まだ見ぬ明日へ 第12話

日本解放戦線の草壁中佐が起こした河口湖のコンベンションセンターホテル占拠。
そのニュースに皆釘づけになっていた。
そこに映し出された人質には、生徒会のメンバーが映し出されていた。

(そうだ、たしか河口湖に行くと・・・まさか皆が人質になるなんて・・・!)

「日本最大の反ブリタニア勢力だからな、意地もあるんだろう」
「俺たちへの?」
「かもな・・・」
「喜ぶべきか、悲しむべきか」
「でも、こんな事をしたところで日本を取り返せるわけがない。しかも自ら出口を狭めて、籠城するにも厳しい場所だ。何がしたいんだ草壁中佐は」

ナオトは怒りを露わにしながら、画面を見つめてつぶやいた。

「どうしたんだナオト。らしくないなそんなに怒って」

扇が不思議そうに問いかけた。
何時も冷静沈着なナオトらしくない態度に、皆が驚き彼へと視線を向けると、その視線に気が付いたナオトは数瞬、迷うように視線を彷徨わせた後、重い口を開いた。

「・・・カレンの・・・妹の友人がいたんだ」

え?と、周りから驚きの声が上がった。

「妹は俺と違ってブリタニア人とのハーフなんだ。・・・父親が違う。妹はその父親の元で暮らしてブリタニア人として学校に通っているんだ。この前、妹に会ったときに、楽しそうに学校の友人の写真を見せてくれたんだ・・・その友人が映ってた」

・・・すまない、私情で話してしまって、とナオトは笑ったが、明らかに無理をしていた。

(カレン?友人?ブリタニア人?まさか、カレン・シュタットフェルトはナオトの妹!?)

その可能性に行き着いたとき、僕の携帯電話が鳴った。表示を見るとリヴァルからだった。ここで出るわけにはいかない。僕はすぐに電源を落とす。

(わかってるよ、リヴァル。でも・・・)

僕は、周りに気づかれないよう、静かに二階のゼロの部屋へと移動した。
部屋のロックを開け、素早く中へと入り、ロックをかける。
僕は急いでマスクを脱ぐと、ベッドに寝ているL.L.へ近づいた。

「L.L.起きて!大変だL.L.!!」

少し乱暴に体をゆすると、瞼がピクリと痙攣した後、ゆっくりと開き、ロイヤルパープルの瞳が姿を現した。僕はそれを確認した後、リモコンでテレビを操作し、先ほどのニュースチャンネルを選択する。

「ほら、起きてよ」
「・・・ん」
まだ横になったままボーっとしているL.L.の体を無理やり起こして、テレビの画面を向くよう体を支えた。低血圧なL.L.は覚醒するまで少し時間がかかる。

「・・・なんなんだ、いったい・・・」
「大変なんだ。生徒会のみんなが人質に!ほら見て!」

寝ぼけながら目を擦り、L.L.はテレビに目を向けた。

「・・・日本、解放、戦線?・・・場所は、河口湖か・・・これはっ!?」

L.L.は飛び起き、机の上にあったパソコンを起動し、情報を集め始めた。
相変わらず、何をどう操作してそんな画面が出るのかは全く理解できないし、その指の動きは目で追うのがやっとの速さだ。

「ごめん、L.L.。起こさなかったんだけど、ナオト達もう下に来てるんだ。だからこのコート着てくれるかな?」

僕は用意してあった黒のロングコートを手に持った。

「は?今何時だ?・・・まだ集合の1時間前じゃないか!」
「ナオトと泉のメンバー、2時間以上前に全員集まったから、すぐ来れないかって連絡があったんだよ」
「時間も守れないのかあいつらは・・・まあいい、よこせ」

L.L.は文句を言いながらも、コートを受け取ると、急いで身に纏う。
そのロングコートは、膝下までの長さで、ボタンをすべて止めると、鼻の辺りまで顔が隠せる物だった。大きめのフードをかぶれば、ほとんど顔は見えなくなる。
フードは流石にまだかぶらず、首元は緩めたまま、再びパソコンに向き直る。
パソコンの画面には次々と、僕には意味のわからないような画面が開いていく。
周辺地図ともかく、ホテルの見取り図が見えた気がするが、どうやってその情報を引き出しているんだろう。

