いのちのせんたく 第97話


大荷物を肩に担いだスザクがルルーシュを連れて戻ってくると、当前だが全員の視線はスザクが担ぐ衣装ケースへと向いた。それを軽々と担ぐことも驚きだろうが、何が入っているのか、という期待もあるだろう。
なにせここは本来であれば、追加の物資など期待できない場所。
誰が置いたのか、どうやって置かれたのかは誰もわからない。
これはもう、怪奇現象と言っていいだろう。
この拠点では何度か起きていたが、彼らとしては初めての現象だった。

「中は衣類だ。こちらは女性の衣類が入っている」

スザクが下ろした2つの箱を開けようとしていたので、ルルーシュは慌てて女性用の箱の開封は阻止した。見られて困るものでも入っていたのか?と、仙波は訝しんだが、顔を赤く染めて拒絶する姿に、なるほど、見ないほうがいいなと判断した。朝比奈は顔を赤く染めるという初心でかわいい反応に鼻の下を伸ばしていた。そんな朝比奈が気に食わないと、表面上笑顔だが腹を立てた素ザクは、女性用の箱を担ぎ上げた。

「ルルーシュ、これは片付けておこうよ」

そう言いながら、ルルーシュの手を引いた。

「そうだな、洞窟に入れてしまおう。仙波、その箱の衣服はおそらく3人のものが殆どだろうが、スザクの道着も入っているから、それはもらえないか?」

表情を一瞬で元に戻したルルーシュは、スザクの道着は確保しなければと仙波に声をかけた。

「道着?・・・おお、これは」

仙波もまた、スザク同様道着には思い入れがあるため、目にした途端に子供のように目を輝かせ、声にも喜びがあふれていた。

「やっぱり道着はいいですよね!僕は今も運動するときは道着じゃないと落ち着かないんです」
「戦後は手に入れることが叶わなかったが・・・」

見ると、奥の方に何着か道着が入っていた。
久々の道着。
だからスザクよりも喜びは大きいのだろう。
スザクはイレブンとはいえ、姿を隠していたわけではない。
ブリタニアの軍人となる前は、お世話をしてくれた方が小さくなった道着を手直ししながら着ているスザクに、お金を工面してプレゼントしてくれた。
特派に配属になってからは、自分で扱っているお店を探し購入した。
だが、藤堂達は姿を隠している身だったし、流通がほとんどされなくなったことで高価になってしまったため、道着など手に入れることは叶わなかったのだ。

「これがスザク君のだな、ルルーシュ君」
「それですね、ありがとうございます」

ルルーシュはスザクの道着を受け取った。

「ありがとうございます。じゃ、置いてこようルルーシュ」

ルルーシュの手を引き、スザクはさわやかな笑顔を残して立ち去った。

「おいこら、引っ張るな!ここではもう転ばないから離せ、スザク!」

ルルーシュの中では先ほどのやり取りで、手を引かれる=転ばないためという図式が成立していて、「子供じゃないんだからやめてくれ」と訴えるが、スザクは楽しげに、「いいのいいの、気にしちゃだめだよルルーシュ」と言って手を離そうとはしない。

「まったくお前は・・・」

諦め息を吐くルルーシュを見て、スザクはくすりと笑った。

「安全第一、だろ?」
「それはそうだが、この辺りではほとんど転んでないだろう」
「・・・ほとんど?」
「あ、いや、転んでないだろう」

慌てたルルーシュをじっと見ながら、ああ、結構転んでるんだなとスザクは知った。
ルルーシュにしては珍しい失言。

「この辺りでは?」
「いや、だから聞けスザク。それは言葉の綾で」
「この辺りでは何度か転んでるけど、他の場所だと沢山転んでるんだね?」
「違う!」
「君の言葉は信じないよ。転んだ話は100%信じるけど」
「転んだ方を信じるな!」
「えー?やだー」

八の字眉毛に上目遣い。
そこに何故かスザ子声。
一気に怒る気も失せて、再び息を吐く。

「ヤダじゃないだろ」

言って聞く相手ではないし、失言は自分のミスだ。
おそらく、スザクは仙波たちを警戒する気持ちもあるから、余計に手を出してくるのだろう。今は仕方がないかと諦めた。



「・・・どうやらルルーシュ君は転ぶようだが・・・」

仙波はあたりを見回しながら言った。
転ぶのはきっと、感覚が鈍っているせいだろう。
足を挫いた話も聞いたが、どこかで転んだからだと納得した。
この土地は、平坦とは言いがたいし、 川原は小石だらけで転べばかなり痛い。
ここ以外の場所だって転べば怪我をする恐れがある。比較的安全なのは砂浜ぐらいだが、あそこは足を取られやすいから転びやすいだろう。

「ここでは些細な怪我も、大きな病になりかねないから、ルルーシュくんのことはしっかりと見ていなければな」

一番怖いのが破傷風だ。
死亡率50%のこの感染症にかかった場合絶望的だ。
この無人島で治療など出来ない。
幼い頃に予防接種をしているとはいえ、今の衰弱しているルルーシュの身体を思えば、過信しないほうがいいだろう。
神妙な表情で話す仙波に、朝比奈は驚きの顔を向けた。

「・・・え、今のってそれだけが理由なんですか」

どう考えても、別の意図(主に自分に対するもの)がありそうだと訴えても、それ以外に何があると仙波は不思議そうな顔をしてくる。
ああ、だめだ。
男がこれだけいるというのに、その手に敏感なのは自分とスザクだけだ。藤堂も絶対に仙波と同じ反応をするだろう。
ルルーシュにベタベタくっついてても、身体に問題があるという先入観が邪魔をして、おかしいとは思わないのだ。
朝比奈は早くカレン達にここに来てくれと、本気で願った。

96話
98話