まだ見ぬ明日へ 第13話

「あっ、やっぱりここにいたのか、急に姿が見えなくなったから探してたんだ。段ボールは今開封させて・・・あれ?」

部屋のロックを外し、扉をあけると、ノックをしようとしていたのだろう、片手をあげた状態で、紅月ナオトが立っていた。
ゼロの陰になっているとはいえ、この状況はまずい。慌ててフードをかぶり、全てのボタンを留めると、ポケットから黒の手袋を取り出しながら、後ろの様子を伺った。

「ゼロ、彼は?」

扉とゼロの隙間から、部屋を覗き見たナオトが、やはり訪ねてきた。
まあ、この程度は予想の範囲内、スザクで十分対応できるだろう。

「彼は私の協力者だ。訳あって私と同様、素顔を見せる事ができない」
「協力者?なら挨拶をしても?ああ、素性を探ったり、素顔を見たりはしないよ」

疑う様子もなく、ナオトは明るい声でそう促してきた。
この流れで断るわけにはいかない、か。
ゼロがこちらを伺うように、顔を向けたので、頷く事で了承した。扉を塞いでいたゼロがゆっくりと部屋の中へと歩を進め、L.L.のすぐ横に立った。
ナオトは扉を閉め、人好きのする笑顔で部屋の中へと入ってくる。

「始めまして、俺は紅月ナオト。ゼロから聞いてるかもしれないが、紅月グループのリーダーをやっていた」

そう言いながら、右手を差し出してきたので、L.L.は立ち上がり、握手をする。

「私はL.L.、ゼロの個人的な協力者だ」
「える、つー?なるほど、ゼロと同じで本名は名乗れないのか。しかし、そこまで徹底的に姿を隠す必要があるのか?」

俺たちにも隠さなければいけないのか?という、遠回しな質問に、この男には多少の情報は与えておくべきかと判断した。
なにせ、これからゼロを支える副官となる男だ。頭もよく、状況判断にも長けていて、NMFの操縦も群を抜いている。これからの黒の騎士団には絶対に必要な人材だ。いらぬ疑いで、失うわけにはいかない。

「私とゼロは理由は違えど、ブリタニアに追われる身だ。万が一にも私の所在がブリタニアに知られた場合、面倒な事となる」

その返答に、ゼロが僅かに身じろぎ、ナオトは目を見開いて俺たちを見た。

「私は、ブリタニアの人体実験の被検体だった。囚われていた私を救い出し、こうして自由を与えてくれたのが、ゼロだ」
「L.L.!!」

まさか、その話をすると思わなかったのだろう、ゼロが制止の声を上げた。
L.L.は片手をあげて、ゼロがそれ以上発言をするのを制する。

「ブリタニアが、人体実験を!?」

瞬間、ナオトの表情が険しくなる。それはブリタニアに対する嫌悪と純粋な怒りから。
いい反応だ。正義感も強く、何よりも意志の強いその眼差しは嫌いじゃない。
ナオトは日本人から信頼がある。
万が一、ゼロに不信感を持つ者が現れても、ナンバー2であるナオトが上手くフォローに回ってくれるだろう。
この男は人をまとめ、信頼を集めるのも上手い。これほどの人材がゼロと共に戦ってくれるというのは、幸運としか言いようがないのだ。

「ナオト、君はゼロに信頼されている。だから私の立場を教えておくが、あまり気分のいい話ではない。誰にも言わないでくれ。ああ、ゼロが顔を隠す理由は、私よりも複雑だ。だから君にも教えるわけにはいかない」

ゼロは、仮面越しにもわかるほど、L.L.が実験体だ、と話した事に動揺していた。
ナオトは、ゼロの様子から、真実だと判断したのだろう、真剣なまなざしで頷いた。

「わかった。この話は誰のも言わない。すまない、嫌な事を思い出させてしまって」
「いや、気にするな。同情もいらない。全ては過去、終わった事だ」

俺は、感情をこめずにそう言った。

「すまないな素性を探らないと言ったのに・・・」
「気にするな、私が勝手に話したのであって、ナオトが気にする事ではない」

その言葉を聞いて、ナオトは二コリ、と笑った。

「ありがとう。ところでゼロ、河口湖のことなんだが・・・」

その時、後ろで扉の開く音が聞こえた。
ちっ、ノックをするという習慣は無いのか、と俺は心の中で軽く舌打ちをした。

「お~い、ゼロ、こいつみんなに配っていいのか?ってナオトもここにいたのか」

扇は段ボールを抱えて、当り前のように部屋へと入ってきた。

「要、ノックぐらいしてから入れ。失礼だろ?」
「あ・・ああ、そうだったな、すまないゼロ・・・ところで彼は?」

ゼロがL.L.を背に隠すような位置で立ってくれたが、この狭い部屋ではあまり意味がない。扇はすぐにL.L.に気づき、そう訪ねてきた。ナオトは一歩前にで、扇の視線を自分に向けてから口を開いた。

「彼はゼロの協力者のL.L.だ。今ゼロから紹介してもらっていたところなんだ」

扇は、訝しむような表情で俺を見た。

「・・・そうなのか。俺は扇要、よろしく、えるつー?」
「ああ、よろしくたのむ、扇」
「ところで、ゼロはともかく、なんで君も顔を隠してるんだ?仲間なんだから、隠す必要は無いんじゃないか?」

不愉快そうな表情で扇はL.L.を見つめてきた。

「要、それは俺たちが詮索する事ではないだろう。隠す必要がなければ隠さないさ」
「だけど、ナオト。ゼロもそうだが、素顔も見せないなんて、俺たちに失礼じゃないか?これは皆が」

扇が詰め寄る様一歩足を進めたその時、ナオトは俺と扇の間に身を滑り込ませた。
その様子を見て、扇が驚いた顔をナオトに向けた。

「ナオト、お前だってそう思うだろ?仲間だというなら」
「要、俺は今、二人が素顔を隠す理由を教えてもらったところだ」

L.L.とゼロは何も言わずに、ナオトと扇を見つめた。
そう、これは一種の試験。
扇はナオトの腹心だ。その扇相手にどう返答するのか。

「その話を聞いて、俺は二人が素顔を隠す理由も、そして俺たちに教えられない理由にも納得した」
「それは、一体」
「悪いが、お前にも話せない。ここで話せる事なら、彼らは隠したりしない。それだけの理由があったんだ」

ナオトはまっすぐに扇を見据えて一言一言、言い聞かせるようにゆっくりと言った。

「そ・・・そうか。悪かったな、そうとは知らずに失礼な事を聞いてしまった」

扇は、あまりにも真剣なナオトの表情に気押されたのか、これ以上の追及はやめることにしたようだ。
そして、当初の用事を思い出したのか段ボールの中身をゼロに見せてきた。

「これさ、カッコいいとは思うんだけど、俺たちレジスタンスだし」

いつか戦争するとしても、今はまだその段階ではない。
まだ軍隊ではない以上今の段階では、レジスタンスで間違ってはいない、が。

「違う、私たちはレジスタンスではない」

ゼロはその言葉を遮るように一歩扇の近くへと歩み寄った。
レジスタンスの意識のままでは、だめだ。まずは意識改革を、これはその第一歩。

「じゃあ、なんだよ?」
「私たちが目指すモノ、それは正義の味方だ」

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