いのちのせんたく 第95話


拠点の洞窟から少し離れた場所に、岩場がある。
釜戸を設置している場所なのだが、そこに釜戸以外の見知らぬものが見えた。
残念ながら、ルルーシュの視力では何があるのかまでは分からない。
スザクがいればすぐわかるのだが、今はクロヴィス探しで離れている。
洞窟へ戻れば双眼鏡はあるが、洞窟へ取りに戻るぐらいなら直接見に行ったほうが早いだろう。あの物体が動く気配はないし、恐らく生物ではないと思う。
この程度の距離なら移動した所でスザクの機嫌は損なわないだろうと判断し、それが何かを確認するため歩き始めた。
怒られるとすれば移動したことよりも、身を守る術を持たないルルーシュが、一人で見知らぬ物体に近づくことの方がよっぽど怒られる事なのだが、現在自己防衛本能が欠落してしまっているため、そのことには思い至らなかった。
武器になりそうな物さえ手に持たず、無防備な状態でその物体へと近づく。

「・・・やはり、人工物か。先程まで無かったはずだが、いつ現れたんだ?」

たどり着いた岩場にあったのは、箱だった。
木箱ではなく衣装ケースといった作りで、釘で打ち付けられていた木箱とは違い、こちらは蓋。これなら開けられそうだと、躊躇なく蓋に手をかけた。木製の蓋は表面が荒削りなままで滑りが悪く、持ち上げるとギシギシと音をたてた。今後使うなら、ヤスリをかけるか蝋があれば塗りたいところだ。
開かれた箱の中、真っ先に目に入ったのは真新しいタオル。
なるほど、やはり人数が増えるため、現段階では自力での作成が不可能な布類を送ってきたのかと考えながら、中身を確認していき・・・

「・・・ほわあぁぁぁぁぁ!?」

手にしたものに驚き、思わず勢い良く立ち上がり、後方に仰け反った。
ここは足場の悪い岩場。
あまりのショックにそのことを失念してしまい、地面に敷き詰められていた石に足を取られ、バランスを崩して尻餅をついた。
本来ならば相当痛い転び方をしたが、今のルルーシュは痛みなど感じない。

「な、な、なっ・・・!」

完全に動揺したルルーシュは、思わず座ったままの姿勢でズルズルと後ずさり、箱から距離をとった。
な、何でこんなものがここに!?・・・いや、落ち着け俺。な、何もおかしいことではない。ただ、タイミングが少し早かっただけだ・・・!1日いや半日後ならこんなに驚かなかったというのに!
完全な不意打ちに、顔が赤く染まり、バクバクと心臓が早鐘を打つ。・・・そのことに、軽く違和感を感じた。
心拍数と、体温の上昇。
ごく普通の感覚だが、酷く懐かしい感覚に思えた。
その時、遠くから声が聞こえてきた。
視線をそちらに向けると、ものすごく遠くから、人類の限界を超えた速さで駆けて来るスザクが見えた。
まさか、今の声があんな遠くまで聞こえたのだろうか?
・・・いや、まさかな?
そんなことを考えている間に、スザクはこの岩場へやってきた。

「ルルーシュ!!」

息を切らせ汗を流している姿は珍しいなと、傍まで駆け寄ってきたスザクを見上げ、そして少し悲しくなった。こちらを見下ろしているスザクは、誰かを守る騎士の顔で、先程までの友人の顔とは違うものだった。
ああ、そうだったな。お前はブリタニアの騎士で、俺の敵だったと再確認してしまう。
ほんの少し前まで感じていた感覚も、完全に消え去っていた。
そんなルルーシュの変化には気づかないスザクは、ルルーシュの無事を確認し、ほっと安堵の息を吐いてから、へたり込んでいるルルーシュの横でしゃがんだ。

「・・・はぁ、っ、は、どう、したのルルーシュ、何があったのさ!?」

怪我はない?どうしたの?と、スザクは手早くルルーシュを見たが、特に怪我らしい怪我は見えなかった。あたりをざっと見回しても、人や猛獣など、ルルーシュに害を与えるものは見当たらない。

