いのちのせんたく 第66話


海と川の罠を回収し、温泉で汗を流したスザクは、足早にぶどう畑に向かった。
竹で組んだ棚に沿うように葡萄の木が蔓を伸ばし、青々と生い茂った葉の間から、見るからに美味しそうな紫色の葡萄が顔をのぞかせている。残念なことにこの品種は酸味が強いらしく、スザクは平気なのだが、ルルーシュとクロヴィスは直接口にすることはない。柑橘系を避ける猫のように、そのまま食べるスザクを見ると、酸っぱい味を思い出すのか眉間にしわを寄せるほどだ。
今は早朝といっていい時間帯で、この時間寝ているはずのルルーシュとクロヴィスが既にここに来ていて、熟した葡萄を選び、摘み取っていた。
二人共どこか眠そうな顔で、黙々と収穫している姿はどこか似ていて、ああやっぱり兄弟なんだなと思ってしまう。
・・・ルルーシュに言えば即否定されそうだから言わないが。

「ルルーシュ、クロさん、おはようございます」

声をかけると、二人共スザクに気が付き、おはようと返事を返した。
やはりその声もどこか眠そうだ。

「丁度良かった。スザク、その籠を運んでくれないか?」
「籠?どれ?」

それだ。とルルーシュが指差した場所に、山程の葡萄が入っている籠が置かれていた。籠は葡萄の蔓でルルーシュが編んだもので、思った以上に丈夫だから山盛りに入れても重さで底が抜けることはない。
なめしの作業は面倒だったが、どうにか一通り籠も作り終わったので、今度この蔓で草履を編んでみると言っていた。しなやかで丈夫なこの蔓なら、今の雑草で作った草履よりも強度が高いものが作れるだろう。

「どこに運べばいいの?」
「川原の方に運んでくれ。兄さんの籠もそろそろ一杯だから、あちらも頼む。それが終わったら、竹の切り出しに向かってくれ」
「わかった」

スザクは大きな籠を片手で抱えると、少し離れた所で収穫していたクロヴィスの所まで移動した。重さなど感じない軽やかな足取りだ。

「・・・あの量を片手で・・・いや、考えるな俺」

ルルーシュとクロヴィスなら両手で持ち上げることができるかどうか。
いや、二人で持ち上げられるかどうかだ。
そんな重さなのに、あっさりと持ち上げられるスザクがはっきりいって羨ましい。
全身にバランスよく、綺麗でしなやかな筋肉がついている上に、見た目以上の力を発揮する。男なら憧れる体の持ち主だ。健康的な肌の色も相まって、青空と太陽の似合う男だとつくづく思う。そんなスザクと自分を見比べると、色も白く貧相という言葉が当てはまるなとネガティブ思考に陥ったのは1度や2度ではない。
これだけサンサンと照りつける太陽の下で生活していれば、少しぐらい健康的な色になるはずなのだが、日焼けする気配は全く無かった。
・・・元々、赤くなるだけで日には焼けないのだが、ここでは赤くなることもない。
帽子もかぶらず作業をしても熱中症になることもないから、やはり常識では測れない何かが働いているのだろう。・・・考えるだけバカバカしい。
籠を担いだスザクを見たクロヴィスが、遠目からわかるほど驚いていて、やはりスザクが非常識なのだと、自分は標準なんだと納得し、再び視線を上に向けた。
最初は小さな粒ばかりだった葡萄も、剪定や間引きなど、試行錯誤を繰り返しながら手入れを続けた結果、ここまで見事な房をつけるようになった。
・・・成長が異様に早い事はこの際目をつぶっている。
どの葡萄も大きな粒が鈴なりになっており、瑞々しい。
酸味は強いが、美味しい葡萄だ。
残念ながらルルーシュの知識を総動員しても品種は判別できなかった。
雄の木と雌の木があるため山葡萄に近いが、粒が大きすぎる。
・・・現実には存在していない、俺達に都合のいい品種なのかもしれない。
それならば、もう少し甘みを持たせてくれれば、ジュースやジャムにも加工できるものを。この辺りの果物はりんごも含め酸味が強いものばかりだ。だから普段はこのまま食べることはせず、ソース・酢・ワイン・干し葡萄などに加工して使用している。
今収穫している分は、ワインに加工する予定だ。
収穫に適したものを選び、ナイフで収穫する。
新しい籠に次々と入れていると、スザクが川原から戻ってきていた。
早い、早過ぎるぞスザク。
ここまで徒歩で20分近くかかるというのに、あれだけの葡萄を2つ担いで10分以内に往復するなこの体力馬鹿が。

「まだ摘むの?」
「ああ。今と同じぐらいの量をとって、大量にワインを用意をしておきたい」

毎日は無理でもたまには酒を飲ませたい。
何より、魚や肉の臭み消しにワインは欠かせない。

「そっか。じゃあ僕はワインを作る為の竹を切り出してくるよ」

それなりの太さの竹が必要だが、拠点にあるのはルルーシュが加工しやすいサイズだけなので、もっと太いものを用意する必要がある。

「ああ、任せる。温泉の目隠しに使えそうな竹も見繕うのを忘れないでくれ」

そっちのほうが大事なんだからな。

「うん、わかった。終わったら戻ってくるから、その籠自分で運ぼうとしたら駄目だからね」

今は挫いた足を竹で固定して立つことが出来るようにしているが、長時間歩くことにも、ましてや重い荷物を運ぶのもその状態では無理だ。

「わかっている。こんな重いもの、お前に任せるよ」
「・・・ほんとに駄目だからね」
「理解ったから、行って来い。今日は忙しいんだぞ」
「・・・わかった。クロさーん、ルルーシュが重いもの持たないよう見張りお願いしまーす!」

遠くに離れたクロヴィスにスザクが頼むと、こんな重いもの普通は持てないとわかっているクロヴィスは、苦笑しながら手を降った。



こちらの三人は、まったりのんびり収穫中。

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