まだ見ぬ明日へ 第104話 |
最初はただの言葉遊びだった。 ロイドとセシル、ラクシャータはいつものように取りとめのない会話をしながら研究に明け暮れていた。 自分たちは何を目指し研究をするのか。 どんな物を生み出したいか。 夢物語と笑われてもいい。 その夢をいつか実現して、笑った奴らを見返せばいいだけだから。 研究馬鹿と言っていい三人はいつも時間が許す限り研究室に居た。 他の仲間はその三人についていけず、一人、また一人と姿を消した。 そんな時だった。 「僕もいつかKMFを作りたいんだよね~僕好みの最強のKMFを!」 昔からロボットアニメを好み、いつか自分でも作りたい、必ず作る、誰にも負けない最強のKMFを。そんな夢を幼いころから抱いていた。 誰にも負けない最強の騎士を生み出すのは僕だと。 いまブリタニア軍で研究中の不格好なKMFではなく、アッシュフォードが開発しているガニメデとも違う、まさに騎士というにふさわしい美しいKMFを自分の手で。 「やっぱり僕の騎士は白。白と金を基調としたカッコイイ白の騎士」 うっとりと、夢見るようにロイドは口にした。 「いいですね。武器はやはり銃より剣がいいと思います」 今のKMFの基本攻撃方法は銃だ。 騎士というならやはり剣がいい。 「プリン伯爵~作るのはいいけど、パイロットの事は考えなさいよ。私はそうねえ、一撃必殺の武器を装備した機体がいいわね」 こう、ドカンと一発で形勢逆転できるような、そんな武器。 「いいねいいね、必殺技は基本だよね」 「では、ロイドさんの白の騎士には、強力な弾が装てんできる銃なんていいかもしれませんね」 近接攻撃だけではなく、遠距離にも。 自分たちが思いつく限りの、夢の機体に関する会話。 その会話の中で、違和感を感じ始めたのはいつのころからか。 「でもさぁ、一撃必殺はいいけど、あの腕はどうかと思うよ?普段の戦闘では扱いにくいでしょ」 ロイドが口にしたこの言葉が、決定打だった事は疑いようがなかった。 「腕・・・?」 「そう、右腕。パイロットが左利きじゃないとあれは扱いにくいでしょ。それにやっぱり作るなら黄金比だよねえ。ラクシャータの機体は上半身が重そうだし」 「まってプリン伯爵。私、右腕を鉤爪にする話、してないわよね?デザインだって教えてないわよ」 「え~?そうだっけ?」 ロイドとセシルは顔を見合わせた。 ラクシャータが作りたいと言った赤の騎士のイメージでは、その右腕に必殺の武器が装着されており、その武器の形は鉤爪。 ブリタニアの騎士とはタイプのちがう、重量感と迫力のある機体。 二人は難なくそこまでイメージ出来ていたため、以前事細かに説明をしてくれたのでは?と返答した。 「・・・そうだったかしら?」 ラクシャータは眉を寄せた。 「まあいいわ。それよりプリン伯爵。作る時はちゃんと脱出装置はつけなさいよね。万一って事もあるんだから」 機体のバランスよりも、そっちの方を考えなさいよ。 その言葉で、今度はロイドは苦虫をかみつぶしたようにラクシャータを見た。 「なーんで知ってるのかなぁ。僕が脱出装置着けるつもりが無いの。僕、誰にも話してないのに」 だが、セシルもラクシャータも、ロイドが作る白の騎士に脱出装置が付かない事を知っていた。 知りえない情報を共有している。 三人は暫くの間無言で互いを見つめていた。 いまだ設計図すら描かれていない2騎のKMF。 そのイメージを克明に思い浮かべられることに、ようやく気がついた。 何かがおかしい。 そこからは研究そっちのけで、互いの情報を精査し合った。 「僕のランスロットのデバイサーは、多分・・・日本人だと思うんだよね」 あの国に理想のパーツがいるはずなんだ。 「あら奇遇ね。私の紅蓮のパイロットも日本よ」 するりと、まだ決めていなかったはずの機体の名前が口をついた。 「ランスロットには男の子、紅蓮には女の子、ですよね?」 話しを進めれば進めるほど、情報は湯水のように頭から湧きだしていく。 とうとう歴史書まで引っ張り出し始め、そこで一つの謎を見つけ出した。 「おかしいと思いませんか?皇歴より前の資料が一切無いんです」 「皇歴の前はたしか正暦だったよね」 「はい。ですが、どうやらそれらは口伝で残されていただけで、正歴に関する資料は皇歴に作成されていました」 「皇歴が始まる時に何かあったのかしら?」 記録すら残っていない2000年以上前の出来事。 回答は、出なかった。 資料をあさっては悩む日々。 そんな中、最初に全てを思い出したのはロイドだった。 ある日ロイドが血相を変えて研究室に飛び込んできた。 らしくないその様子に、セシルとラクシャータは目を瞬かせた。 「こここ、これ見て、これ!!」 差し出されたのは異国の言葉が書かれた新聞。 日本という名の極東の島国の新聞だった。 そう、自分たちの可愛いKMFのパイロットがいる国。 たまたま知り合った日本人に、日本に興味があると言ったところ、なら読むかい?と貰ったその新聞を、ロイドは乱雑に広げた。日本語が読めないため、何が書かれているかはさっぱりだったが、そこには日本の首相と、その息子の写真がカラーで載っていた。国民から慕われているという首相と、愛らしい笑顔を向ける幼い男の子。 「この子!この子っ!この子だよっ!僕の大事なパーツ!僕のランスロットのデバイサー!スザク君だ!」 見つけた!思いだした!と、興奮したように踊り狂うその男が口にした名前に、セシルは凍りついた。 「スザク、君?」 そしてもう一度写真をみる。 栗毛色の癖っ毛、大きな緑色の瞳。 ああ、この子を私は知っている。 愛していた。 弟のように。 家族のように。 でも。 「・・・自分を、殺した英雄」 ぽつりと、セシルは言葉をこぼした。 「・・・ゼロ?」 ラクシャータもまた、こめかみを押さえながら、言葉をこぼす。 頭が痛い。 まるで脳に棘が突き刺さっているような痛さだ。 脳を掻きまわされるような、そんな不快感もまざりだす。 「そう、2代目ゼロの枢木スザク!陛下とスザク君が行ったゼロ・レクイエム!あーどうしてこんな大事なこと忘れてたのかなっ!」 一度記憶のカギが開けば、その後は簡単だった。 |