「まったく、コートは最終手段で用意したはずなのにな」
「でも、君が今ここにいてくれてよかった。正直、僕はこれを見てもどう動くべきなのか全く分からなくて」
「・・・普通に考えるなら、ブリタニア人が被害者だ。テロリストが動くべき内容ではない。だが、俺たちはブリタニア人からも正義の味方として認識されたい。そう考えるのであれば、黒の騎士団としてのデビューに使える」

その返答に僕は安堵の息を吐いた。

「という事は、皆を救出するってことだよね?でも、日本解放戦線と共闘とか、仲間に引き入れるとか、そういう話にはならないの?」

L.L.は僕を呆れたような目で見て、深い溜息を吐いた。

「何の意味がある?いいか、よく考えてみろ。人質を取っての立てこもり。これにどんな意味が?一体何を成せるんだ?こんな考え方を持つ者を、しかも軍人を招き入れたらその結果どうなると思う?」
「正直、この立てこもりに意味は感じないかな。前に君が言ってただろ、テロはただの子供っぽい嫌がらせに過ぎない。まさに今回のはそんな感じだ。 草壁中佐の要求は何一つ通らないだろうね。無駄にブリタニアを煽った結果、人質が無駄に殺され、今まで以上の弾圧が始まるのが目に見えている」

違う?と目で問いかけると、L.L.は満足げにうなずいた。
どうやら及第点はもらえたようだ。

「そして、彼らを黒の騎士団に引き入れた結果どうなるか。君は言ってたね、日本は序列社会だと。開戦前からブリタニアと闘ってきた草壁中佐達から見れば、僕たちは駆け出しの新兵だ。その上、年齢もあちらが上。軍隊として経験を積んでいる事も、大きい。となると、僕たちの上に立とうとするだろうね。僕たちの命令は聞かないだろうし、正義の味方なんて鼻で笑って却下するだろう。僕たちは、日本解放戦線に吸収され、邪魔になるゼロは追放される。マイナスにしかならない」
「では、今回我々が共闘した場合はどうなる?」
「結果は目に見えているよ。共闘に意味は無い」
「では、今回我々が取るべき道は?」
「・・・日本解放戦線と敵対し、人質を救出。ブリタニア人を救った正義の味方、黒の騎士団として名乗りを上げる。・・・あるいは手を出さず傍観する」

L.L.は口角を上げ満足そうに頷いくと、僕の頭に手を伸ばし、やさしく頭を撫でた。
まるでいい点数を取った幼い子供にするかのように。
まだ母が生きていた頃の、幼い頃の記憶が不意に呼び起こされ、スザクは思わず目頭が熱くなった。

「なんだ、やればできるじゃないか。お前はただの体力馬鹿だと思っていたぞ」
「ひどいよL.L.」

あまりのいいように、僕は眉尻を下げて不満の声を上げた。
とはいえ、L.L.の話し方が上手いのだろう。少し前まではどうするべきなのか全く分からなかったのに、少し話しただけで、これから向かうべき道筋が見えてくる。

「あ、そうだ、L.L.。生徒会にカレン・シュタットフェルトという生徒がいるんだけど」
「カレン・シュタットフェルトというと、ナオトの妹だな。何かあったのか?人質の中には見えなかったが」
「え!?知ってたの!?」

予想外の答えに僕は目を丸くした。

「ナオトには妹がいると聞いていたからな。生徒会に同名の、しかもナオトに面影が似ている相手がいれば、念のため調べておくものだろう?」
「そうなんだ・・・僕は全然気にもしてなかったよ」

まさに1の情報から10を得るL.L.に、情報で勝つのは難しいのかもしれない。

「それより、いつまでここにいるつもりだ、ゼロ。情報収集と作戦は俺に任せて、お前はナオト達のところへ行け。通信機のセットは忘れるな」

ナオト達に何も言わずに長時間ここにいてしまった事に僕は慌てて、L.L.との専用通信機を耳にセットし、仮面をかぶり部屋を出た。

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