いのちのせんたく 第60話


朝食の用意を始める頃、ルルーシュはC.C.を起こそうとしたのだが、カレンとラクシャータに「C.C.はぎりぎりまで休ませてあげて」と言われた。二人のC.C.を庇うような態度は昨日からさんざん見ていたため、一応理由をたずねてみると、普段がはグータラで口を開けばピザしか言わないC.C.が、コーネリア達からの盾となり、こっそりと食材集めなどをし、女性陣を陰ながら守っていたのだという。
あのピザ女が?と、一瞬疑ったルルーシュだったが、彼女には何度も命を救われたことを思い出した。コーネリアに追いつめられた時にゼロの衣装を纏い救いに来たことや、ナリタ戦役でルルーシュを守るためにランスロットと対峙したこと。マオの時も、何も言わずにルルーシュを助けるために動いていた。
陰でこっそりと動いていながら、その事を悟らせようとせず、普段はダラダラと怠惰の限りを尽くし、傍若無人な態度をとるのがC.C.なのだ。
そんなC.C.は、今はダラダラとだらけきった態度で、ルルーシュの話にぶつぶつと文句を言っていた。

「なぜ4日も待たなければならないんだ」

C.C.は不愉快げに眉を寄せながら、塩焼きされた山女魚に齧りついた。
・・・美味い。
焼き加減が絶妙で、表面の皮はパリッとし、中はふんわりと焼けている。
しっかりとした釜戸型とはいえ、焚き火は焚き火。
ガスや電気とは違い、火力の調節などままならないはずだ。
それなのに、どうしてここまで美味しく焼けるのだろう。
自分たちが焼くともっと身は硬く、場合によっては焦げたり、半生だったりと散々な出来になるというのに。
その上いい塩梅に塩も振られていて、何時も食べている魚とは別物に感じる旨さだ。
やはりサバイバル生活でも、この男がいる場所で暮らすほうが断然いい。
なのに、ここに戻ってくるのは4日後だと指定された。
あちらに戻るのも嫌だというのに、どうして4日も待たなければいけない。
納得出来ないという顔で、出汁のきいた川エビと百合根のスープをズズズと啜った。

「そのぐらい我慢しろ。まず、藤堂達が3日後、ここに来る。その時、スザクを途中まで迎えに行かせるから落ち合ってくれ」
「僕?」

自分の名が呼ばれたことで、スザクは驚きの声を上げた。

「ああ。大丈夫だとは思うが、その騎士団の者たちが後を付けてきた場合、スザクと合流する場面を見れば、それ以上追ってくることはないだろう。万が一その人たちが姿を現しても、ブリタニア人の拠点に行くと言えば引き返すはずだ」

実際に、ここはブリタニア軍人であるスザクと、皇族クロヴィス、そしてルルーシュというブリタニア側の人間の拠点なのだから嘘ではない。
扇達を置いてくるという前提に変更はなく、軍人である藤堂達が後を付けられるとは思えないが、保険はかけて置かなければならない。

「だからスザク。今日、皆が戻るとき、兄さんが彼らと会ったという合流ポイントまで一緒に言って、場所を覚えてきてくれないか?」
「それはいいけど・・・君を置いて?」

足を傷めたルルーシュを置いて往復6時間ここを離れることに、スザクは不安げに眉を寄せた。見張っていなければ絶対に悪化させると心配しているのだ。そんなに 信用がないのかと、ルルーシュは小さく息を吐いた。

「私がいるから大丈夫だ。任せてくれたまえ」

そのスザクに対し、安心させるようにクロヴィスが胸を張る。

「6時間といえば、戻ってくるのは大体夕食時になるだろう?今日はおそらく天気は崩れないだろうし、ここで兄さんと二人で晩ごはんを作って待っているよ」

これでルルーシュが足をくじいて無ければ即答できるのだが、どうしても足のことが気になってしまう。
かと言って、今を逃せば彼らとの合流がいつになるかもわからない。
その時に今より悪い状況になっている可能性はゼロではないのだ。

「・・・一人で歩き回ったらだめだよ?」
「解っている。もし動く時は、ラクシャータと兄さんで作ってくれたこの松葉杖を使うから、そんなに心配するな」

そう言って、椅子に立てかけていた松葉杖を持ち上げた。
ルルーシュは昨日早くに眠ってしまったのだが、その後ラクシャータとクロヴィスは、木材を使って松葉杖を二本用意してくれたのだ。
急ごしらえのため不格好な出来ではあるが、十分使えるものだった。
これがあれば、時間はかかるが多少の移動は可能だ。

「わかった。じゃあ、できるだけ早くに戻ってくるから。クロさん、お願いします」

念を押すスザクに、クロヴィスは笑顔で頷いた。

「そして4日後、今度は藤堂にその合流地点に行ってもらう。こちらも付けられていた時のためだ。藤堂と合流ということは、騎士団の集まる拠点だと判断するだろう」

藤堂と四聖剣がいるのだからそれも嘘ではない。何よりここにはゼロもいる。
セシルは不安を覚えるだろうが、そこはラクシャータがどうにかするだろう。
何よりここにはスザクと、死者ではあるがクロヴィスも居るのだ。

「だから、それまでに別行動しても不審がられないような理由を作り、話を進めてくれ」

いきなり1日戻ってこなかった人間が、急に別行動する話を持ち出すよりも、より険悪な状況にし、自然と別れるような口実を作る方がいい。

「・・・そういうことなら、仕方ないな」

渋々という顔でC.C.は頷いた。

「とはいえ、皇女殿下や、その騎士団の方をそのまま放置してしまえば、いのちの危険があるのは目に見えて解っている。だから、できるだけ彼らを残しても大丈夫な環境を整えることも考えて欲しい」

例えば温泉。例えば食料となる物がある場所。例えば簡単な罠作り。

「険悪な関係とはいえ、彼らの死を望んでいるわけではないだろう?騎士団の方はともかく、皇女殿下の方は、それなりの環境を用意しなければ、セシルさんが離れるのを拒否する可能性が出てくる」
「ああ、それはありそうねぇ」

いくら無碍に扱われても相手は皇族。
ヴィレッタと二人きりにするぐらいなら、自分も残ると言い出す可能性は高い。
だから、例えばラクシャータが魚を捕る罠を作ってみたと言い、設置してみる。
魚がかかるようなら、ヴィレッタでも簡単に捕まえられるということだ。
二人を残しても大丈夫だと、セシルを納得させる環境を用意するのだ。

「それと、定期的に彼らの様子を見に行ってもらうことになる。反省の色が見えるようなら受け入れも考えるべきだ」

その言葉に、全員あからさまに嫌そうな顔をした。
気持ちはわかるが、これは仕方のないことだ。
ブリタニアに属するスザクとセシルもいる上に弟であるクロヴィスもいるのだから、いつまでも放置できる相手ではないし、そもそも記憶が無い設定の一般市民のルルーシュが皇女の保護を進言しないのは無理があるのだ。
ちなみに、学生のルルーシュはヴィレッタという教師を知っているが、軍人のヴィレッタは知らないので、ここではまだ同姓同名の別人だと勘違いしている、という設定になっているし、万が一顔を合わせても既にヴィレッタはブリタニアを裏切っている身。下手なことはしてこないはずだ。
黒の騎士団の面々は・・・できれば放置したいが、見捨てるのは夢見が悪い。
それだけだ。

「まあ、その話は合流してから詳しく詰めよう」

今すぐ決めることじゃないからと、不愉快そうな顔を擦る面々に苦笑しながら言った。

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