いのちのせんたく 第86話


山積みされた竹を取りに藤堂が動いたため、朝比奈とスザクも後に続いた。仙波とルルーシュは未だに柵の作り方の意見を出しあっており、この様子なら離れても問題はないと判断したのだ。C.C.の話では、仙波と朝比奈はルルーシュがゼロだとは知らないはずだし、彼らの反応からもそれが事実だと解った。
藤堂と仙波は着れる服がなかったためめ腰にバスタオルという格好だが、朝比奈はクロヴィスの服を借り、スザクももちろん服をきっちり着込んでいるため、動くなら自分たちだと我先に竹を担いだ。
尊敬する上司、尊敬する師。
いい格好を見せたい。
認められたい。
褒められたい。
少なくても、こいつよりは役に立つと思われたい。
そんな思いからか、朝比奈とスザクは競うように運び続けたため、運ぶのは若者に任せることにし、藤堂はさっさとルルーシュと仙波のところへ戻った。それに気づかずに競い合っていた二人が竹を運び終わる頃には結論が出て、仙波がこの場の指揮をとることになり、ルルーシュは洞窟へ戻ることになった。囲いづくりは全員で作業する必要はないため、ルルーシュは夕食の用意を始めることになったのだ。今日から肉体派の男三人が増えるのだから、下準備にも時間がかかるだろうし、体を壊しているのだから少しでも休ませたい。

「では、こちらはお願いします」
「何かあったら呼んでね?」

一緒に付いて行きたいところだが、藤堂たちだけに任せるわけにもいかない。眉尻を下げ不安げに言うと、ルルーシュはくすりと笑った。

「まったく、お前は心配症だな。わかってる、何かあったら叫ぶよ。それよりその蛇のことだが」

縛り付けたままの大蛇を示すと、藤堂が答えた。

「ああ、その大蛇なら後で私が捌くから、そのままにしておいてくれないか」
「そうですか?ではお願いします。ただ、捌いた後の皮は残しておいてください」
「皮を?」
「革細工を作るのに使えるかもしれないので、取っておいているんです」
「なるほど、蛇革にするわけか」
「ただ、なめし方が判らないため、まだ使えないんですが」

兎の皮も、洗浄した後叩いたりはしたが、なめしているとは言い難い。カビたり腐らないようしっかり乾燥させて保存しているが・・・こんなことなら、その手の本も読んでおくべきだった。

「・・・じゃあ、うさぎも鞣し液には漬けてないんだ?」

朝比奈が尋ねてきたので、ルルーシュはそうだと答えた。
なめすにはなめし液が必要なのは知っているが、何で作るかがわからない。
この島にある素材で作れるとは思うのだが・・・。

「じゃあ、やっぱりルルーシュ君は俺達が持ってきたウサギ皮を使えばいいよ。君たちのは俺が預かる。藤堂さん、蛇の皮も俺にください」
「処理出来るのか?」

ルルーシュは驚いた顔で朝比奈をみると、なぜか頬を赤らめた朝比奈はごほんと咳払いした。そんな姿に、不愉快げにスザクの眉が寄る。

「あの荷物にあった兎の皮は俺が鞣した物だから、触ってみたら違いは理解るよ。俺の爺ちゃんが猟師で、鞣しは小さな頃さんざん手伝わされたんだ」

動物を狩った後、肉は食べ、あるいは料理屋に売り、皮はなめして加工していた。蛇の皮もなめしたものを業者に売って祖父は生計を立てていた。戦前の話だし、すでに祖父は他界しているが。その話をすると、ルルーシュは予想以上に食いついてきた。

「猟師というと、やはり銃を用いて狩っていたのか?」
「猟銃を使うこともあったけど、大抵は罠を仕掛けての罠猟だね」

設置後見回りする必要はあるが、犬を連れて探し回るよりは楽だし、猟銃での狩りなら朝比奈はついていくことさえ出来なかっただろう。

「罠猟か。ちなみに、構造は覚えているか?」
「罠の?そりゃ、壊れたら自分たちで修理するからね」
「やはり、罠を作るとなれば、それなりの道具・・・例えばバネや鉄などで出来た部品や器具がなければ無理だろうか?」

ルルーシュが手に入れた情報は、そういう道具が売られていて、それを用いて捕獲するというものだ。檻を用いて捕獲する物が多く、今ここで手に入るようなもので作れる気はしなかった。落とし穴で捕獲できるとは今は思ってもいない。だが、狩猟は昔から行われていたのだから、何かしら方法はあるのではと考えていた。

「確かにワイヤーなんかを使ってたけど、何でそんなこと聞くのさ?」
「以前、スザクが野生の鹿を見たと言っていた。だから、もし罠を仕掛けることが可能ならと思ったのだが・・・」

ああ、そういうことかと朝比奈は頷いた。
これから人数が増えるのだから、肉の確保は大切だろう。今まで自分も何度かシカやイタチ、たぬきなどは目にしているが、素手での捕獲は厳しいため諦めていた。だが、罠を仕掛ければ捕獲は可能かもしれないと、過去の記憶を引っ張りだした。

「・・・ここで手に入るものでとなると、強度の面に心配はあるけど・・・試してみないことにはなんとも言えないな」

幸い、この島には竹林がある。
竹の柔軟性を活かせば幾つかの罠は作れるかもしれない。
獲物が暴れた時に耐えられるかは別として。

「なら、今度試してみよう」

ただ、女性が来て、ここでの生活が落ち着いてからになるが。
何より、ラクシャータがいれば、いいアイディアをくれるかもしれない。

「朝比奈、その時は知恵を貸して欲しい」

笑顔のルルーシュに、朝比奈は反射的に是と答えていた。
話が終わったと判断したスザクは、ルルーシュの腕を強く引いた。
二人のやり取りに、内容が内容だから口出しできなかったが、朝比奈の視線が気に入らないと、引きつった笑みを浮かべて朝比奈を睨んだ。朝比奈は不愉快そうにスザクをにらみ、ルルーシュは、やはりブリタニア軍と黒の騎士団だからわだかまりはあるだろう、しかたがない事だと見て見ぬふりをした。

「ルルーシュ、下ごしらえする時間無くなっちゃうよ?」
「ああすまない、つい話し込んでしまったな。スザク、悪いが作業の前にその木箱を洞窟へ運んでくれないか」

ルルーシュは、藤堂たちが運んできた木箱を指差すと、スザクはかなり重いはずのそれを軽々と持ち上げ、ルルーシュの背を押しながらその場を後にした。

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