まだ見ぬ明日へ 第5話 |
「うわっ!会長もうこんな時間ですよっ!」 シャーリーが驚いたように時計を指差した。 寮の門限ぎりぎりの時間だ。 「あちゃー、まだ書類残ってるけど、今日はこれで切り上げね」 「こんなに溜まる前に出してくださいよ~それでなくても人手不足なんですから」 バタバタと書類を片付けながらリヴァルが珍しく文句を言う。 「ごめんね~。ほんっと、どこかにいい人材落ちてないかしらね~」 「会長が書類を早くに出してくれれば問題ないんですよ!じゃ、御先でーす」 シャーリーが鞄を持って慌てて出て行った。 「じゃ、私もお先に~スザク君、戸締りお願いね~」 「また明日な、スザク!」 会長とリヴァルも後に続く。 「帰り、気をつけてね。お疲れ様」 バタバタと走り去る音を聞きながら、戸締りを確認し、電気を落としてドアを施錠する。ホールの窓や玄関の鍵も施錠してから、僕は自分の部屋へ向かった。 19時か。ほんとに遅くなっちゃったな。 自室の鍵を開け、扉を開けると、部屋の中はうす暗く、勉強机の前に黒い人影がパソコンの光に照らされて浮かび上がっていた。 うす暗いその部屋にぱちりと照明をつける。 「お帰りスザク。今日はずいぶんと遅かったな。」 こちらに背を向けて机に向かっていたのは、黒髪に紫紺の瞳を持つ共犯者。 椅子を回転させ、こちらに向き直ると優雅に足を組んだ。 「生徒会の仕事が溜まっててね。きっと明日も遅くなるよ」 「そうか。まあ、明後日・・・土曜までこちらでやる事は無いから、その間はせいぜい学生生活を楽しむといい」 「またあのテロリストたちと何かやるの?」 「ああ、また正義の味方のご登場だ」 「正義の味方・・・ね」 シンジュク事変と呼ばれるあの毒ガス事件の後、総督クロヴィスは少しずつだが、間違いなくイレブンにも優しい治世を進めていた。それらはブリタニア人から多くの批判を受けたが、迅速に衛星エリアに昇格させ、テロを撲滅させるのが目的だ、と発表されると渋々ながらも同調する空気となってきた。 L.L.はここに連れてきた後、10日間眠り続けた。あれだけの傷を受けても大丈夫だと、シンジュク事変の折には動きまわっていたのだが、予想通りかなり無理をしていたようで、目を覚ました後も起き上がれるようになるまで3日かかった。 そして、起き上がれるようになるまでの間に、僕とL.L.は話し合いを続け、彼は僕の共犯者となった。 そして、僕たちはシンジュク事変で共に闘ったテロリスト、紅月グループのリーダー紅月ナオトと数日後連絡を取り、話し合いの結果共闘することとなった。顔も見せられず、名前も知られるわけにはいかない僕は、どこで用意したのかはわからないが、起き上がれるようになったL.L.が持ってきた仮面と衣装で姿を偽ることとなる。 漆黒の仮面と漆黒の外套。名前は<ゼロ>。 「不満そうだな」 「・・・君には僕の目的を話したはずだよ」 「日本の奪還か。そして戦争前に暗殺されたお前の父、枢木ゲンブ首相殺害の犯人探し、そして何よりもカグヤが幸せに暮らせる環境を整える事」 L.L.は当然分かっていると、フンと鼻を鳴らした。 土曜日、事前に決めてあった集合場所でシンジュクゲットーの紅月グループとゼロは合流した。 だが、リーダーである紅月ナオトが急用のため、少し遅れてくることとなり、しばらく待ち時間が出きた。その時、このグループのNo.2である扇要が、ここにいるメンバーの代表として話があると、深刻な表情でゼロに話しかけてきた。 「意味のない行動をして、皆を危険にさらすのは間違っている」 これは、先日の僕とL.L.とが話したあの内容と似ている。 L.L.はこの場にはいない。あくまでも表に出ず、彼らにはその存在さえ知られてはいない。僕の衣装に着いているタイピンに仕込んでいた送信機から映像と音を拾い、僕の耳につけている受信機で指示を出す。ここのやり取りを僕の部屋で聞いていたL.L.