味料類を入れた竹筒が入った籠を藤堂は持ち上げた。 「はい。今日の朝食の材料なんです」 昨日の夜、寝る前に朝に使う材料をルルーシュが入れたのだという。 「で、僕はルルーシュを運びますので・・・ルルーシュ、コーヒーはもう終わりだよ」 「わかった」 スザクはルルーシュからカップを受け取り、残っていた分を飲み干しカレンの持つかごへ入れた。 「あ、藤堂さん先に手を貸してもらえますか、ルルーシュ背負うので」 「抱き上げたほうが早くはないか?」 今の状態なら、両腕でガッチリと抱えたほうが安全だと思うのだが。 「そうなんですけど、途中で意識戻ったら面倒ですから。また暴れられて体力尽きたら、明日の朝もこの状態になるので」 2日連続は流石に不味い。 下手をすれば明日は壊れた状態かもしれない。 これ以上悪化させたくないというスザクの言葉に、藤堂とカレンは納得して同意した。 「それなら背負うほうがいいな。どれ、ルルーシュ君、ちょっと動かないでくれ」 「はい」 「いい子だ。カレン君、手伝ってくれないか?」 「はい、ここ支えればいいですか?」 藤堂に言われたとおりルルーシュは大人しくなり、ルルーシュの前にしゃがんだスザクの背に、藤堂とカレン二人がかりでどうにか乗せた。 痛めた足はまだ腫れ上がっていて、いくら添え木をして固定していると言っても、体重をかけさせ無い方がいい。 「よいしょっと・・・ルルーシュ、やっぱり痩せただろ」 「やせてない」 「嘘ばっかり。もうちょっと食事量増やそうね」 「やせてない」 「全く、この状態の時ぐらいホントの事言ってよね」 「やせてない」 「もう・・・理解ったよ」 言葉を覚えたての子供のように、同じ単語だけを繰り返すルルーシュの様子に、眉尻が下がる。軽々と背負われている姿を見て、痩せていないという言葉は信用できるものではない。 だが、痩せたという言葉が心外なのか少し不貞腐れたようにも思えるので、カレンは食器類が入った荷物を抱えてから、小声で藤堂に尋ねた。 「やっぱり、軽いんですか、あいつ」 「軽いな。少し食事量を増やすべきだろう。あるいは少し動くのを制限するか」 食事で得られるエネルギー以上に動いているのだろう。 ルルーシュを背負ったスザクが前を歩き、その後ろを荷物を持った二人が負った。 川原にある釜戸まで来たが、まだルルーシュは呆けていた。 「どうしようかな。ルルーシュ、料理作れそう?」 スザクは背負ったままのルルーシュに声をかけると、しばらくルルーシュが悩んだ後「卵」と言った。 「ああ、卵も使うの?じゃあ取りに行かなきゃね」 「卵?取りに?」 そういえば昨日の料理にも卵が使われていた。 「うん、でもここから少し離れてるんだ。カレン、悪いけどそこにある箱から、籠を出してくれないかな。底が深い籠が入ってるから」 川原に設置されている竹を組んだ箱を開けると、空の籠や手作りの調理道具らしきものが綺麗に入れられていた。 そこから底の深い籠を取り出す。 「これ?」 「うんそれ。それ持って着いてきてくれるかな」 こっち。と、ルルーシュを背負ったままスザクは歩き始めた。 昔、母が雪道で転んで、足首を2倍ぐらいに腫らしたことがありまして。 挫いただけだとシップはって普通に生活してたわけですが、1ヶ月たっても腫れが引かず病院へ。 ものの見事に骨折&骨ズレ&癒着しかけてて、切開手術。 すぐに治療すれば固定だけで簡単に治ったのに、切って削ってボルトで固定して云々でものすごく時間がかかったという。 足首は骨折しても歩けるという話。 |