いのちのせんたく 第94話


藤堂の後ろ姿を見送ってから、ルルーシュは傍にいたスザクを見た。
同じく藤堂を見送っていたスザクは、ルルーシュの視線に気がつくと、どうしたの?とニッコリと笑顔を向けてきた。
何時もと変わらぬ向日葵のような明るい笑顔に、どうやら藤堂たちとは上手くやっていけそうだなと安堵の息を吐いた。
なにせ、スザクは彼らと同じ日本人ではあるが、立場は真逆。
黒の騎士団の面々からは売国奴と呼ばれているスザクと、仙波・朝比奈が衝突する可能性は非常に高かったのだが、今の所目立った衝突は見られず、スザクは見ての通り笑顔のままだ。きっと藤堂が上手くやっているのだろう。
スザクを見ながら思わず思考に没頭したせいか、不安げに眉尻を下げ、ルルーシュの顔を覗き込んできた。

「どうしたの?朝から動いたから、疲れた?」

休憩したほうがいいよ?と、言いながら背中を押し、椅子へと誘導される。

「いや、大丈夫だ」
「君の大丈夫は信用出来ない。ほら、いいから座ってよ」
「な、信用できないだと!?」

自己管理ぐらいできる!と文句を言ったところで説得力は全く無かった。
ここに来てから何度体調を崩したかわからない。スザクとクロヴィスが過保護になって、ルルーシュに構っているおかげでどうにかなっているが、それがなければ、この奇妙な島で野垂れ死んでいてもおかしくなかった。
それがわかっているくせに、反射的に否定の言葉を上げたルルーシュに、スザクは心の底から呆れた声を出した。

「うん、全っ然、信用出来ない。熱は・・・大丈夫そうだね」

額に触れ、喉元に触れ、体温を確認してみるが、今日は大丈夫そうだった。でも、黒の騎士団・・・ゼロということを隠しているとはいえ、自分の部下達が集まるのだ。その辺りでいろいろテンションが上がっていて、いつも以上に疲労する可能性は高いから、今日は無理はさせないほうがいいだろう。

「おまえな、熱を測るなら測ると一言」
「ゴメンゴメン、ほら座って」

熱を測るなんて毎日の事なのに、なぜか恥ずかしそうに頬を染め、文句を言うルルーシュを椅子に座らせ、念のためラウンズのマントをその膝にかけた。
仙波と朝比奈の目があるというのに、まるで女性を相手にするように、甲斐甲斐しく世話を焼くスザクに、ルルーシュはいたたまれない思いがした。過保護過ぎる・・・これはどうにかしなければと・・・無駄とわかっていながらも考えを巡らせる。
スザクとクロヴィスには、知られたくないもの、見られたくないものを見られ、怪我をしたり、意識が飛んだ事で散々迷惑もかけて来た。そのため、二人に過保護な扱いをされることを受け入れてきたが、それは親友であるスザクと異母兄クロヴィスしかいない場所だったからだ。
これからは藤堂を始め、多くの人間がここで共に暮らす事になる。
だから、今後は所構わず触れてくるのは止めろ、流石にスキンシップ過多だと事前に何度も教えたのだが、スザクの行動は変わらない。自分の事ぐらい自分でできるのだから、世話をやく必要はないと何度言っても聞く耳を持たない。
恐らく、このやり過ぎな優しさが、スザクにとっては普通なのだろう。
だから、何が悪いのか言ったところでわからないのだ。
・・・この天然馬鹿が。まったく、困ったものだと、息を吐く。
その様子を見ていたスザクは、やっぱり疲れているんだと眉尻を下げた。
まさか自分が原因などとは思っていないため、カレン達が来たら更に忙しく、騒がしくなるのに今から疲れているなんて・・・目を離さないようにしなきゃと、スザクの過保護度が更に上がった。
そんなやり取りを目の当たりにし、何ベタベタしてるんだよと不愉快そうに睨んでいるのは朝比奈。
なるほど、あのぐらいの扱いをしなければいけないのか、そこまで体調が悪いのかと二人を見ていたのは仙波。

「ルルーシュ、今日は大人しくしてるんだよ」

まるで、聞き分けのない子供に言い聞かせるように、スザクは言った。

「あのなスザク。今日はこれからカレン達が来るから、その準備をする事を忘れたわけじゃないよな?」

それなのに、大人しくってどういうことだ?お前、今朝の話を忘れるほど馬鹿じゃないよな?と、ものすごく不安げに見つめられて、スザクは自分はそこまで馬鹿だと思われているのかと、本気でへこんだ。

