いのちのせんたく 第78話


どこか晴れやかな顔をした仙波と朝比奈。
その二人を従えた真剣な表情の藤堂。
その向かいにはどこか怯えたように肩を落とした扇たちがいた。
今までの強気な姿はそこにはなく、身体を小さくし捨てないでくれとい言いたげな視線を向けてくるのだが、もう手遅れだった。藤堂たちはとうの昔に限界を感じていたし、今日という日に備えて色々と準備もしていた。
いまさら哀れな羊のふりをして同情を誘った所で意味は無い。
だが扇たちはそのことに気づかず、藤堂たちがここを立つ前に考えを変えさせようと縋るような態度を取り続けていた。その姿を哀れんだり同情する気持ちは無いが、もしそんな素振りをしたものなら扇たちはそこを突いて、こちらの気持ちを変える切っ掛けにしようとするだろう。
だから藤堂は最後の話し合いだけをすると、凪いだ気持ちで三人を見つめていた。
藤堂の方からそれらしい言葉が出てこないことに慌てた扇は、わずかに声を裏返しながら話しかけてきた。

「あ、な、なあ藤堂、俺達が確かに悪かった。これからは気持ちを改めて、みんなで協力してこの場所で生き抜く努力をする」
「そうだぜ、三人で行動するよりやっぱ六人だろ。生き残る確率も倍いたほうが格段に上がるんじゃねーか?だからよ、男六人力を合わせて、な?」
「ここで感情的になってこの拠点を離れるよりも、ここで俺たちと暮らすほうが絶対いいと思う。なにせここには川もあるし、温泉もあるんだしな」

だよな?というように三人は顔を見合わせ強張った笑いを浮かべたが、藤堂が一切反応を示さないため、乾いた笑いを発した後再び静かになった。

「ここに並べているのは、この拠点に最初からあった物だ」

飯盒や寝具は各自のものだからいい。
だがそれ以外のものは半分に分けるべきだと藤堂たちは主張していた。

そうして並べられたものは
ヤカン、サバイバルナイフ3本、ファイヤースターター、鉈1本、救急箱、裁縫道具。
そしてそれらが入っていた木箱が4つとリュックが一つ。

「まずはナイフから分けよう。これは3本あるからまず1本ずつ」

そういうと、藤堂はナイフを手に取り、1つを朝比奈に、1つを扇に渡した。
本当に分けるのかという眼で扇はナイフと藤堂を交互に見たが、藤堂の意志が変わる気配はなかった。俺たちを捨てて自分たちだけで生きようなんて。フツフツと怒りが湧いてきた扇は、憎々しげに藤堂を睨みつけると手渡されたナイフを南に渡した。

「出て行くのはそっちの勝手だ。そのせいでこちらの物資が減るなんておかしい」

どうせいなくなるのであれば、できるだけこれらのものは手元に残しておきたい。
敵意をむき出しに怒鳴るように言った扇に驚いたのは玉城と南だったが、扇は後ろの二人の戸惑いなど無視し、話を進めていった。

「そうか。では、そちらに選択権を渡そう。まずはは何を取る?ああ、木箱は4つあるから2つに分けよう」

そう言いながら朝比奈に視線を向けると、朝比奈は箱を2つ自分の側に置いた。
これに寝具や飯盒を入れて持ち運ぶ事になっていた。
箱2つを積み上げ、竹2本を底に固定し、二人で担ぐ。今の状況では箱も貴重な物資だし、ルルーシュに頼まれた物もかなりの量になったので、それらも入れて運びたいのだ。木々などに邪魔されるため運ぶのは大変だろうが、何度か往復した道のりを思い浮かべた限りではどうにか運べるはずだった。

「じゃあその火起こしはもらう」

反対の声が上る前にと扇はファイヤースターターを手早く取り、玉城に渡した。
この生活で火は必需品。
自力で火を起こすにはとてつもない労力が必要だが、藤堂たちはこの道具でいつも簡単に火をつけていた。使い方はわからないがそう難しくはないだろう。
これだけは譲れないと睨みつけてくるので、藤堂は当然の選択だなと頷いた。

