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今朝も大量の魚が罠にかかっていた。 海の罠には魚だけではなく、カニとタコまでかかっていている上に、網の中は大小様々な魚で溢れかえっていて、ケタ違いの捕獲量にさすがのスザクも「うわぁ・・・」と若干引いた声で呟いてしまった。これから人が増えることを考えれば、非常食が多いに越したことはないのだが、それでも多すぎるほどだった。 タコも含め魚は干し物にすることになり、クロヴィスはひたすら魚を捌いていた。捌く手つきは慣れたもので、最初の頃とは比べ物にならない速さで頭を切り落とし、ハラワタを取り除き、魚を開いていく。この生活でこの生臭さにも慣れたが、捌いても捌いても終わらない量に、少しうんざりした表情になっていた。 そこから少し離れた所で、スザクは洗った葡萄を竹筒に詰め、ひたすら潰している。 こちらもかなりの量なので、体力自慢のスザクでさえ額に珠のような汗をにじませ、タオルで拭きながら無心に作業を続けていた。 そしてルルーシュはというと、朝から動きっぱなしだったため、二人に休むよう仮眠室(竹製の箱)に押し込まれ強制的にお昼寝中。「俺も捌かないと間に合わないだろう」と暴れたが、スザクによる添い寝の前にはルルーシュの抵抗など無意味だった。 未処理の葡萄が残り1/3になり、ようやく終わりが見えてきたから一息つこうと手を止めたスザクは、川から飲水を引き上げた。 「クロさん、1回休みませんか」 「そうだね、少し休憩をしよう」 ふう、と大きな息を吐いたクロヴィスは、生臭くなった手を洗いに川へ移動した。 スザクは水筒をテーブルに置くと、椅子に腰を下ろし、テーブルの上に置かれた小さな籠に手を伸ばした。籠には朝食を作った時の残り火で焼いたくるみが積まれており、焼いた事で少し割れた殻にナイフを立て、スザクは次々割っていった。 朝は、ルルーシュが早朝から張り切って用意したお弁当をお腹いっぱい食べたのだが、体を動かすスザクはお昼まで持たないことが多い。 食べ物を保存する手段が殆ど無いこの場所では、小腹がすいた時はこうして木の実を食べている。リンゴやあけび、ぶどうや栗が主だ。 全て割り終わると、竹串で中身を穿りながら食べていく。 手を洗い終えたクロヴィスも戻ってきて椅子に座ったので、水筒の水をコップに注ぎ、それを渡した。 「ありがとうスザク。覚悟はしていたけれど、ここまで量が多いと大変だね」 冷たい水を口にし、ほっと息を吐いてから未処理の魚の山を見て眉を寄せた。 「昨日より捕れていましたから」 「そうだね、昨日の倍以上あるね。今後人が増えるにしても、今は私達3人しかいないのだから、もう少し加減してほしいものだ」 3人で食べるなら中型が3匹、大型なら1匹居れば十分事足りる。 3食魚を食べたとしてもその3倍。 取れた魚はそれを遥かに上回った。 「これでも、かなりリリースしたんですけどね・・・」 大漁にも程があると、引き上げてすぐ、魚が弱る前にかなり逃がしてこの量なのだ。 良型は逃がすには惜しくて全て持ってきたが、もう少し減らすべきだった。 「・・・これより多かったわけだね」 「・・・はい」 なるほど、大物ばかりだと思ったよ。 クロヴィスは苦笑したあと、大きく息を吐いた。 ルルーシュが目を覚ます前に少しでも片付けたいと思うのに、まだ40cmクラスの大物が3匹、中型が7匹残っている。タコとカニも手付かずで、逃げないよう籠の中に入れられていた。葡萄の処理もまだかかる。 こんなに大漁なら先に言え!葡萄をその分減らしたんだぞ!とルルーシュに文句を言われたが、まさかここまで葡萄を収穫するとスザクも思わなかったのだから仕方がない。・・・と思う。思わず反論しかけたが、言ったら最後「葡萄を収穫したのは俺だ!だから俺が全部処理する!」といって引かなくなると気づき口をつぐんだ。 スザクでさえこれだけ疲れる作業をルルーシュになんて無理だ。 あの時我慢した自分褒めたい。あ、ルルーシュが起きた時に終わっていたら褒めてくれるかも?と思い、視線をルルーシュに向ける。 眠って1時間以上経ったが、熟睡していて起きる気配は無さそうだ。 「朝から動いて疲れていたのだろうね」 本人には判らなくても、体は疲労に正直だ。軽い疲れならすぐに目を覚ますし、疲れていたらこうして何時間でも眠り続ける。だから、この生活においてルルーシュの昼寝は重要で、調子の善し悪しはこれで大抵判断できるのだ。 「ここに来てだいぶ経ちますが、ルルーシュの体、全然治ってないですよね」 ここでは、ブリタニアの捨てられた皇子でも、テロリストのゼロでもない、ただのルルーシュとして生きている。スザクとは敵同士ではなく、死に別れた兄もいる。ルルーシュには悪いが、彼を縛り付けていた体の不自由なナナリーはここにはいない。戦争はなく、争いもない穏やかな日々。何のしがらみの無い生活でいくらかでも改善しそうなものだが、ここではここのストレスがあるから難しいのだろうか。 それとも、あの優秀な脳は、今も戻った時のことを、ゼロとしての思考を巡らせ、ナナリーを取り戻す策を練り続けているのだろうか。 「回復に向かっているとは思いたいが・・・せめて痛覚が戻ってくれれば、いくらか安心もできるのだがね」 「そうですね」 調理中の火傷にも気づかず、植物の棘や下処理中の魚の骨にもきづけない。だからルルーシュの手は気がついたら怪我をしている。それらの手当をしながら、指先の痛覚だけでも戻ってくれればと、何度思ったことか。 ラクシャータが来ることで、少しは改善すればいいのだが。 カップを傾け水を飲み干したスザクは、食べ終わった胡桃の殻を片付け席を立った。 それから1時間ほど掛けて全ての葡萄を潰し終え、竹筒にしっかりと封をし、たっぷりと葡萄の果肉が詰め込まれた筒を纏めて担ぎ上げると、いつもワインを熟成・保存している場所へと運んでいく。拠点の洞窟の直ぐ側に、人一人が屈んで入れるかどうかという高さの洞穴があり、そこにこの竹を置いて入口を石で塞いでおくのだ。普段は竹筒1本分しかワインは作らないのだが、今はそこに大量の竹筒が積み上げられていた。熟成が終わった後は漉して保存しているが、すべて藤堂たちが飲んでしまったため、調理に使うワインが少量あるだけだ。 最後の1本も無事穴の中に収まり、入り口を塞いだ。 入り口を塞ぐのは、小動物に荒されないためのと、温度をより低く維持するためだ。 そこまで終えスザクは立ち上がると体を伸ばして、疲れた筋肉をほぐした。既に何度も行った作業ではあるが、こんなに沢山作ったのは初めてで、流石に疲れた。 ここまでの量を用意する必要は無い気もするのだが、ルルーシュが作るというのだから文句は言えない。 次は魚を捌かないと。汗を拭いながら、スザクは川原へと駆け戻った。 スザルルクロ組は保存食を作っている。 →クロヴィスは魚をさばいている。 →スザクはワインを作っている。 →ルルーシュは眠っている。 カニとタコはクロヴィスには処理できず、手付かずだ。 食べ物を粗末にするとルルーシュが怖いので二人は必死に処理している。 そんな感じ。 |