「いや、スザクくんの言っていることは最もだ。ルルーシュ君は今日、そこで我々の作業を見ていたほうがいいだろう」

仙波の加勢に、スザクは「ですよね!」と、喜んだ。

「ですが・・・」
「力仕事は、我々に任せてもらいたい」

きっぱりと断言されてしまえば、ルルーシュも強く言えなかった。
なにせここにいる3人は、元軍人と現役の軍人。
一般人のルルーシュが混ざれば、足を引っ張りかねない。
3人もいれば手は十分足りていて、これから行う作業にルルーシュが参加する必要はない。現場監督として、椅子に座り指示だけだせばいいのだ。
頭では解っていても納得は出来ないと、何やら小難しい言葉で文句を言い出したルルーシュに、そうだね、わかっているよと相槌を打ちながらスザクは仙波を見た。
昨日は疲れきり、どこか思いつめたようなった表情をしていたが、今朝は顔色も良くなり、明るい顔をしている。初めてここに来た時の藤堂もそうだったし、ラクシャータやカレン、C.C.もそうだったなと改めて思った。
彼らの拠点の話を聴けば聴くほど、あまりにも酷い環境に冷や汗が流れるほどで、ルルーシュがいなかったら自分もそうだっただろうし、女性たちを見つけた時にルルーシュに報告していたら・・・と言うところまで考えたとき、背中に悪寒が走った。
いやいや、無理だ。
食料が豊富なこの場所で死ぬことはないだろうが、彼らのような生活は御免被る。
ルルーシュと同じ拠点でよかった。
本当に良かった。
・・・特にルルーシュが、朝比奈達の拠点にいなくて本当に良かった。
不愉快そうに睨んでくる朝比奈に対し、周りに気づかれないよう冷たい視線を向けた。
藤堂とルルーシュに、朝比奈は非常に不愉快な視線を向けている。
要注意人物だと、スザクは判断していた。

「それよりも、あいつどこに言ったのさ、クロヴィスは」

スザクの視線に気づき、腹立たしげに睨みつけた後、苛立ち混じりに朝比奈は言った。言われてみれば、朝食を終えてからクロヴィスの姿が見えない。どこに行ったのだろうと、全員が辺りに視線を巡らせた。

「幽霊だから、成仏したとか?」
「それはないだろう。恐らく見回りを買って出てくださったんだ」
「あ、そうか。僕朝の見回り行ってないや」

普段であれば、朝に畑などを見て回っているのだが、今日は藤堂達がいたため、ルルーシュの傍から離れられず、見回りに行っていなかった。
だからクロヴィスが、率先して見回りに行った可能性は高い。
ルルーシュに褒められたい、兄として頼りにされたいと日々努力しているのだから。
とはいえ、そのへんの事情がわからない仙波と朝比奈には、当然理解できないようで、皇族が自分から雑用を買って出たなんてありえないと言った。
彼らの目の前にいる、料理から何から細々とやっているルルーシュも皇族だと知ったら、皇族に対する認識が変わるだろうが、それを教えるつもりはない。

「まあいい。スザク達はここで作業を始めてくれ。俺は殿下を探してくる」

ルルーシュは立ち上がり、ラウンズのマントを畳み始めたので、スザクはその肩を軽く押して再び座らせた。

「・・・だ・か・ら、君は今日は動かないでって、僕言ったよね?」

聞いてたよね?頭、起きてる?もしかして体調悪いの隠してない?
ニコニコ笑顔だが、どう考えても怒っているスザクは・・・はっきり言って怖い。

「だが、いなくなってかなり経つ。もしかしたら何かあったのかもしれない」
「なら、作業始める前に僕達で見て周るから、君はここで殿下を待つんだ。いいですよね、お二人とも」
「ああ、この辺りの様子を見たかったところだから、私は構わないが」
「・・・仙波さんがそう言うなら・・・」

スザクが指示をだすのが気に入らない朝比奈は、それでも同意を示した。
姿を消したクロヴィスを探しに、スザク達が川原を離れてしまい、やることのないルルーシュは現在の人間関係について少し考えてみた。
どうやら、スザクの方はちゃんと3人を受け入れている。
仙波と藤堂も問題はなさそうだが、朝比奈はスザクが気に入らないらしい。
クロヴィスの事も・・・当たり前な話だが、よく思っていないようだ。
となれば必然的にブリタニア人である自分のことも良くは思っていないだろう。
朝比奈と、これから来る千葉とセシル。
この3人には注意を払う必要がありそうだ。
そこまで考えるのにかかったのはほんの数秒。
さて、本格的に暇になってしまったと、ルルーシュは途方に暮れた。
何か作業をしたいが、やっていることがバレれば、朝比奈とのことでストレスを貯め始めているらしいスザクに怒られる。
どうしたものかと辺りを見回した時、視界に見慣れぬものが写った。




親友フィルターで目が腐っているルルーシュには、真っ白スザクに見えてます。

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