「いいだろう。ではこちらはリュックを貰おう」

荷物を運ぶのに重宝するからなと、リュックを手に取るとそれを仙波に渡した。
そして藤堂はざっと残ったものを見た。

「救急箱は中身を分けよう。仙波、中を南と確認して分けてくれ。そうだな、こちらに多めに残していこう。我々の分はリュックに入れておいてくれないか」
「わかりました。南、分けるからこちらにこい」
「あ、ああ」
「南、ちゃんと確認するんだぞ。出て行くやつらに多く持たせる必要はないからな」

扇に強く言われ、南はわかったとだけ答え仙波と少し離れた場所へ移動した。

「次は刃物だが、ナイフと鉈か・・・ふむ」
「ナイフはこちらでもらう」

扇はさっと手を伸ばしナイフを掴んだ。
この生活で鉈は殆ど使われず、ナイフを皆使っていた。

「ならばナタをもらうか。まあ、ないよりはましだろう」

殆ど使われていなかったナタを手にした藤堂は、それも朝比奈に渡した。
朝比奈は、扇が相談もなく次々選び取る姿に不満を感じているようだが、不愉快そうな顔をするだけで口は開かなかった。

「あとはヤカンと裁縫道具だが」
「ヤカンだ。それはこちらでもらう」

裁縫道具は今まで開かれることもなかった。だがヤカンは毎日飲み水を作るため使っている。これは譲れないと扇はヤカンも取ると玉城に渡した。

「仕方がないな、離れるのは我々だ。では裁縫道具はこちらで貰おう」

これで全部だなと確認をし、道具の分配を終えた。
扇は「やった、こちらに大事なものは全て来たぞ」と自信満々の笑みと、そんな道具だけでは大変だろうという嘲りを込めた視線を向けてきたが、藤堂は視線を逸らした。
救急箱の中身も無事分け終わり、リュックに裁縫道具と竹の水筒を詰め込みながら藤堂は恐ろしいな、と考えていた。

扇はこちらも欲しかっただろう物を全て手にしたと思っているだろう。
だが、それは勘違いで、事実は全くの逆だった。
藤堂はルルーシュに言われた通りに行動を起こし、ルルーシュの望む結果を手にいれただけにすぎない。
ルルーシュが確実に持ってきて欲しいと言っていたもの。
それはあちらの拠点にはない鉈と裁縫道具だった。
特に裁縫道具は最重要アイテムだと力説された。
針があれば衣服の修繕は当然にしても、釣り針に加工もできる。どうしてそんなに良い物を持っていながら使っていないんだと心底不思議そうな顔を向けられたものだ。
だからこちらの状況を説明すると、ならば普段使っていないそれらを扇たちが選ぶことはないから、あちらには欲しいものを選ばせ、余ったものを仕方なく受け取る素振りをすればそれだけで十分だ。なに、その状況を作るのは簡単だ。順番さえ間違わなければ、何もしなくてもこちらが欲しいものが転がり込んでくる。
たしか日本ではこう言うのだろう?

「・・・残り物には福がある、か」
「藤堂さん?」

俺達の勝ちだと喜んでいる扇たちから少し離れた場所で出立の準備をしていた藤堂は、思わず考えていたことを口にしてしまい、こちらを伺っている仙波と朝比奈になんでもないと笑顔で頷いた。

「そうですか?でも、あちらの言う事を100%飲む必要なんて無かったのに・・・」

こちらに来た物が普段使わないものだからか、朝比奈は不満気だった。
仙波もなにか言いたそうだが、藤堂の判断ならば従うという顔だ。
こちらがこの様子だから、扇たちに気づかれる心配はないだろう。
なかなか離れようとしないだろう扇たちに道具分けで離れる意志をもたせ、かつ優越感に浸し後腐れなく別れる空気を作る。
偶然の結果か?いや、おそらくそれも計算の上か。
ほんとうに恐ろしいな、ルルーシュ君・・・いや、ゼロは。
きっと黒の騎士団の活動もこうやって誰にも気づかれること無くゼロの望むレールに載せていたのだろう。だからこそ、あれだけのことを成し得たのだ。
自分が起こした奇跡など足元にも及ばないなと、木箱に自分の寝具を詰め込んだ。




書き始めた当初、ルルーシュ側と藤堂側だけ初期アイテムを細かく書いてたのを思い出したので。
しかしこの男だらけの場所に裁縫道具とか、当時の私何考えてたんだろう。

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