|
青い空、白い砂浜。 そして太陽のようなさわやかな笑顔で、鍛えぬかれた肌を晒した、この景色がやけに似合う男。 「よーし、大物を取ってくるぞ!」 力強く放たれた言葉に、はっと我に返った。 「って待てスザク!!これ以上食料はいらん!むしろ増やすな、この馬鹿!!」 ちょっと目を離した隙に全裸になり、元気いっぱいの笑顔で銛を手に海にはいろうとしたスザクをルルーシュは慌てて引き止めた。 突然真横に全裸の親友が現れたため思わず現実逃避してしまったが、この男の漁を認める訳にはいかない。 「え?なんで?」 海に向けて駆け出していたスザクは足を止め、心底不思議そうな顔で首を傾げると、椅子に座るルルーシュの元まで駆け戻ってきた。その顔は本当に解っていないという顔だった。 「なんでじゃない!昨日のあの大漁の魚を忘れたのか!魚が多すぎるから、昨日は罠も仕掛けなかったんだろうが!!」 これ以上増やしてどうする気だお前!! やっと処理が終わったのをもう忘れたのか、この馬鹿が! 「うん、そうだね。でもせっかく海に来てのんびり過ごすんだから、とれたての海の幸でお昼ごはん、食べたいよね?」 そう言いながら小首を傾げるスザクに、いつから今日はのんびり過ごす事になったんだとルルーシュは呆れたようテーブルをコンコンと叩いた。 「別にここでのんびりするつもりはない。明後日には藤堂たちが来るんだからな」 「そうだけど、竹も切り出したし、ロープの準備は昨日もやったし、今日の夜もやるんでしょ。食べ物もあるし、あとは藤堂さんたちが来てからやればいいじゃないか。そのほうが絶対早いと思うよ?なら、今のうちにのんびりしようよ、ね?」 僕達ずっと頑張ってきたんだしさ、休日は大事だよ? にこにこと小首を傾げながら言うのだが、その姿は全裸だ。 ルルーシュは思わず額に手を当てた。 自分の薄い体とは違うその厚みのある肉体は、流石スザクだよく鍛えていると思うほど逞しい。だが、いくらその筋肉に自信があったとしても、全裸で腰に手を当てて堂々と目の前に立たれているこちらの身にもなってくれ。どう扱っていいか悩むだろうが。 「どうしたの?辛いの?また目眩?だめだよ、ほら体を暖かくしなきゃ」 慌てたスザクはルルーシュに防寒用に持ってきたラウンズのマントを羽織らせた。 椅子に座ってるから足元冷えるのかな?と、荷物をガサゴソとあさりだし、念のため持ってきたバスタオル類を引っ張り出してきて、それをひざ掛けの代わりに載せた。 「違う!ああ、もういい、わかった。どうせなら普段食べない海産物を取ってこい」 網で取れないものをな。 「イエス・ユアハイネス」 ルルーシュの了承に、スザクは砂浜に膝を着き、嬉しそうにそう返した。 何度も言うが全裸だ。 青い空に心地よい海風、そして白い砂浜。 美しい景色だと素直に思える。 そこに逞しい肉体を持つ軍人が全裸で膝を着き、さわやかな笑顔で答えるのだ。 どれほど滑稽か、おそらく当の本人は理解ってないだろう。 もしかして馬鹿にされているんじゃないだろうか。 「・・・なあスザク、お前もしかして殴られたいのか?」 それは皇族に対するものだろうが! ルルーシュは思わず拳を振り上げた。 「え?暴力反対!」 スザクは慌てて後ずさると、海へ向かって駈け出した。 「じゃあ、貝とかウニを採ってくるからね!」 「あまり深く潜るんじゃないぞ!」 「わかってるよ!」 そういうと、準備体操もせずにスザクは海へと飛び込んだ。 「あの馬鹿が!足でも釣ったらどうする気だ!!」 物凄い速さで海岸から離れていくスザクに怒鳴りつけた後、ルルーシュは疲れたというように大きく息を吐いた。 「本当にスザクは元気だね」 クスクスと笑いながら言うのは、向かいの席に腰を下ろしているクロヴィス。 先程まで居なかったのに、いつのまにやら散策から戻ってきていたらしい。 生前ならばスザクのあんな姿を見れば、なんて無礼な!貴様、この私を愚弄する気か!その者を軍事裁判にかけよ!とでも言って、スザクに重い罪を言い渡し二度と日の目を見れない状態にしていたはずだ。下手をすれば処刑されているだろう。 