まだ見ぬ明日へ 第11話


「これが、アジト!?」

僕はL.L.に連れられやって来たその場所に驚きの声を上げた。
その日はL.L.の引越しが終わった翌日で、ナオト達と会う約束の日だった。
約束の時間よりだいぶ早くに出かけた僕たちは、今日ナオト達を案内するというアジトの下見に来ていた。
アジトと言うからてっきり建物だと思っていたが、予想外にそれは車だった。
キャンピングカーにしては大きすぎるその車はまさに動く一軒家。
軍に位置を悟られても、これなら移動も簡単だ。
中に入ると、ソファにテーブル、テレビまで備え付けられている。
二階もあり、ゼロ専用の部屋も用意されていた。

「どうしたのこれ!?」
「欲しいと言ったら気前よくくれたんだ」
「え!?誰が!?君、何か危ないことしてないよね!?」

あまりの内容に思わず詰め寄ると、彼は眉根を寄せて不機嫌な声で言った。

「だから、何でお前は俺に対してそんなに過保護なんだ。俺は仮にも年上だぞ?それとも俺はそんなに信用ないのか?」
「それは、その・・・」

正直に言うと信用はない。裏でこっそり危険な事をしている気がしてならないのだ。
そんな感情が僕の表情に出ていたのだろうか。

「・・・もういい。あと2時間は余裕があるから、ちゃんと中を把握しろ。後でナオトと泉たちをここに呼ぶんだからな!」
「わかったよ、そんなに怒らないで」

L.L.の機嫌は急降下し、僕の言葉を聞く前に、眠いと言ってさっさと二階へあがってしまった。ゼロの部屋の扉が閉まったのを確認し、僕は溜息を吐いた。
また、怒らせてしまった。
最近L.L.とは口論ばかりだ。
口でははっきり言って勝てないんだが、彼の身の安全や健康に関しては、どうしても引けない。
不死だからなのか、彼には自分の身を守るという意識が欠落している気がする。
自身の安全に頓着せず、無理に無理を重ねて、いつか取り返しのつかないことになるという恐怖を感じてしまい、どうしても口うるさくなってしまう。
・・・まあいい。さっさと確認を終えて、彼をクラブハウスへ戻す。急げば東京租界の安全な場所まで送ることができる。
そしてそこから何時も通りに指示を出してもらうのがベストだった。
だがイレギュラーというものは起こってしまう。
突然鳴った電話の相手はナオトだった。

『すまない、実は・・』

と、言いずらそうに話しだした内容に僕は驚いてしまった。
約束の時間まで2時間以上あるというのに、すでにナオトと泉のグループが全員集まっているというのだ。
いい大人が暇をもて余しすぎだろう、と内心思いながらL.L.を見に行くと、僕が部屋に入ったのにも気がつかず、ぐっすりと眠っていた。
連日、情報収集や今後の方針、資金繰りやこれから組織される黒の騎士団の骨組みの作成をほとんど一人でこなしているのだから仕方がない。もしかしたら、まだ死んだときのダメージも残っているのかもしれない。
さて、どうしたものかと、その穏やかな寝顔を見ながら考える。
今日やるべきことは、仲間になる意思表示と、このアジトに招き入れる事、そして制服の支給。流れはすべて聞いているし、元々イレギュラーがない限り、今日はすべて僕の判断で動けと言われていた。
ならば、今起こしてしまうと、彼は一人で帰ると主張するのは目に見えているので、そのまま眠らせておこう。念のためフード付きのロングコートを用意していたので、これで顔を隠して連れて帰ればいい。
僕は彼を起こさないようゼロ服に着替え、部屋をロックして集合場所へ急いだ。




「おお・・!」
「これは、すごいな」

アジトの扉を開き、ナオトと泉は驚きの声を上げ、あたりを見回しながら中へと足を踏み入れた。
僕は、一番奥のソファに座りながら、彼らが入ってくるのを静かに待つ。

「今からここが、私たちのアジトだ」
「それはつまり、俺たちの仲間に、いや、リーダーになってくれることを承諾してくれた、と受け取ってもいいのかな?」

ナオトと泉が真剣な顔でこちらをみつめる。

「ああ、今から私たちは仲間だ」

そう答えると、二人の表情がぱあっと明るくなった。

「よっし!改めてよろしくな、ゼロ」
「君と仲間になれて本当にうれしい。よろしくたのむ、ゼロ」

ナオトと泉が僕の元まで歩いてきて握手を求めたので、僕は立ち上がり、それに応じた。他のメンバーはこのアジトに興味津津といった様子で、あちこちで感嘆の声をあげている。

「こんなものいったいどうやって?」

扇が不思議そうにこちらを見て訪ねてきた。

「頼んだら譲ってくれたよ」
「頼んだって、そんな簡単に」

扇が驚きの声を上げる。
その気持ちは、すごくわかるよ扇。

「大丈夫だ、足は付かない」
「その辺は心配していないよゼロ、しかしすごいね。どうやったらそんな伝手ができるんだか」

ナオトは感心しながら、アジトの中を見回した。

「俺には無理だ。バイク一台用意するだけでも手一杯だったからな」

自分には無理だと泉は両手をあげて降参のポーズをとった。
僕も無理だ、と声には出さずに同意する。

「おいおい、二階もあるぞ?大きすぎないかこの車」
「でも、逆にこれぐらいのほうが盲点になるかも」
「テレビまでついてる」

南がソファに座りながらリモコンを操作し、テレビをつけた。
映し出されたのはニュース番組で、右上にLIVEの文字。
それは河口湖のコンベンションセンターホテルが日本解放戦線を名乗るテロリストに占拠されているというものだった。
その映像に僕たちの目は釘付けとなった。

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