いのちのせんたく 第85話


物干し場には、男三人分の衣服と、毛布や寝袋、バスタオルが所狭しと干されており、暖かな日差しと柔らかな風の中、パタパタと小さく揺れていた。見慣れたせんたく風景ではあるが、どれも騎士団の服、いわば戦闘服のため重苦しく見えた。
藤堂達が入浴と洗濯をしている間、ルルーシュ達は荷物を調べていて、自分たちが運んだのにと、朝比奈が不満そうな顔をして睨みつけていた。大蛇はすでに外され、これは夜になる前に捌くことにして縛って放置している。藤堂があちらで集めてくれた物資は、後で細かく調べるためリュックにまとめて入れた。
洗濯物を干し終え、焚き火の傍へ行くとルルーシュがハーブティを用意して待っていた。リンゴのような優しい甘さの香りで、カモミールという花を乾燥させて作ったという。久しぶりに椅子に座り、暖かな飲み物をカップに入れて飲んだ。
今までとは違う、人の手が入り整えられた環境。人の手で作られた道具。そしてただのお湯ではなく、ハーブティ。今まで口にしたことがない、慣れない味の飲み物なのに、思わずホッと息を吐いていた。

「藤堂、飯盒と裁縫道具は俺が管理しても?」
「ルルーシュくんの好きに使ってくれ」

藤堂は即答し、ならば俺がもらうとルルーシュは頷いた。
朝比奈と仙波は未だに納得出来ない顔をしているが、この拠点には大鍋と片手鍋があるため、一人分の料理を飯盒で作ることはない。だが、これらを使えば同時に別の料理を作れるようになる。ただ、煤などで汚れて酷いため、一度綺麗に洗わなければと、洗い物用のかごに入れた。
裁縫道具の中を確認すると、針も糸も十分すぎるほど入っていた。
腕を怪我した時もそうだが、こんな場所で暮らしているとあちこちを引っ掛けてしまい破れてしまう。それらをどうにかしたいと日々考えていたため、これで悩みが一気に解消するとルルーシュは大喜びだった。今日明日は無理だが、時間が空いたらすぐにでも繕わなければと意気込んでいた。
カモミールティの効果か、休憩を取り始めた頃から仙波と朝比奈の眉間の皺がいくらか和らいで見えた。カモミールティは心身をリラックスさせる。筋肉組織を落ち着かせ、体調を整える効果が期待できる。
花言葉は逆境に負けない強さ、逆境で生まれる力。
これほど自分たちに相応しい言葉はないだろう。
お茶請けにと用意したのは葡萄とりんご。
どちらも酸味が強い種類だが、こちらも肉体疲労や胃腸を整える効果が期待できるため、今の彼らに必要だ。動きまわったことで空腹だったのだろう、彼らは酸味など気にせず、リンゴも葡萄も口にしていた。

「食べながら聞いてください。今日のこれからの予定ですが、明日女性たちが来ることは決まっているため、温泉に柵を作ります。材料はそこに集めている竹と、先ほど持ってきたロープで組み立てます」

彼女たちも汗を流すため風呂にはいるだろう。衣服も洗わなければならない。前回のように男性陣が全員離れる手は毎回使えないため、温泉周りを囲うことにしたのだ。できれば脱衣所も用意したい。
材料はすでに用意されているため、バスタオル巻きの姿でも作業は可能だし、男手が増えたためそう時間はかからないだろう。

「それが終わったら、簡易的なものだが竹で家を作ります。これは洞窟の前に作るため、その材料はあちらに用意しました」

指さされた方を見ると、洞窟の前には竹の山ができていた。そこは前回テーブルなどが置かれていた場所で、今はすべて片付けられていた。なるほど、洞窟のある高台は、平らな面がそれらリの広さであるため、その場所に作るということらしい。あの場所なら前回のような大雨でも問題はない。

「女性が来た時に一緒に洞窟で休むわけには行かないから、俺達は仮設の家で休むので、それなりの大きさになります」

なるほどと頷きかけたが、スザク、クロヴィス、藤堂は即座に否定の声を上げた。

「それは駄目だルルーシュ、君は洞窟で休まなきゃ」
「竹の家がどのようなものかはわからないが、お前は洞窟で休みなさい」
「きちんと作ったとしても、簡易的なものならば隙間風は入るだろう。君は暖かな場所で休んだ方がいい」

朝比奈を別の意味でも警戒しているスザクと、扉のある洞窟内、しかもベッドを使える環境でさえ不調になるルルーシュを、そこより条件が悪いだろう竹作りの家で休ませるのは問題だという二人は、他に方法はないのか?と尋ねた。

「いずれ木材を用いて家を作るとしても、今はそこまで準備もできていないし時間もありません。それに隙間風が気になるなら、壁や床を二重にすればいいだけの話です」

昨日熱で倒れてしまったため、体のことを言われると強く出られないルルーシュは、仮設住宅に移動する事は決定だが、そちらをより快適にすると提案した。それでも不満な三人ではあったが、女性と寝床を共に出来ないし、女性を仮設にと言うのは流石に無理だと諦めて、その提案を飲むことにした。
何より、ルルーシュが女性陣に混ざった場合、スザクの監視の目が無くなってしまう。それはルルーシュがゼロに戻る可能性を示してしまうため、ルルーシュの記憶は戻っていない前提で進める以上、スザクが切り強制的に離されるような場面を用意するべきではない。
・・・スザクは女性に混ざれないが、ルルーシュは女性に混ざれるという、はっきりいって男として失礼な想像をされていることに、幸いルルーシュは気づいていなかった。

「では、ルルーシュくんの寝床の下には、持ってきたうさぎの毛皮を敷くことを条件につけよう」

以前手に入れたうさぎの毛皮は、朝比奈が隙を見てなめしていた。俺が手を入れたのに!と不満気な反応を示した朝比奈を見て、ルルーシュは、不要ですと即答した。

「うさぎの毛皮でしたら、こちらでも手に入れていますから」

使うならそれで十分です。
だが、しかし、とまだ言いたげな藤堂を制し、すでに空になっていた皿を集めた。

「その話はまた後で。日が昇っている間に温泉の囲いは終わらせましょう。それと、囲いは取り外し可能な物を作ります」

掃除やカビ対策を考えると、常に設置ではなく定期的に取り外す前提のものを用意したい。そのため、こうこうこういう形で作ると、全員がイメージしやすいよう図で説明をした。ちなみに竹で作ったA3サイズほどの大きさの浅い箱に砂を敷き詰め、水で砂を湿らせた後、竹の棒を使い、文字や図を書いている。
言葉で説明しにくいものも、こうすることで相手に理解させることが出来るため重宝している。特にスザクに理解させるには、言葉よりこの方が早い。
その図を見て、仙波はふむと考えた後、ルルーシュにその棒を貸して欲しいと頼んだ。棒を借りた仙波は、さらさらと図を書きなおしていく。

「この方が強度もあり、持ち運ぶにも便利だとおもうが」
「・・・なるほど、となると・・・」
「はい、棒」
「ありがとうスザク」

ルルーシュも書きたそうな空気を感じたスザクは、道具箱から予備の棒を取ってきてルルーシュに渡した。ルルーシュと仙波は、互いの図を見ては書き直し、ああでもないこうでもないと言い始めたため、藤堂は席を立った。

「結論が出るまで待っていても仕方が無い、あの竹を運ぼう」

藤堂の指示に、朝比奈とスザクは元気よく返事をした。




スザクと朝比奈は、ルルーシュだけじゃなく藤堂絡みでも対立しそうな予感。

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