いのちのせんたく 第59話


「これは?」

カレンは足元にあった白い卵を指さし尋ねると、スザクに背負われているルルーシュはふるふると首を振った。

「じゃあこっち」

その隣の卵を指差すと、今度はこくりと頷く。

「これで12個ね。あと3個か」

割れていないことを確認し、収穫した卵は籠の中へ。

「カレン、ここのもいいみたいだよ」
「解ったわ」

スザクの足元へ移動し、そこにあった卵を収穫。
これで13個。
なぜいちいちルルーシュに尋ねているかといえば、ここの卵は全て有精卵だから。
今日産まれた卵を選ばなければ、殻を割ったら・・・という自体が起きかねないのだ。
ルルーシュは自分が動く範囲の卵はいつ産まれたものか全て覚えているので、ルルーシュに確認しながらの収穫が一番安全なのだ。
カレンは一度立ち上がると、改めて今自分がいる場所を見回した。
起伏はそれなりにあるが平地と言ってもいいその場所には、足首にぐらいの高さまで雑草が生えていた。
そんな場所の至る所にニワトリがいて、元気よく歩きわまって、地面を掘り返してミミズなどの虫を食べており、ひよこもそれについて歩いている。
このニワトリの飼育場所には、想像していた以上のニワトリが飼われているのだ。
スザクの話では、最初は数匹の雌鳥と雄鶏だったのだが、気が付いたらここまで増えたのだという。
この島ではひよこの成長が早いらしい。
自分たちの拠点でも、ニワトリは何度か目撃していた。
捕まえたことは残念ながら一度もないが、捕まえてもすぐに食料となっただろう。
こんな風に飼育しようなどと考える余裕はなかった。
だが、ちゃんと飼育さえすればニワトリからは新鮮な卵が手に入る。
余裕のない生活ではそんな当たり前なことでさえ、頭から完全に消えていた。
どんな状況でも心に余裕を持つって大事なのね。と、カレンは改めて実感した。
がさりと草を踏む音が聞こえたので振り向くと、藤堂が林の中から歩いてきた。

「柵を見て回ったが、壊れている所は無さそうだ」
「有難う御座います」

ニッコリと笑顔でスザクは礼を言った。
この飼育場所を囲っている柵の点検を藤堂に頼んでいたのだ。

「ありがとう」

それを真似するようにルルーシュ。
思わずよしよしとその頭を撫でると、スザクにじろりと睨まれた。
いいじゃないのと、カレンも負けじと睨み返す。

「それにしても、思ったより広かったな」

ここは平地で短い草の生えている場所だが、ここから少し離れると、草の竹は膝を超えるほどになり、木々が生い茂ったその場所は、起伏も激しく非常に歩きづらくなっている。ぐるりと一周するだけで、ルルーシュなら30分はかかるだろう悪路と広さ。

「このぐらいの広さは必要だとルルーシュが言ってたので」

餌の心配もなく、ストレスも感じさせないためには、広い範囲で囲まなければいけない。最初は狭かった飼育場所も、毎日少しづつ範囲を広げた結果、ニワトリたちがのびのびと暮らせる広さを確保できるようになったのだ。

「私達のところでも何回か鶏見かけたんだけど、捕まえられなかったのよね」

ウサギも、あの大きいのをC.C.が捕まえただけで、他は逃げられてしまった。

「いるという話は聞いていたが、捕獲はできなかったな」

だが、捕獲した所で飼育、という発想は出なかっただろう。
作物にしてもそうだ。
ここでは種も集め、畑を耕し、安定した収穫ができるよう手を入れられている。
この島に来て奇妙な場所だと悟った時点で、元の場所に戻れるのか、戻れるとしてもそれには長い時間が掛かるかもしれないと予想はしていた。
だが、長期間あの場所で暮らすために何かをしようと言う思考には至らなかった。
子供たちがこれだけの事をしているのに、大人があれだけ集まっていながら口論ばかりとは、恥じ入るばかりだ。

「15個集まったわよ」

カレンが念のためかごの中を数えてから、明るい声でいった。

「じゃあ戻りましょう」

歩き出したスザクについて、藤堂とカレンもこの場を離れた。



再び川原に戻ってきた頃には、ようやくルルーシュの脳も動き始めた。
呆けていた瞳に知性が戻り、まるで今まで居眠りをしていて眼を覚ましたかのようにハッとなった後、辺りを忙しなく見回した。
そしてスザクに背負われている事に驚き、降ろせと暴れてバランスを崩し、藤堂に支えらえられたりと、なかなか賑やかな状態で釜戸のところへ行くと、そこにはクロヴィスとラクシャータが焚き火の用意をして待っていた。