は、同じ問答をするのは面倒だと僕へ丸投げした。 「・・・意味のない行動、だと?」 「そうだ。正義の味方ごっこをする意味はない。この前だってもう少しで怪我人が出るところだった」 そうだそうだ!と、周りのメンバーが囃し立てる。 テロリストが何を言っているんだろう。怪我どころか死人だって出るのがテロだろうに。シンジュク事変ではお前たちの行動で、どれだけの無関係な民間人が巻き込まれて死んだか理解っているのだろうか。 「日本の諺に百里の道も一歩から。急がば回れ、というものがある。最初からトップを狙うのは危険だ。まず我々がすべきは地盤作りだ」 「地盤作り?」 「そう。一般人から見たテロリストとは、迷惑な存在だ。ブリタニアにとってだけではない、日本人にとってもだ。テロリストが動けば、危険だと判断され、身の安全を感じた一般人は軍や警察を頼る」 「・・・そうだな」 「だが、そのテロリストが悪を裁く正義の存在で、ブリタニア人も日本人も悪を行うものたちの被害者であるならば、人種を問わず、分け隔てなく助ける。そうなると一般人はどう思う?」 「・・・自分たちには害がなくなる」 「そう。自分たちには無害で、なおかつ何かがあれば助けてくれる可能性のある存在となる。その上、裏の世界でのさばっている悪を退治している、となると?」 「テロリストが動いても、誰も通報はしない・・・反対に協力者も出てくると?」 「まずは民衆を味方につけ、動きやすくする。ブリタニアとの戦争はその後だ」 「戦争!?何を言ってるんだ君は!」 扇が驚いたような声を上げた。 他のメンバーも声を荒げて、出来るわけないだろう!正気じゃない!と、喚き散らした。そんな中で、玉城は、俺たちはテロリストじゃねー!レジスタンスだ!と、見当違いの所でも怒っていた。 あーもーこの人たち、ホントに自分勝手でうるさい。 こんな人たちの協力って必要なの?L.L.。 「おいおい、何を驚いてるんだお前たち。日本を取り戻すってことはブリタニアと戦争するってことだろ?違うのか?」 どうしたものかと罵倒を聞き流していると、暗がりからそう声が聞こえ、一人の若者が姿を現した。 「ナオト!来てたのか」 「おせーぞナオト!」 悪い悪いと片手をあげながら、その若者、紅月グループのリーダー、紅月ナオトがゼロの前まで歩いてきた。 「悪いなゼロ。遅れてしまって」 「いや、問題ない」 「少し前に来てたんだが・・・面白い話をしていたから、つい盗み聞きをしてしまった」 「知っている。怪我人が出るところだった、と扇が言っていた時からだな」 「うわ、さすがゼロ。気付かれてないと思ったのにな」 バレてたのかと頭をかきながら、ナオトは人のいい笑顔で笑った。そしてぐるりとあたりを見回した。 「みんな、よく聞くんだ。テロ行為は抵抗の手段ではあるが、これを繰り返したところで日本は戻ってこない」 真剣な声音と表情で、ナオトが話し出すと、あれだけ騒いでいたメンバーは真剣な表情で口を噤んだ。 「ブリタニアの視点で考えてみろ。ブリタニアは大国だ。自分たち支配している土地のごくごく一部でテロ行為が起きている。そのテロリスたちが隙をつき、総督を倒したとしよう。どうなると思う?」 「総督を倒したなら俺たちの勝ちだろ!日本が帰ってくるんだよ!」 玉城が当然だろうという顔で言ってくる。 「・・・新たな総督が来るわね」 井上が玉城の発言を無視して答える。 「そうだ。新たな総督が今まで以上の軍隊を従えて押し寄せるだろう。テロリストを鎮圧後、日本人にとっての地獄が始まる。今まで以上の弾圧と差別だ」 ごくり、と息をのむのが聞こえた。 通信機の奥でナオトは優秀だな、とL.L.が呟いたのが聞こえた。 「だからこそ本気で俺たちの手で、武力で日本を取り戻すというのであれば、戦争だ。こちらも軍を率いて、新たに来る総督も軍もすべて追い払う」 ちがうか?と、ナオトはこちらに問いかける。 「そう、我々が目指すべきは戦争。革命戦争だ」 |