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「なんだ、お前はそんなことも出来ないのか。さすが口だけ女、セシルがいなければ何にもできないんだな」 C.C.が嘲笑うと、ヴィレッタは面白いほどあっさりと顔を紅潮させた。 「私が無能だと言いたいのか?」 「無能だろ?実際にあの学園では全くの役立たずじゃないか」 クスクスと笑いながら放たれた言葉に、ヴィレッタの表情が固まった。 C.C.はこの生活を始めてからヴィレッタがゼロ側に落ちている・・・脅迫されたからとはいえブリタニアを裏切っていることを誰にも伝えていなかった。それを口にすればこの立ち位置など一瞬で覆ることは明白だったが、あえてその話題は出さなかった。 切り札は最後まで持っておくものだからな? にたりと魔女の笑みで笑うC.C.から思わず一歩後退った。 そう、ゼロだけではなくこの女も知っていたのだ、自分がブリタニアをすでに裏切っていることを。そのことをすっかり失念していたヴィレッタは動揺し、狼狽えた。 警戒すべきだった。 この外見に不釣り合いなほど老齢したこの女がまるで誘うように自分を見、馬鹿にするように笑ったことに腹を立て、つい誰もいないこの場所まで誘い出されてしまった。 ルルーシュもこの女も、ゼロの記憶が戻っていることを知られたくないはず。ならばこちらはそれを条件にだし、立場を同じにするべきだとヴィレッタは考えたのだが、目の前の少女はそのヴィレッタの思考に気づいたかのようにニタリと口元に笑みを浮かべた。 あのゼロの愛人と呼ばれ、皇帝が学園一つの人員を入れ替えるという荒業を使ってまで罠を用意し捉えようとしている相手。不老不死の魔女。見た目通りの小娘だと思って相手をすれば痛い目を見るのは明らかだと、ヴィレッタは思わずゴクリと固唾呑んだ。 まだ成人から程遠い少女だというのに、ただそこに立ち口元に笑みを浮かべているだけで、恐ろしい。 「学園でも無能、ここでも無能。お前本当に取り柄のない女だな。・・・いや、一つだけあったか、男に取り入るのが上手かったな。しかも敵の男に」 ルルーシュの記憶がカードとして使えるのは、枢木スザクや皇帝側の人間に限られている。もしここで言ったとしても、衝撃をうけるのはコーネリアだけだし、何よりここにはそのゼロであるルルーシュがいない。切った所で意味が無い。 だが、C.C.のカードは今ここで絶大の威力を発揮する。だからヴィレッタの葛藤など全てお見通しな上で、C.C.はさらに言葉を重ねた。 「たしかにお前はいい体をしているからな、さぞ扇は喜んだだろう。だが男の欲情を誘う体があったとしても、ここでは意味が無いなぁ?」 なにせこの場所には女しかいない。 ゼロであるルルーシュが知っていたのだから、C.C.がヴィレッタと扇の関係を知っていてもおかしくはない。これは2枚目のカード。 ゼロと通じ、黒の騎士団の副司令と関係を持った。 ニヤニヤと笑う少女はもしかしたらまだ複数のカードを持ってるのかもしれない。ヴィレッタは額から流れる嫌な汗を手の甲で拭うと、覚悟を決めた。 「・・・で、私にどうしろというんだ?」 カードを晒すのだから、それに見合った何かを要求してくるはずだ。 だが、C.C.は何の話だ?と言うように首を傾げた。 「別に私はただ事実を口にしただけだ。他愛もない雑談だろう?そんなに青い顔をしてどうしたんだ?汗もひどいな、そんなに今日は暑いか?」 私は快適だぞ?と、涼しい顔でC.C.は言った。 何が目的なんだとヴィレッタはひたすら考えた。この生活に飽き、変化を欲してそれらの情報を周りにバラそうとしているのだろうか。目的が判らず、不気味な少女の笑みにますます汗が流れ落ちた。 「ヴィレッタは口だけ女だが、セシルは有能だな。料理の腕は最悪だが、文句ひとつ言わず、口だけ女の馬鹿げた文句にも頭を下げ、私達にも頭を下げ、皇女様を守っている。お前のように口だけで守ってるふりをしているのとはわけが違うなぁ」 「そんなことはない!私は」 「食料を口にできるのは誰のおかげだ?」 否定の言葉に、C.C.は表情を消し言葉を紡いだ。 楽しげだった声からも感情がごっそりと抜け落ち、それが恐ろしく感じられた。 「あ、あれは」 「温泉に入れるのは誰のおかげだ?水を口にできるのは誰のおかげだろうな?」 ヴィレッタの発言は無視しC.C.は言葉を紡ぐ。 自分のおかげだなどとヴィレッタは口が裂けても言えないだろう。それを知っているからこそC.C.は無表情のまま続けた。 「全て私達黒の騎士団のおかげ。そしてそんな私達に頭を下げ、皇女を守るセシルのおかげ。そのことにあのコーネリアが気づいたら、お前はどうなるんだろうなぁ」 口だけ女のおべっかに騙されて、本当の忠臣が誰か見失っている皇女も、真実を知ればお前のことをどう扱うのか、見ものだな? 無表情から一転、クスクスと嘲笑うC.C.にヴィレッタは初めて恐怖を感じた。この女は不老不死だと聞いている。だが、この恐怖はそれとは別のもの、いや、不老不死という異形のものだからこその恐怖なのかもしれない。顔を青ざめ、僅かに震えるヴィレッタをその場に残し、C.C.は川原へと戻っていった。 |