そのクロヴィスが笑顔でスザクの行動を流している。 人間丸くなるものだな・・・既に死んだ人間ではあるが。 木陰に用意されたテーブルをはさみ、殺した者と殺された者が椅子に腰を下ろして、美しい海原を静かに見つめた。 遠くに見える水平線には他の島影など見えず、この島に生息している海鳥たちも、この島から離れること無く周辺を飛び回るだけ。 自然とは言い難い島ではあるが、今は素直に美しいと思えた。 時折、スザクが浮上する姿が波間に見える。 「あいつは元気ですよ。・・・軍なんて場所にいなければ、ですが」 規則に縛られた軍などという場所よりも、こうして自由にのびのびと生きている方がスザクには似合う。暗い場所よりも明るい場所が似合う男だ。 「だが、あれだけの身体能力を生かすなら、やはり軍ではないかね?」 これだけの能力を眠らせておくのは惜しいんじゃないかとクロヴィスは言った。 「それは、世界各国で戦争が行われているからでしょう。戦争がなくなれば、昔のようにスポーツ選手として、そうですね、オリンピックでもこの能力を生かすことだって出来ますよ」 「オリンピック?」 何だねそれは? クロヴィスは首を傾げてルルーシュに尋ねた。 「ブリタニアが侵略戦争を始める前まで行われていたスポーツの祭典です。運動能力の高い者たちが集まり、陸上や水泳、あるいは剣術、球技など様々なスポーツでどの国が一番かを競い合うんです」 「そんな祭典があったのかい?」 クロヴィスが幼い頃には最初の戦争は始まっていたから知る機会は無く、ブリタニアが世界統一を果たせばそもそも各国が競う祭典などする意味もない。だから知識として教えられることも無かったのだろう。 興味津々という顔で、クロヴィスはルルーシュに続きを促した。 「ええ。戦争が始まるまでは4年に1度、夏と冬に開催されていました。スザクなら・・・幼いころ武術を習っていましたから、剣道や柔道、足も早いので陸上競技の代表にもなれたでしょうね」 こんな海でも恐ろしいほどの速さで泳ぐのだから、水泳もいけたのかもしれない。 これだけの身体能力があればスポーツの世界で名を残せただろう。 「足の速さも競うのかね?」 「ええ。100m、200mとそれぞれの距離で競います。10000mもありましたね。他にも高飛びや幅跳び、やり投げやハンマー投げなど、陸上競技は種類が豊富ですよ」 「それを国ごとの代表が競う・・・それは楽しそうだが、ブリタニアに勝てる国があるとは思えないね」 「ちなみに、スザクは日本代表になるでしょうから、スザクに勝てる人物を用意する必要がありますよ?」 ブリタニアの軍人、更に言うなら皇帝の騎士だからブリタニア側にカウントされていそうだったので注意すると、そうなのかい?とクロヴィスは心底驚いたような顔をした。 「スザクは名誉ブリタニア人だから、ブリタニア側じゃないのかね?」 「戦争がなければスザクは今も日本人ですよ」 戦争がないから開催されるオリンピック。 戦争がなければ植民地に、エリア11にはなっていない。 つまりスザクは軍人にならない。 だから日本代表です。 スザクのあの身体能力を日々目の当たりにしているクロヴィスは眉を寄せ、それはなかなか厳しいねと苦笑した。 「だが、ぜひ見てみたいものだ」 「そうですね、戦争が終わったら、ぜひ復活させて欲しいですね」 戦争が終わったら。 ブリタニアが世界を支配するか、ブリタニアが崩壊するか。 そのどちらかで戦争は終わる。 そしてオリンピックの開催はブリタニアの崩壊を意味している。 楽しく語られていた会話も自然と止まり、二人の視線は海原へ向かった。 自然の海岸であればうるさいはずの潮騒もない、不自然な海岸。 穏やかで暖かな空気が流れるその場所でさざ波の音を聞きながら、ルルーシュはこの場所に長くいればいるほど、戦争を終らせる事は困難になるとわかっていても、今の時間を捨てがたく感じている事に、小さなため息を吐いた。 ルルーシュはスザクが海で泳いでいるのを見るとオリンピックを連想するらしい。 どこかで書いた気がして今ざっと調べたら<いのち>の10話で書いてたんだねという話。 |