まだ見ぬ明日へ 第108話


「多分、この中で最初ん死んだのって私だよね?」

シャーリーは確認したあと、少し迷いながら話し始めた。

「私が神根島で思い出した事が正しいのか、ちょっと自信無いんだけど・・・これは私が死んだ後の話なの。ルルもC.C.さんも、知らないと思うんだけど・・・Cの世界って、現世とあまり変わらないの」

Cの世界・・・神と同化する事の許されないコードユーザーには、見ることの叶わない場所だった。死者の記録と接し、神に干渉することはできるため、そうして得られた情報が全てなのだと二人は信じていた。
だが実際には、コードユーザーが接することのできる死者の記録は、現世で生きていた頃の記録だけで、その後の、Cの世界に戻った魂が再び現世に戻るまでの間の記録には、触れることが出来なかったのだ。
シャーリーが語ったのは、不死である二人には知ることの叶わない、死後の世界の話だった。

「私はね、ああ、死んじゃったんだな、これからどうしようかなって考えながらお花畑を歩いていたの。そしたらね、そこで会った人に、ここでは現世での未練を断ち切るための場所で、大抵の願いは叶うんだよって教えてもらったの」

大抵って何だろう。
どのぐらいだろう?
まず頭に浮かんだのは、泳ぎたいということだった。

「そしたら海が突然目の前に現れたの。でも私、海よりプールがいいなって思ったら、今度は目の前にプールが現れて、私みたいに泳ぎたいと思ってた死者がたくさん集まっているプールサイドに立ってたの」

その後は沢山泳いだ。死んだとはわかっていても、まだ頭の中が混乱してたから、一度全部頭を空っぽにしたくて、泳いで、泳いで、泳ぎ続けた。

「どのぐらい泳いだかは解らない、1年ぐらい泳ぎ続けていたのかもしれないって思うぐらい泳いだから、もう泳がなくていいかなって思って、私はプールから離れて死後の世界を歩き回ったの」

死者の体は食べ物も睡眠も必要ないし、疲れない。
だから休むことなく今度は歩き続けた。
死後の世界には数多くの建物があった。
建築に携わっていた人、あるいは携わりたかった人。
いろいろな人が思い思いに建築した造形物。
その中でもひと際目立つ建物に足を踏み入れた。

「大きな建物なんだけど、部屋は1室だけ。正面の壁に大きな絵画が飾られていたの」

映画のスクリーンより遥かに大きい絵だった。
そこまで言うと、シャーリーはスッと視線をL.L.へと向けた。

「ルル・・・ううん。仮面を脱いだゼロと、ユーフェミア様が笑顔で握手をしている絵だった」

ピンクのドレスを着たユーフェミアと、ゼロの衣装を着たルルーシュが。
その意味を察し、L.L.は息を飲んだ。

「それは、クロヴィス殿下とユーフェミア様が二人で作り上げた巨大な絵画。それを見に、多くの人がその建物・・・ううん、美術館に訪れていたの」

その数は数百人以上だった。
虐殺皇女とゼロの衣装を着た少年の絵に、誰もが驚いていた。

一体なんだこの絵は。
行政特区は日本人を殺すための物だったのに。
なぜ皇族二人がこんなものを描いているんだ。

怒りと憤怒が満ちたその場所で、クロヴィスとユーフェミアは、まるで歌う様に、踊る様に、笑いながら絵に筆を乗せていた。
その絵をもっと近くで見ようと、人々を押しのけシャーリーは前へ前へと進んだ。

「最前列まで来て、その絵を見上げていると、ユーフェミア様が私に気がついて、手伝って欲しいとおっしゃって、私は手伝うことにしたの。そしてらね、もうじきこの絵は完成するから、次の絵の題材になるルルの話は無いかって聞かれて」

私は話した。
ナナリーちゃんとルルの話を。
その絵が完成した後、車いすに座るナナリーとルルーシュが穏やかに笑いあう、シャーリーがよく目にしていた二人の姿を描き始めた。

「それを描いている間に、どんどん知っている人たちが集まってきたの」

最初はニーナ。
事故とは思えないような事故に巻き込まれて、死んだのだという。
きっと、死の女神を産んだからだと言っていた。
次にリヴァルとミレイ。
真実を知りたくて、無茶をしたのだという。
いつの間にか、見知らぬ人もたくさんいた。
ブリタニアの軍人だったり、日本人だったり、中華の人もいた。
皆、後悔に満ちた表情で、手伝っていた。

