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黒の騎士団の拠点から持ってきた荷物は、道案内役でもあるスザクが前を、藤堂が後ろを担いだ。移動に邪魔な枝を朝比奈が鉈で切り落とし、仙波が荷物移動の補助をしながら歩みを進めていく。 まだまだ体力に余裕のあった藤堂とスザクが大荷物を運んでいるため、前半の道のりよりも移動は早く、2時間を少し超えたところで視界が開けた。 木々が鬱蒼と生い茂っていた原生林から、突然人の手が加えられた畑に出たことで、仙波と朝比奈は我が目を疑った。 明るく拓けた平地は耕されており、添え木をされ、青々とした葉を天高くに伸ばした植物が整然と植えられていた。その大半が見覚えのある野菜たちで、みずみずしいく大きな実を重そうに実らせてる。 もしかして人里に出たのでは?と錯覚させられる光景だったが、藤堂もスザクもこの様子に驚く素振りはなかった。 「藤堂さん、ついでに少し収穫していっていいですか?」 「ああ、構わない。荷物を降ろそう」 大蛇も縛り付けているため、かなりの重さがあるはずの荷物を、重さを感じさせないほど軽々と下ろすと、二人は肩をほぐすように回した。荷物を運んでいた二人より、仙波と朝比奈のほうが疲れきっていて、その場にぐったりと腰を下ろした。 正直限界が近いため、休憩は有りがたい。 「みなさんは休憩していてください」 2時間荷物を担いで、悪路を歩いてきたことを一切感じさせない 爽やかな笑顔だった。彼らの反応から、ここは彼らが整えた菜園だと嫌でも解った。 あの弁当でもわかっていたが、しっかりと栄養も考えられた食事を取れたスザクは、この環境下でも飢える事無く過ごしていたのだろう。あまりの環境差と、自分たちの衰えた体力に、情けないなと息を吐く。 「手伝おう、何を収穫すればいいのかな」 疲労は見えるが、まだ余裕がある藤堂はスザクに尋ねた。 その表情は明るく活き活きとしていて、今まであの川原で扇達に苦労させられていた時の藤堂とは違って見えた。 新鮮で豊富な野菜。魚に味噌まである環境。今まで蛇やカエルの昆虫、川魚、大根に芋をメインとしていた状況とはガラリと変わるため、行き先にある不安がなければ朝比奈達もきっと目を輝かせていたことだろう。 ・・・だが、どう考えてもこちらに都合が良すぎる。 あやしすぎるのだ。 だから素直に喜べず、藤堂が騙されている可能性もあると、警戒を崩すことが出来なかった。 「そうですね、たしか大根がもう無いはずなので何本か持って行こうかと・・・。あとは適当に食べごろのものがあれば収穫します」 大きく育ったきゅうりを手に取ると、迷うこと無く摘み取った。 この手の野菜類は多めに収穫しても余ることはない。ルルーシュが使わないなら、スザクのおやつにもなるからだ。藤堂は大根が植えられている場所へいくと、大きめの葉を選び引きぬいた。 しっかりと土を耕し、落ち葉や鶏糞を混ぜ込んだ肥料を加えて土をフカフカにしてから植えた大根は、藤堂たちの拠点で手に入るような細く短いものではなく、太く長いしっかりとした重量を持つまでに成長していた。 あちらとの違いに、これだけでも驚かされる。 ここにある野菜類の中には藤堂たちの拠点では見なかったものが多い。ルルーシュに頼まれ、いろいろな種類の種や植物を集めてきたため、ラクシャータ達が持ってくるだろうものと合わせ栽培し始めれば、相当な種類の作物が手に入るようになるだろう。 この菜園の端に置かれていた箱から竹の籠を取り出し、それに収穫したばかりの野菜類をいれ、これは朝比奈が運ぶこととなった。 此処から先はすでに整備が終わっており、それこそ草履で歩きまわっても安全な道だっため、自分たちがいた場所との差に朝比奈と仙波はますますおどろき、キョロキョロと辺りを見回しながらついてきた。 やがて彼らにも馴染みがある川原までたどり着くと、そこには使い勝手の良さそうな釜戸が2つと、焚き火をする場所があり、竹で作ったテーブルと椅子と、切り出した丸太を運んだだけのものだが、やはり腰掛けられるように用意された物が置かれていた。 それらがなければ自分たちの拠点とほぼ変わらない作り。 だが、それらがあることで、無人島でのサバイバル生活というよりも、キャンプといった雰囲気が漂っていた。殺伐とした生存競争ではなく、娯楽。作りは変わらない場所のはずなのに、その場の空気の違いに、朝比奈と仙波は戸惑うしかなかった。 スザクと藤堂は迷うこと無く歩みを進め、担いでいた荷物を丸太の傍まで運び、そこに下ろした。朝比奈の持っていた野菜も、横に下ろす。 スザクと藤堂は辺りを見回しているため二人も見回したが、そこには誰も居なかった。二人の話では、ブリタニア人が二人いるはずなのだが。 「・・・ここで大人しくするよう言ったのに」 今までとはガラリと変わり、低く重い、不愉快そうな声でスザクは言った。 見るとその表情も鋭くなっており、機嫌を損ねていることが理解る。 「その辺りを探してみるか、朝比奈、仙波、歩けるようならついてきてくれないか」 疲れている二人にすまないがと藤堂は促した。 二人は大丈夫ですと立ち上がる。 「ついでだから、二人にトイレの場所を教えてこようと思うのだが」 「ああ、それはぜひ。僕は洞窟を見てきますね。具合が悪くて寝ているかもしれないので」 スザクはそれではといって走りだしたので、藤堂は二人を促し、スザクが走っていった方向に歩き出した。なるほど、この拠点は用を足す場所を決めているのだと二人はほっと胸をなでおろした。なにせあちらではあの三人のせいで不愉快で不潔な環境に居たのだ。自分たちは穴を掘り用を足していたが、彼らはところかまわず・・・特に洞窟内で行なっていたため、清掃も一苦労だった。未だに体から臭がしてくる気がする。 行った先にあったトイレは、予想以上のもので、ただ穴を掘るだけではなく竹で個室を作り、床も竹を敷き詰めて作っていたため、雨などでぬかるむ心配もない。 丸太と竹を組み合わせて簡易的にではあるが座れるようにも作られている。そして何よりそこは綺麗だった。 本当にたった三人で、同じ環境で生きていたのか?と訝しんでいると、綺麗に使うようにと藤堂に言われた。もとよりそのつもりだが、手洗い場まで用意されていると、自分たちがここに来てから生きることだけに意識を向けていて、生活するための努力を何もしていなかったのではないかと、突きつけられているように思えてきた。 ついでだからと用を足してから先ほどの川原に戻ると、スザクが戻ってきていた。 人影から他に二人分見える。 「洞窟で休憩していたのかな?」 藤堂は安心したかのような声で言うと、迷うこと無く三人の元へ歩み寄ったが、仙波と朝比奈はその姿を見て足を硬直させた。 三人のうちの一人がこちらに気づき、迎え入れるように笑顔を向けてきたのだ。 他人の空似だろうか。 それは服装こそ違えども、今は亡きエリア11元総督でありブリタニアの第三皇子クロヴィスにしか見えなかった。 最初の頃はなかった落ち葉。 ある程度の日数が経ったため、ドングリの木とかから、それなりに落ちているということにしてください。 |