「お早うございます、クロさん、ラクシャータさん」
「おはよう、あら?それ、卵?」
「はい、いま収穫してきたんです。すごかったですよ、鶏とひよこがいっぱいいて」

興奮したように喋るカレンに、ラクシャータはそれはすごいわねと笑った。

「飼育までしてるわけね、ホントやるわねぇあんたたち」

クロヴィスとラクシャータが運んできた椅子に腰掛けたルルーシュは、そうか?という顔で首を傾げた。

「手当たり次第に捕獲して食べてしまっては、何れ絶滅してしまう。それならば、ある程度環境を整え繁殖させるべきじゃないか?」

すぐに抜け出せるなら手当たりしだいに食用にという手でもいいが、こんな奇妙な場所から簡単に抜け出せるとは思えない。
ならば食料を確保しやすくし、居住空間を整え、病気になりにくい環境にするのが最優先だろう。と言ってもこの奇妙な島では、ある程度整えるだけで繁殖も栽培も簡単に出来てしまうのだが。
ここで得た知識は、現実では通用しない。
その事だけはしっかりと覚えておく必要はある。

「繁殖ねぇ・・・それが出来れば楽よねぇ」

実際にそれをしているルルーシュから見れば、どうして出来ないんだ?と思うだろうが、精神的に追い詰められていると、そんな考えには至れないものなのだ。

「まあいい。だいぶ時間が押しているからな。スザク、今日捕獲した川魚を朝食にも使う。塩焼きにするから、大きめの山女魚を人数分下処理をしてくれないか?兄さんはそちらの魚をさばいてください。全部干してしまいます」

食べきれませんから。

「わかったよ」
「任せてくれたまえ」

二人は慣れた手つきで食材の下ごしらえを始めた。
料理自慢のルルーシュだけが包丁を使うのではなく、ここではちゃんと分担して処理をしていることがよく分かる光景だ。
なにせあの皇族であり元エリア11総督のクロヴィス殿下が魚をさばいているのだ。
生前は絶対にやらなかったであろう作業をテキパキとこないしている。
間違いなく、ルルーシュが仕込んだのだと全員が理解した。

「ちなみに、三人とも包丁は使えるか?」
「ああ、問題ない」
「私は使えるけど・・・カレンはねぇ」
「・・・ちょっとだけ、苦手、かな?」

料理が下手なわけではない。
力加減が上手く行かず、例えばジャガイモの皮むきをしたら、皮だけではなく実もごっそりと削いでしまうのだ。

「そうか、ならば藤堂とラクシャータは兄さんと魚の処理をお願いします。カレンは俺を手伝ってくれ」
「解ったわ。何をするの?」
「朝食の準備と同時進行で昼食用のパンの準備だ。サンドイッチを作っておけば、持って歩けるだろう?」

朝食後、しばらくしたらカレンたちは自分たちの拠点を目指すことになる。
合流場所まで3時間、拠点までは更に3時間。
合計6時間もかかるのだから、食料と水は用意しなければいけない。

「ってことは、お弁当!?」

作ってくれるの!?

「ああ。今日は野菜とハムと茹で卵で作るつもりだ」

だから卵が欲しかったんだ。
カレン達が栄養不足なのは見て判った。
ならば少しでも栄養価の高いものを作りたい。

「あーもー美味しそう!」
「おいしく出来るかどうかは解らないが、カレン、あの片手鍋と、その箱から3と書かれた竹筒を出してくれないか。スザク、悪いが飲み水をとってくれ」
「解ったわ」
「水だね、わかった」

魚の下処理の手を止めて、スザクは水の入った竹筒を川原から引き上げた。

「それと、その大鍋、使い終わったら洗って水を沸かしてくれ」
「水?飲み水にするの?」
「ああ。皆が戻るとき、水筒に入れる水だ」
「あ、そうか。わかった、やっておくね」

全体の様子を伺いながら出される指示に従って全員が動き回った。



山女魚(ヤマメ)をヤマベと呼ぶのは北海道と東北の一部だけなんですね・・・。
なんで変換できないんだと悩んでしまいました。

あれ?ゆで卵具にして持ち歩くの危険なんじゃ・・・?
と一瞬考えたけど、大丈夫か、この島だし。ということで書き直しすらしないという。
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