「その絵が完成する頃、カレンが来て、暫くしてスザク君が来た。そこが始まり」

美しい兄弟が笑いあう絵、ゼロとユーフェミアが握手を交わす絵。
それを茫然と見上げていたカレン。
そして、こんな絵はあり得ないと叫んだスザク。
そこが、はじまり。

「僕がそこに行った時、ブリタニアの軍人だけじゃなくて、騎士団の人も手伝っていた。藤堂さんたちもその中にいて、何の冗談だと、最初は思ったんだ。しかも、ルルーシュと・・・ゼロとユフィが握手を交わすなんて、そんな事、あり得ないのにって」

スザクは苦笑しながらそう言った。
信じられない。それは、悪逆皇帝を知る全員の思いだっただろう。 だが、その絵を描いた一人がユーフェミアで、聞けばこれが真実なのだという。

そしてユーフェミアは語る。
あの日何が起きたのかを。

そして今度は2枚の絵が同時に描かれた。

「悪逆皇帝を討つゼロの姿。そして悪逆皇帝が、その騎士に仮面を渡す姿」

その言葉に、L.L.とC.C.はスザクを見た。
それを知っているのは三人だけ。
皇帝と騎士と魔女だけ。
つまりスザクが話したという事。

優しく笑い合う兄妹
皇女とゼロが手を取り合い
皇帝が騎士に仮面を渡し
ゼロに皇帝が討たれる

全ての絵を書き終え、満足したクロヴィスとユーフェミアは一冊の本をミレイに手渡した。それは、明日を願った英雄の物語。ユーフェミアが行政特区の真実を語った後、つられるように皆、隠されていた真実を語りはじめた。この本はそれらを纏めたもので、執筆したのは既にここから旅立ったシュナイゼルだった。

貴女の好きなようにしてください。
私の大好きな異母兄のために。

この時、真実とともに、お祭り娘に超火力を持つ燃料が投下された。

「そういうことなのね。任せて下さい!この本、最大限に活用してみせます!」

キラキラと楽しげな表情で言ったミレイは、最大限に活躍するためにはと、その本を大量に増刷した。ここは大抵の願いが叶う場所。同じ本が欲しいと願えばその分だけ本は生まれた。ミレイは大量に増刷したそれらを、まずはルルーシュの関係者に配った。そしてさらに増刷し、報道関係や劇作家、映画関係者達を集め配った。

死んだ後、創作意欲を失った者は多い。
隠されていた英雄の物語は、そんな彼らの創作意欲を激しく刺激した。

明日を欲した英雄達の真実を。
戦争の無い平和な世界を願い、そのための生贄となった少年王の物語を。
悲しみと憎しみと慈愛に満ちた人々の物語を。
作家たちは熱心に物語を描き、多くの役者が演じ、劇となり、本になり、絵になり、歌となり多くの死者はそれらを目にし、耳にした。
英雄の物語と4枚の絵画は死者の心に刻み込まれ、人々の記憶から消えると消失する”死者の造形物”は、クロヴィスとユーフェミアが姿を消し、スザク達もまた姿を消した後も、Cの世界に残り続けた。


「僕たちは生と死を繰り返し、何度もCの世界で君の絵を見、物語に触れ、その度に記憶を取り戻した。そして何度目かの死を迎えた時に、僕たちはようやくある事に気がついたんだ。・・・Cの世界のどこにも、君がいない事に」




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以下どうでもいい話

Cの世界の住人(=神)は、ほぼ全員ルルーシュ至上主義。・・・というトンデモ設定の説明回。ええ、こじつけの酷さは自覚してます。

以下死亡年齢を適当に。

ニーナは事故に見せかけた暗殺で20代に。
ミレイとリヴァルは、反ルルーシュ派の手で殺害される。20代後半。
藤堂や玉城、星刻たちも順次加わる。
カレンは40代から闘病で50代に病死。
スザクは60代前半、飛行機爆破テロで。
カグヤ、ナナリーは、それぞれの国に守られていたため老衰。
コーネリア、シュナイゼルはスザクより前には死亡。

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