まだ見ぬ明日へ 第14話 |
「我々の要求に対して、何らかの返答がされない限り、30分ごとに一人ずつ飛んでもらう。人質のためにも誠意ある対応を期待する」 それは日本解放戦線、草壁中佐さからの通信だった。 警告ではない。実際にすでに人質が一人、高いビルの上から突き落とされていた。 「見せしめとは・・・なんて野蛮な!」 バトレー将軍は映像を見ながら、怒りにその体を小刻みに震わせていた。 「ええい!何かいい案は無いのか!ジェレミア!」 第三皇子クロヴィスは、その美しい顔をゆがめ、頭を抱えながら、近くに待機していた軍人を呼びつけた。ジェレミアと呼ばれた青い髪の軍人は、クロヴィスの前まで足を進め、臣下の礼を取り頭を下げた。 「はっ、交渉に応じ、女子供だけでも先に解放を」 「だめだ!一度でも交渉に応じれば、テロという手段を肯定する事となる!」 突然、ジェレミアの言葉を遮るように、怒声が響き渡った。 その声の主は、いつの間にかこの部屋へと入ってきた女性。 赤紫色の美しく長い髪、そして赤紫色の軍服をまとった、美しき戦乙女。 「あ、姉上!なぜここに!」 クロヴィスは、本来エリア11にいるはずのない姉、第二皇女コーネリア・リ・ブリタニアの姿に腰を抜かさんばかりに驚いた。 コーネリアは普段優しいのだが、戦場に立ったその姿はまさにブリタニアの魔女の名にふさわしく、クロヴィスにとっては畏怖の対象となる。 今はまさにその戦場での姿。コーネリアは、その美しき顔を怒りにゆがめ、クロヴィスへとカツカツと足音を立てながら近づく。 「なぜではない!一体お前は何をしていたのだ!テロリストごときにここまでいいようにされるなど!」 「し、しかし姉上」 「しかしではない!クロヴィス、ここでの指揮は私が取る!いいな!一気に片を付けるぞ!」 「は、はい!ですが姉上、人質にはユーフェミアがっ!」 コーネリアに気押され、萎縮しながらも、これだけは伝えなければとクロヴィスは精いっぱいの勇気をふりしぼり、怒りに身を震わせている姉に、その情報を伝えた。 クロヴィス達が手をこまねいている、その原因を。 その言葉に、コーネリアは瞳が零れ落ちんばかりに目を見開いた。 「何!?ユフィが?あの中にいると言うのか!!」 その名前に、明らかに動揺したコーネリアは、クロヴィスに詰め寄った。 「そ、そうなのです!まだ犯人には気づかれていませんが、人質の映像にも間違いなくその姿が!」 「くっ・・・」 第三皇女、ユーフェミア・リ・ブリタニア。コーネリアが溺愛している同腹の妹。 その事実にコーネリアは、思わず唇をかみしめた。 ゼロからの通信が入ったのはその直後である。 河口湖のコンベンションセンターホテルへ残された唯一の道。 軍が包囲するその場所に、テレビ局の放送車輛が近づく。 警戒中のサザーランドがその照準を放送車輛へと向けた。 その車上には、このエリア11で活発な活動を続けているテロリストの首魁ゼロ。 ただしその活動は他のテロリストとは異なり、ブリタニアだけではない、イレブンが行う悪事に対しても制裁を与えていて、まるでその行動は正義の味方のようだと、一部のメディアやネットで話題となっていた。 そのゼロが、今この場に姿を現していた。 ゆっくりと進む車輛は、ホテルへの橋の前で止まった。 目の前には、道をふさいだKMFグロースター。 思わず体が強張る。 ここで撃たれたら終わり。 これだけの警備だ。一斉に取り囲まれたらそれでも終わりだ。 狙撃兵も間違いなくいるだろう。逃げ場は無い。 思わず、ごくりと固唾をのんだ。 『おちつけスザク。何も問題は無い』 耳につけた通信機から、低く落ち着いた声が流れてきた。 『いいか。お前は堂々と立っていろ。動揺は見せるな』 淡々と語るその声に、僅かだが心配する色がにじみ出ていて、僕は思わず苦笑した。 彼の声を聞くと、不思議と恐怖も不安もなくなる。 何も心配ない、彼の作戦を僕が実行する。