いのちのせんたく 第77話


朝の散策を終えて川原へと戻ってきたスザクは、視界に入った姿を見て一瞬で血の気が引いた。
そこには、昨日一日自力で動く事ができなかったはずのルルーシュがいて、何事もなかったかのように川原の釜戸を使い朝食の準備をしていたのだ。

「ルルーシュ!起きたら駄目だろう!!」

慌てて駆け寄ったスザクは、間近で見たルルーシュの姿に不愉快そうに目を眇めた。ルルーシュの髪はしっとりと濡れていて、肌がほんのり赤くなっているから、少し前に温泉にも入ったようだ。
昨日は熱が出て体を動かすことさえ出来なかったのに、少し動けるようになったらこれだと、スザクは眉を寄せて説教するぞ!お仕置きするぞ!無理やり眠らせるぞ!という顔をしながら傍に寄ったのだが、ルルーシュがかき回した鍋を覗き込んだ瞬間、その怒り顔はきょとんとした顔に一瞬で変わり、怒鳴ることを完全に忘れてしまったようだ。
そんなスザクに、ルルーシュは思わず吹き出した。
驚くだろうと思ってはいたが、ここまでとは。
予想以上の反応に、ルルーシュは楽しげな笑顔でスザクを迎え入れた。

「ねえルルーシュ」

きょとんとしたままの表情でスザクは、調理用の小さな椅子に腰掛けているルルーシュの隣にしゃがみ込むと、鍋の中をのぞき見た。
まるで犬のようにクンクンとその香りを確認している。
そして見間違いじゃないよねと目をごしごしと擦った。

「なんだ?どうかしたのかスザク?」

鍋をかき回し味を見たルルーシュは、よし完璧だと言った後片手鍋を火から下ろした。これ以上火にかけたら風味が飛んでしまう。

「スザク、これをテーブルに運んでくれないか?」
「う、うん。ねえルルーシュこれって」

蓋を閉められた片手鍋をテーブルの鍋敷きの上に乗せたスザクは、それが何かを聞きたがっているがルルーシュは気づかないふりをして、フライパンを火にかけ油を引いた。その手には生卵。個別の容器に割り入れ、昆布出汁を入れながら手早く伸ばしていく。

「スザク、兄さんを起こしてきてくれないか?冷める前に食べてしまおう」

手早く出汁と混ぜたそれを温まったフライパンに流しこむ。そしてあっという間に美味しそうな卵焼きが完成した。スザクはよく食べるから、これだけでは当然足りない。再びルルーシュはその手に卵を取った。今度は出汁だけではなく予め刻んでおいたベーコンも混ぜる。じゅわっと音を立てて流し込まれた卵とベーコンの美味しそうな香りに、スザクの喉がゴクリとなった。

「わかった、すぐ戻るから!」

スザクは慌てて駆け出していった。
その後ろ姿をルルーシュはクスクスと笑いながら見送る。

「やれやれ、そんなに嬉しいものなのか?日本人の感覚はよくわからないな」

2つ目の卵焼きを完成させると、今度はそのフライパンに一昨日干した魚の切り身を3つ乗せ火にかける。まだそんなに水分は飛んでいない一夜干しに近い魚の切り身から美味しそうな匂いが漂い始めた。
視線を洞窟に向けると、クロヴィスの歩行速度では遅すぎるとでも言うように、スザクはまだ寝ぼけているクロヴィスを背負って戻ってきた。
予想通りだとルルーシュはほくそ笑んだ。
漬物は既にテーブルの上。
簡単なサラダも用意済み。

「これで米があれば完璧なんだが、そこは諦めてもらうしか無いか」

残念ながら今日の主食は芋餅だ。
パンやパスタよりは合うだろう。
昨日の夜、クロヴィスに下ごしらえをしてもらった芋餅に串を刺し、醤油をたっぷりと塗って釜戸の側に差して並べる。
半分寝ているクロヴィスを椅子に座らせ戻ってきたスザクに、焼き上がり切り終わっただし巻き卵を運んでもらい、魚の焼き加減を見る。いい感じだとそれらも皿に乗せスザクに渡す。芋餅からも香ばしい醤油の香りが漂い始め、柔らかく焼き上がった。

「よし、完成だ。スザクこれも頼む」
「うん、判った」

先程までは、昨日動けなかったのに、ちょっと具合が良くなったからって勝手に動くな!という顔をしていたくせに、今はそんなことはすっかり忘れてキラキラと幼い子供のような嬉しそうな顔で、いそいそと朝食の準備を手伝っている姿に、現金なやつだと笑ってしまう。
だがこれでスザクも納得する味ならば、カレンや藤堂達も喜ぶだろう。
そう思いながらルルーシュはテーブルに移動し席につくと、この生活で初めて作った味噌汁を器に注いだ。





ルルーシュは大豆を発見し、こっそり栽培。
スザクを驚かせようと内緒で味噌を作成していたが、麹がないため今まで何度も失敗。今回ようやくそれらしい試作品が作れたので試食。
芋餅に使った醤油も味噌を作った時のもの。

絶対この生活で味噌汁用意されたらスザクのテンション上がると思うんですよね。

これからお味噌と醤油は量産されるはず。
大豆も沢山栽培されて枝豆や豆料理だけじゃなく、豆腐、豆乳、おから、あんこと色々活用されるけど、納豆だけは絶対に作らない!と納豆食べたい派(当然スザク、藤堂、カレンの三人)に宣言する姿が目に浮かぶ・・・。
そしてこっそり納豆作ってルルーシュに怒られる三人とか。

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