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「ルッルーシュっ!見て!これ見てよ!!」 「何捕まえてきてるんだこの馬鹿スザク!!早くリリースしてこい!!」 ものすごいハイテンションで海から戻ってきたスザクが手にしていたのは、目を疑うほどの長さの蛇のような生物だった。 黒光りしたそれがスザクの腕に絡みついてウネウネと動いており、思わず目眩がした。 「えー、せっかく捕まえたのに。それより、これ何?食べれる?」 光沢のある身体をうねらせスザクの腕に絡みついているそれは、凶暴な牙でその腕に噛み付こうとするのだが、スザクは野生の本能でそれを嗅ぎつけ反射神経だけでいなしていく。顔はにこやかな笑顔、腕はグロテクスな生物との攻防戦。何だこの状況はと思考が止まりかけたのは仕方がないことだと思う。 近くの岩場で、海岸に流れ着いていた昆布を集め、干していたクロヴィスなど、その様子に硬直しており「クロさんも見て下さいよ!」と、楽しげに大物自慢をするスザクの呼びかけに、ブンブンと首を降っていた。 遠目からでも血の気が引いていることがよく分かる。 「・・・スザク、とりあえずだ。よくわからないものなら捕まえてくるな」 「え?でも、僕は知らなくても君なら知ってるだろ?」 小首を傾げながら、スザクは「それともルルーシュでも解らないの?」と言ってきた。 「たしかに知っているが、中には毒を持つ生物もいるんだ。特に海の生物は危険なものが多い。知らないのであれば、無闇やたらに捕まえようとするな」 無害に見えて毒を持つものは多い。 しかも、人間をほんの一刺しで殺せるほどの毒を持つものも、海の中には潜んでいるのだ。特に小さな生物は危険で、知らないのであれば触ってはいけない。 「ああ、そうだね。でも、これは毒がないんだろ?」 「どうして分かる?」 「だって、君が慌ててない。もしこれが有毒なら、そんなに平然とはしていないだろう?」 だから、見た目は凶暴だけど毒はないってわかるよ。 にっこり笑顔で断言されれば、こちらはもう呆れて溜息をつくしかない。 「スザク、それはウツボだ。牙が鋭いから噛まれないようにしろよ。・・・そうだな、一度に食べるには大きすぎるサイズだから、半分は持ち帰るか」 どう考えても2mはあるから、いくらスザクでも食べきれないだろう。 やっぱり食べれるんだと、スザクは嬉しそうだ。 うねうね動いて噛み付こうとするのをいなしながら、スザクは地面に転がっている石を手にし、ガツリと一発入れてウツボを締めた。食べれなかった時はちゃんと海に逃がすつもりだったのだろう。先ほどとはうって変わり、だらりと力なく垂れ下がったウツボを抱えてスザクは戻ってきた。 「で、これってどう捌けばいいのかな?」 「俺が捌く。以前ウツボの捌き方が載った『近海に住む魚の捌き方』という本を読んだことがあるからな。骨の位置も全て把握している」 「ルルーシュが捌くの?でもこれ、大変だと思うよ?」 なにせ巨大だ。 本来のウツボは1mあれば大物だというのに、これはその倍。だから最初は何なのかわからなかったのだ。この島の生物は通常よりも妙に大きい気がする。ろくな外敵がいないのに生育が早いことが原因か、他に何か理由でもあるのか。 ・・・海洋生物か。 何か海の中に本来と異なる物、つまりこの島の謎を解く何かがある可能性は否定出来ない。とはいえ、海に潜るのならば体調を万全に整える必要がある。 長時間潜れるよう道具を用意して・・・いや、今は調査のことを考えるのはやめよう。優先して処理スべきことは他にもあるのだから。 スザクが細い竹を何本も並べて縛った板状のものを運んできた。 巻き簾のようなそれは、大きな魚類をさばくときに使用しているまな板だ。その上にうつぼを置く。 「スザク、後は俺がやる。お前は一度戻って風呂に入って来い。そして、戻ってくるときに、醤油とパン粉と鶏油を持ってきてくれ。鶏油は大きな竹筒に入っている方だ。それと大鍋もな」 「わかった。だけど、何を作るの?」 「寄生虫の関係が怖いから刺し身は流石に無理だからな。まずは、唐揚げにしよう。残った分は拠点に戻ってから煮物にする」 「唐揚げ!?」 目をキラキラとさせながらも、驚いた顔をしているのを見て、そういえば、ここで揚げ物は作ったことがなかった事に気づいた。スザクはハンバーグや唐揚げが好きだ。この喜びようなら、かなり食べるな。 「ああ、だから足りない材料を取ってきてくれ。野菜や卵は持ってきているから」 「わかった!醤油と大きな竹の油と、えーと・・・」 「パン粉と大鍋だ」 「醤油と油とパン粉と大鍋!」 「そうだ、行ってこい。風呂も忘れるなよ」 「わかってるよ!」 スザクは衣類を手に、着替える時間も惜しいというように拠点へと駆け戻った。 「・・・いくら俺たちだけとはいえ、服を・・・せめて腰にタオルを巻いてからいけ」 羞恥心はないのか羞恥心は。 呆れながらもスザクの後ろ姿を見送ったルルーシュは、視線をウツボに向ける。 目を疑うほどの大きさのグロテスクな姿が視界一面に横たわっていた。 これを捌くのか。 間違いなく大仕事だなと、念のため持ってきていた工具箱をあさり、キリと金槌を取り出すと、まずは目打ちをした。 この話のスザクは最初から最後まで全裸です。裸族です。 ルルーシュは次に衣類が手に入る機会があるなら、スザクの水着がほしいと思っているに違いない。 |