「え?あ、ああ。すまないなスザク、俺が転んだところを見ていたのか?」

きっと、岩の上で尻餅をついたルルーシュを、たまたま見かけたのだろう。
スザクの視力は信じられないほどいいから、それなら納得できる。

「・・・はぁ、はぁ、尻もち付く前に、悲鳴、あげてたじゃないか」
「・・・まて、お前聞こえてたのか?」

ありえないだろうと思ったが、しまった、これでは悲鳴・・・とは言いがたいが、驚きの声を上げたと認めた事になると、心の中で舌打ちした。

「聞こえるよ、君の声だから。で、どうしたの?なにがあったのさ?・・・怪我は?お尻打ったよね、痛くない?ちょっと見せて」

こんな岩場で尻餅をついたのだ。もしかしたら痣になってるかも。

「ば、馬鹿か!見せるはずないだろう!ま、万が一痣になっていても、時間がたてば消える!放っておいてくれ!」

尻を見せろと言われて、誰が見せるか!!
スザクなら、強引に見ようとしかねないとルルーシュは慌てて立ち上がった。
普通であればじんじんと痛んでいるだろうお尻を庇いながら、スザクから若干距離をとると、そんなルルーシュの態度が心底不愉快だと言いたげにスザクは眉を寄せた。これだけ頑なに拒むということは、かなりの勢いで尻餅をついたということだ。肉の薄いルルーシュのお尻のことを考えれば、痣だけで済んだのかも不安になる。


「安静にして、冷やしたほうが治りは早いんだよ」

だから見せてよ!

「だとしても自分でやる!」

スタスタと近づいてきたスザクに、まるで毛を逆立てた猫のような態度でルルーシュは更に距離をとった。完全拒否の体制のルルーシュに、今は仕方が無いなと、とりあえずこの場は諦めたスザクは、ようやく衣装ケースが並んでいることに気がついた。
箱は2つあり、そのうち一つが空いている。
ああ、これが原因かと、スザクは迷うことなく中を覗き込んだ。

「あ!ば、馬鹿!覗くな!それはっっ!!」

タオル類がグチャッとなっているのは、ルルーシュが驚いた拍子に乱してしまったのだろう。問題はその下から覗いているもの。スザクは迷うことなく引っぱりだした。

「あれ?これ、ブラジャー?」

あ、しかも大きい。
このサイズは、ラクシャータかな?派手な色と際どいデザインからしても可能性は高いような。あ、こっちはセットのショーツかな?うわ、エロい。えーと、他のサイズはデザインは様々だけど普通だな・・・恐らくカレンやC.C.達のものかな?しかし・・・ラクシャータのは、かなりアレな下着ばっかりだなぁ、ここでこの下着はマズイんじゃないだろうか?・・・と考えながら箱のなかを物色する。

「ば、馬鹿スザク!早く元に戻せ!!」

振り向くと、顔を真っ赤にして怒鳴るルルーシュ。
・・・なるほど、手にしたものが女性の下着だったから、驚いたのか。
・・・。

「スザク!!」
「え?あ、うん、そうだね、元に戻しておくよ」

見た限り、女性陣の衣類と下着が入っているだけのようなので、この箱は女性用の衣類ケースなのだろう。スザクはさっさと蓋を閉ざすと、安堵の息を吐いた。とりあえず、危険なものは入ってなかった。
それにしても、下着程度でうろたえて、今後大丈夫なんだろうか。
女性と行動する以上、今後嫌でも目にするだろうに。
というか、前回洗って干しているの平然と見てた気がするんだけど?
いろいろ思うところはあるが、今のルルーシュにこれ以上の刺激はやめておいて、残り二つの箱へ視線を向けた。




ルルーシュはナナリーやC.C.で女性の下着は見慣れているけど、ラクシャータのは、ルルーシュが見慣れていないタイプの大人な下着(エロい)で激しく動揺。
不意打ちだから驚いただけで、すぐ見慣れると思う。
そしてスザクは、思わずラクシャータの下着をつけたルルーシュを妄想
それとは別にルルーシュのお尻のことが気になるスザク(怪我という意味で)
無抵抗な間(寝ている時)に絶対確認すると思う。

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