まだ見ぬ明日へ 第9話 |
「そうですよ、会長!勝手に人のキスを景品にしないで下さいよ!」 仮面を部屋に隠してから生徒会室へと入ると、戻ってきていたシャーリーとカレンが会長に詰め寄っていた。 年頃の乙女だ、怒るのも無理はない。 「だぁってぇ~、そのほうが盛り上がるでしょ?」 と、反省の色を全く見せずに、いたずらっ子の笑みでミレイは紅茶を一口含んだ。 「ん~おいしい!ジュリアスさん、紅茶入れるのお上手ですね」 「会長、話そらさないでくださいよ!」 ぷりぷりと怒るシャーリーに、駄目?と、ミレイは肩をすくめた。 「でも、本当においしいです」 いまだ頬を染めたままのニーナがそれに賛同すると、詰め寄っていた二人も席につき、用意されていた紅茶を口にする。 「ほんとだ、おいしい!」 「これ、生徒会で使ってる茶葉ですよね?」 同じ茶葉でこれだけ味が変わるの? 「ええ、ここに置いてあった物を使いました。皆さんの口に合ったようで、嬉しいです」 と、僕に紅茶を入れながら、L.L.は普段では絶対見せないような微笑で答えた。 その瞬間女性陣の頬がぽっと染まる。あのリヴァルでさえ、一瞬目を奪われているのだからホントに恐ろしい。 紅茶のお替わりいれてきますね、と彼が席を立つと途端に部屋が賑やかになる。 「本当に男にしておくのが勿体無いぐらい綺麗よね~」 「ほんと、美人」 「嫌味なぐらい美形よね」 「うん、かっこいいよね、芸能人とかモデルみたい!」 「いや、でも、俺は会長のほうが!!」 「あ、さっきも言いましたけど、ホントに彼の前で美人とか綺麗とか可愛いとか、言わないでください。男に向ける言葉じゃないって、不機嫌になるので」 「分かってるわよ。だから居ないときに言ってるんじゃない」 リヴァルの告白は綺麗に無視して、女性陣は尚もL.L.の話題で盛り上がる。 ああ、この目が見えない事をこんなに悔やんだ事はありませんわ!と、本当に悔しそうにカグヤは言った。 「でも、これで解決したわね。まさか、スザク君の知り合いとは思わなかったわー」 うんうん、とニーナとリヴァルも一緒に頷く。 「え?何の話し?」 「んー?聞いたことない?幻の美形の噂」 「幻の美形!?」 「そう、うちの学校の生徒かは不明、性別不明。分かっているのは短い黒髪と紫の瞳のブリタニア人で、黒を基調とした服を着ているという事。そして超美形!」 「この近辺の商店街にたまに出没し、この学園内でも目撃証言があってさ、いったい誰のことだ!って話になって」 仕事のない今日、暇な生徒会メンバーでその幻の美形を探そう!という話になり、僕を誘いに来たのだという。 どうやら彼が外出した際に見かけた人たちが、そういう噂を流したようだ。 あれだけ目立つ容姿だ、気にする人が出て当然か。 こんな噂になってるなんて、全然大丈夫じゃないよL.L.! 「で、どこで知り合ったの?ナンパでもした?」 服装によっては絶対女の子に見えるわよ、彼。 「前に僕が困っていたところを助けてくれて。彼はとても頭よくて、僕ではどうにもできない事をあっさり解決してしまったんです」 嘘は吐いてない。シンジュクで彼に命を助けられ、彼の作戦のおかげで総督を押さえたのだから。 「頭、いいの?どのぐらい?ニーナぐらい?」 「ニーナ以上じゃないかな?あんなに頭のいい人、僕は初めてだよ」 へー、そうなんだと何やら思案顔のミレイ。 やばい。また何か変なこと考えてるのか? その時、かちゃりと扉が開き、L.L.が戻ってきた。 「ジュリアスさんって、学生なんですか?」 「高校は今年卒業しました」 と、先ほどまで座っていた席に着きながらL.L.は答えた。 「大学は?行かなかったんですか?」 「学びたい事も、やりたい事もありませんでしたから」 「という事は働いて?」 「株を少々。自分一人だけですし、生活には困りませんよ?」 どうも、人付き合いは苦手で。 「苦手そうには見えないですよ?」 「ここにはスザクとカグヤが居ますから。これでも人見知りは激しいんですよ?」 どこからどこまで本当なのか、始終人の良さそうな笑みで答えていた。 夕食が終わり、のんびりと会話を楽しんでいると、来客があった。 「夜遅くにごめんね?スザク君とカヤちゃん、そしてジュリアスさんにちょっと話があるの」 突然の来訪者はミレイ。真剣な声音で言う彼女を部屋の中へと招き入れた。こんな時間に、連絡もなしに来る人ではない。何かあったのかと、僕たちは無意識に体をこわばらせる。 咲世子の入れた紅茶を一口飲むと、ミレイは口を開いた。 「ジュリアスさん、ひとつ提案があるんですが、聞いてくれます?」 「提案、ですか?」 今までの笑顔を一変させ、、ミレイが真剣な面持ちになった。 「今住んでいるところを引き払って、このクラブハウスに住む気ありませんか?」 「「え!?」」 僕とL.L.は同時に驚きの声を上げた。 ミレイ曰く理由は以下のとおりである ・(こんな美形の)一人暮らしは何かと危険だし、ここに住めばいつでもカグヤの相手をしてもらえる。 ・収入源が株なら、ここに住んでいても問題ない。(理事長承諾済み) ・人に頼らないスザクが、当り前のように頼っていて、しかも信頼しているのが分かる。 ・失明して以来、物静かで消極的なカグヤがこんなに元気になるほど信用している。 ・幻の美形の噂が独り歩きする前に、スザクとカグヤの身内だという事にし、噂を鎮静化させたい。 「あと、生徒会が忙しいときに手伝ってもらえたらな~って」 「それが一番の理由ですか?」 と、笑みを消し、真剣なまなざしのL.L.から突っ込みが入った。 「や~ん。ばれた?」 「生徒会の仕事は、生徒がするからこそ意味があるのでは?」 「それは確かにそうね。でも何でかしら・・・あなたを見ていると、一人にしたくないのよね」 彼女は、まるで手のかかる弟を見るように優しく目を細め、微笑んだ。 「見知らぬ他人を、ここに住まわせる事に不安は無いんですか?年頃の女性もいるんですよ」 「私、人を見る目はあるのよ?それに、この二人がこんなに誰かを受け入れているの、初めて見たわ」 彼女は、スザクとカグヤへにっこりと微笑みかけた。 そうなのか?と問いたげに、L.L.がスザクへ視線を向けた。 「そんなことないですよ。生徒会のみんなとだって」 「プライベートスペースに、私以外入れた事あった?」 僕が言葉に詰まり、口を閉ざすと、それが答えなのよ。と、ミレイは優しく微笑んだ。 「で、カヤちゃんはどう思う?お兄ちゃん以外の男性が一緒に住むのは不安?」 「いえ、そんなことはありませんわ。ジュリアスさんなら、むしろ大歓迎ですわ!ね、お兄様」 「僕は、彼が一緒に住んでいいというなら、もちろん歓迎です」 実際ここに住んでいるわけだし、今後周囲を気にすることなく行動できるようになるのは大きいと思う。 ちらり、とL.L.を見ると目があった。 「・・・少し、考えさせてください」 と、彼はその場で回答することを避けた。 |