まだ見ぬ明日へ 第105話


「つまり、最初から知っていた訳か」

ロイド、セシル、ラクシャータの顔を順に見ながらC.C.は呟いた。
ふと、開戦前に3人揃って大学にいたのか?と思ったが、頭のいいこいつらの事だ、飛び級かもしれないし、年齢があの時と同じかも解らない。5.6歳程度の誤差は、今まで何度も見たことがあるから。

「ええ、ええ、知ってましたよ。お二人とも、誰も知らないと油断してたでしょ?実はですね、過去の資料を探していくと、歴史の要所要所に謎の人物の情報がありましてね、写真が普及した頃の資料に残っていたんですよ」

群衆に紛れたお二人の姿が。
それは広大な砂漠の中から宝石を見つけ出したようなものだった。
あの時の歓喜をどう言葉にすればいいか解らない。
自らを魔女と名乗る女性。
その女性が魔王と呼ぶ男性。
そして、群衆の中に埋もれた長い髪の女性と、帽子を目深に被った男性。
それが誰なのかは知っている。
だからすべてを理解した。

「陛下がV.V.のコードを継承したのだと、すぐに気が付きました。再会できた時には、ホントに嬉しかったんですよぉ?」

気づきませんでした?
L.L.が陛下だと確定したのは、ナリタで手当をした時ですが。
そう言いながらロイドは視線を動かした、つられて視線を向けると、その先には装飾のついた重厚なマントを身に纏い、息を切らす事も無く立つスザクの背中が見えた。
そしてその周りには、倒れ伏したナイト・オブ・ラウンズ。
残っているのは皇帝・皇妃・嚮主。
そしてラウンズのワンとシックス。
ロイドはゆっくりと立ち上がると、嚮主に目を向けた。

「貴方がV.V.ですね。ブリタニア皇帝シャルル陛下の双子の兄君。いや~コードが無くてもやっぱり進めちゃうんですねぇ、ラグナレクの接続を」

へらりと笑いながら、ロイドはそう言った。

「ロイド、ラグナレクの接続を誰から聞いた」

皇帝の重厚な声が辺りに響く。
だが、そんな声に臆すること無く、ロイドはへらりと笑った。

「我が君からですよぉ」

ねえ、セシル君。

「はい、我が君から全て伺いました」
「私も知ってるわよ。この二人から聞きだしたからねぇ」

ラクシャータも手を振りながらそう言った。
スザクは一瞬だけ後ろへ視線を向けたが、すぐに正面へ向き直った。科学者達が気になるが、今はまだ警戒を解くわけにはいかない。
目の前にはワンであるビスマルク、シックスであるアーニャ、そして元シックスであるマリアンヌがいるのだ。最強と呼ばれた皇妃と、現在最強と呼ばれるナイトオブワン。
どちらも厄介な相手だった。

「ならば話が早い、お前たちは我らの元へ来るがいい。そうすれば、お前たちの望むように少しばかり世界をかえてやろう」

何せ次の神は儂なのだから。
皇帝は威厳を放ちながらそう言ったが、科学者三人は呆れたように肩をすくめた。

「いりませんよぉそんな世界。僕が欲しいのはそんな下らない物じゃないですからねぇ」

下らないと断言したロイドを睨みつけ、「愚か者めが」と、唾棄するように皇帝は言った。これから訪れる嘘のない世界がどれほど素晴らしいものかを、全く理解していないのだ。そして、こちらにつく褒章として与えられる物が、どれほどの価値があるかもわかっていない。

「新たな世界を構築することの素晴らしさが理解らないなんて」

マリアンヌは呆れたように言った。

「未来は既に決定している。我々と共に来るのが正しい道なのだ」

嚮主は、KMFを作るしか脳のない人間にはわからないのかと、ロイドたちを見下すように見つめ、言ったが、ロイドは一瞬だけ驚いたような顔をした後盛大に笑い声を上げた。いや、笑い転げていた。場の空気が一転するほどの馬鹿笑いに、流石に拙いとセシルは止めに入った。

「ちょっと、ロイドさん」
「いやだって、まだスザク君が言った事理解してないよぉこの人」

あーおかしい。

「理解していない、だと?」

眉を寄せ、嚮主は言った。

「スザク君が言ってたじゃないですかぁ。根本的に勘違いしているって」
「貴様まで言うか。勘違いなどしていない、私の予言は嘘偽りない真実!私は知っているのだ!全ての未来を!これから起きる全てのことを!」

神が、私を選んだのだ!
人々を導くために、神が私に未来を教えてくれたのだ!
声を張り上げ、辺りを威圧するように放たれた言葉に、スザクはふっと笑みをこぼした。あざ笑うような、憐れむような笑みだった。

「違う、それは予言じゃない。未来じゃないんだ」

確かに、真実に気付かなければ未来だと思ってしまう内容だろう。スザクも、あの時ナリタで知り得た情報は、これから来る未来の事なのだと信じて疑わなかった。でもそれは、これから起きる未来の予言ではない。

「何?」

嚮主達は訝しげに眉を寄せた。

「・・・記憶」

ぽつりと、呟かれたその声は、スザクのものでは無かった。
嚮主のすぐ近く、マリアンヌのあたりから聞こえた女性の声。

「全ては過去。予言は記憶。この世界は、やり直しの世界」

呟かれるように語られた言葉。
それと同時に、マリアンヌが崩れ落ちた。
予想外の状況に、全員が目を見開き、息をのんだ。
地面に倒れ伏し、意識を無くしたマリアンヌを見下ろし立っていたのは、ナイト・オブ・シックス、アーニャ・アームストレイム。彼女はその手に何かを持っていた。
バチリ。
アーニャの手元で電気のはじける音がした。
彼女が手にしていたもの、それはスタンガンだった。

「やりなおし・・・だと?」

崩れ落ちた皇妃に一瞬だけ視線を動かした後、嚮主は後ずさった。
思わぬ伏兵に皇帝とビスマルクもまたアーニャに対し警戒姿勢を取る。
こちらに背を向け立っていたアーニャは、ゆっくりと振り返る。

「そう、やり直しの世界。既に終わった時代を繰り返しているだけの偽りの世界。過去を繰り返しているだけの、未来のない世界。だからブリタニアにV.V.のコードは無い。だってルル様が受け継いでしまったから」

強制的に、受け継がされてしまったから。
バチバチと音を鳴らすそれを手に、アーニャは淡々と口にした。

「もういい?早く終わらせて、ルル様の手当てしたい」

視線をスザクたちの方へ向けた後、こてんと首をかしげながら、同意を求めた。

「ああ、終わらせよう。このような茶番、これ以上付き合うつもりは無い!」

男の、力強い声があたりに響いた。
声の方へ視線を向けると、全力で皇帝に向かって走る人物の姿。
それは、青い髪とオレンジの瞳を持つ忠義の騎士。

「シャルル皇帝、御覚悟を!!」

皇帝へ刃を向けたジェレミアに、ビスマルクが応戦しようとするが、阻止された。

「ヴァルトシュタイン卿。貴方の相手は自分です」

それは、素早く駆けこんできたスザク。

「貴方の相手は私」

嚮主の目の前にはアーニャが立ちふさがった。

「この愚か者たちが!神よ!ギアス兵をここへ!!邪魔者は全員殺せ!!」

呼応するような音と共に、再び空間が激しく揺れ動いた。空間が歪み、スザク達を囲むように軍人達が姿を現した。彼らの瞳は片目だけ赤く爛々と輝いており、瞳の中にはギアスの紋章が刻まれていた。

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