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次々と勝手な発言をするC.C.に、コーネリアが苛立ちを感じ始めているのが目に見えてわかった。不愉快そうに目を細め、こちらを睨みつけているため、ここが限界だろうとC.C.は判断した。 この場にあるもので、絶対に欲しいというものはあまりない。 物資の少ないこの場所では、どんな物でもあれば便利だし、欲しいかと言われれば欲しいが、ルルーシュからは無理に持ってくる必要はないと言われている。ただ、人数が増えるから大きな鍋は欲しい。だから、それだけは持って来るようにということだったから、十分目的は果たしただろう。 「・・・あとは普段使っている物だから、置いていってやるよ」 「当たり前だ!出て行くのはお前たちの勝手だが、ここで使用しているものを持って行かせる訳にはいかない!」 皇女の前でいい格好がしたいのだろう、ヴィレッタはC.C.へと詰め寄った。先ほど、視線一つに怯え言葉を止めたくせに、学習能力はないのかと、内心呆れながらも再びヴィレッタを睨みつけた。 それだけでまたヴィレッタの動きは止まる。 コーネリアに、使えない部下だとは思われたくない。 だが、脅迫されたとはいえ黒の騎士団についたことは知られたくない。 二つの感情に挟まれ、顔色を悪くしている女。 愚かで可哀想な女だなとは思う。 ルルーシュがヴィレッタを引き込むために使った情報。 黒の騎士団と通じていた・・・いや、扇と関係を持ったのは、この女のせいではない。扇が、怪我をした上に記憶を無くし、言い知れぬ不安を抱えた女を病院に連れていくことさえせずに軟禁し、自分に都合のいい情報だけを与えて懐柔したのだ。自分の名前すら判らず、自分を襲った相手もわからず、怪我を負った理由もわからない。狙われているかもという恐怖から、部屋の外へ一人で出ることも出来ない状態で、優しげで気の弱そうな男が真摯な態度で接してきたら、犯罪者から守ると言われてしまったなら、信じてしまうだろう、頼りにしてしまうだろう・・・絆されてしまうだろう。 愛情を、感じてしまうだろう。 寄る辺を無くした心はそれほどまでに脆い。 記憶が戻り、正気に返り、騙され、裏切られ、体を穢されたことを知り、扇を恨んだとしても、関係を持ったという過去は変えられない。今も扇に愛情を感じているから、非道な行いをされた事をルルーシュに訴えることさえしなかった、できなかった。 ストックホルム症候群。 自分がそう呼ばれる状態だということさえ、気づいていないだろう。 だが、そんなことはどうでもいい。 哀れで可哀想な女だが、ルルーシュの元へ連れていく訳にはいかない。 この女は、問題がありすぎる。 だから、ここに捨てていく。 大切な大切な、皇女殿下と共に。 「言っただろう?ここで争うつもりはないと。だから残りは置いていってやるよ。ああ、そうだ。解っているとは思うが、セシルはこちらで連れて行くからな?」 C.C.のありえない発言に、コーネリアとヴィレッタはその瞳を大きく見開いた。 「何をいう!セシルはブリタニアの軍人だぞ!・・・まさか、黒の騎士団に寝返ったのか!?」 だからあんなに親しげに話しをし、共に行動していたのかと、ヴィレッタは怒鳴った。自分のことを棚に上げた発言に、C.C.は本気で呆れた。 「馬鹿かお前は、もう少し頭を使って考えろ。私たちは、こことは別の場所へ行く。つまり、二手に分かれるということだ。救助に発見される可能性は当然上がる」 こんな奇妙な島に救助など来ないだろうと思いながらも、C.C.はさも当たり前のように告げた。 何の話だ?と、ヴィレッタとコーネリアは不可思議そうな視線を向けてきた。 「セシルは保険だ。もし、救助隊がお前たちを見つけたら、他にも要救助者がいることを伝えろ」 「人質という訳か」 コーネリアは静かな声音で言った。 ブリタニアで人質など意味は無い。 部下であれ、命令に従わなければ躊躇なく切って捨てる。 「反対に、私たちの所に救助が来た場合、セシルは間違いなくお前たちがここに居ることを伝えるだろう・・・私たちは、伝えるつもりはないが」 セシルは、黒の騎士団にとっても、コーネリアたちにとっても保険になる唯一の駒。 「まあ、セシルがお前たちを見捨てる可能性はゼロだが、お前たちがセシルを見捨てる可能性はあるのか。自分たちが助かる事だけを考えて、部下を見捨てるのがブリタニアのやり方だものな?」 見下すような、愚か者を見るような視線を向け、魔女は嘲笑った。 |