それに失敗など考えられない。 先ほどまでの緊張が嘘のように、僕の心は冷静になっていた。 先頭にいたグロースターの操縦席が開き、軍服を着た女性が姿を現した。 『あれは・・・コーネリア、ブリタニアの魔女だ』 彼女が皇族でありながら戦場でKMFを駆る戦女神。 厳しい顔をしているが、その容姿は若く美しい。このような女性が戦場で名をあげているとは、信じられない思いがした。 「貴様がゼロか。お前は日本解放戦線のメンバーだったのか?それとも協力するつもりか。しかし、今はこちらの都合を優先する。貴様は、ここで拘束する」 コーネリアは拳銃をこちらに向けた 「コーネリア、どちらを選ぶ。テロリストである私の捕縛か、ユーフェミアか」 その瞬間、コーネリアの表情が驚きに彩られた。 僕に銃を向けているてが震え、拘束を指示する命令が出されない。 『よし、やはりな。新宿事変を起こすようなクロヴィスが動かない理由。そして、コーネリアまでが動けない理由。これで第一条件はクリアされた』 それはつまり、他人ならすぐに武力で制圧するが、身内がいるから身動きが取れないという事で、さすが不平等を謳うブリタニアらしい考え方だと僕は内心呆れた。 「ユーフェミアを救い出そう私が」 その言葉に、コーネリアはハッと表情を変えた。 「ゼロ、何を言っているか分からないな」 だが、その声には動揺がわずかに感じられた。 「救って見せる、私なら!」 自信に満ちたゼロの小絵に、コーネリアは息を呑んだ。 その後は、驚くほどスムーズだった。コーネリアはあっさりと僕たちを通し、日本解放戦線もゼロの乗る車両をすんなりと通した。 中に入った僕は草壁中佐の元へ。 他のメンバーはホテルに爆薬を仕込む。 草壁中佐とは予想通り、話し合いにもならなかった。日本人が死んでいない事を内外に知らしめる。そのためだけに起こした無意味なテロ。ゼロがそれを否定すると彼らは刀を構えた。予想通りの反応。僕は切りかかってきた草壁中佐と、銃を向けてきた部下全員を難なく制圧する事が出来た。その音に気が付いた兵が3人、部屋へと入ってきたが、相手が銃を構える前に当て身で気絶させた。 その時ようやく、彼らが連れていた女性に僕は気が付いた。 ユフィ。そう名乗っていたあの時の女性。なぜここに? 『・・・彼女が、ユーフェミア・リ・ブリタニアだ。流石は慈愛の姫、民衆のために人質を買って出たか』 え?彼女がブリタニアの第三皇女?一般人ではないと思ったけど、まさか皇女様!? 呆然と立ち尽くした僕に、L.L.が声を掛けてきたが、返事をする事が出来なかった。 だが、それもほんの僅かない間。 各階を制圧したナオト達がこちらに走ってきたので、僕は彼女を彼らに預けた。 全ては順調に進んでいるなと、安堵の息をもらしたとき、こちらの用意した爆弾とは違う爆発音が聞こえ、窓の外へと急ぎ駆け寄った。 そこには空中に浮かんだ一騎のKMF。 真っ赤な機体、右腕は銀色の爪のよう。 恐らくはブリタニアの新型か。 下には水柱と、日本解放戦線のリニアカノンが設置されていたライフライントンネルが破壊された跡。 位置からして、あの場所から飛び出したのか。 赤いそのKMFは、左手に銃のようなものを持ち、ホテルの基礎ブロックを狙い撃つと、振動と共にホテルが水没をはじめた。 予定より早まったが仕方がない、その赤いKMFを見据えながら、僕は手にしていた爆破スイッチを躊躇うこと無く押した。その瞬間、各フロアに設置した爆弾が爆発し、建物の倒壊を早める。 ここからは黒の騎士団の独壇場。 L.L.が通信回線をハッキングし、盗んだテレビ局の放送車輛から、エリア11全土にゼロの姿を映し出した。 「ブリタニア人よ、動じる事はない。ホテルに囚われていた人質は全員救出した。あなた方の元へお返ししよう」 次の瞬間、スポットライトが僕たちに当たる。ゼロを中心とし、今回の作戦に参加したメンバーが後ろに控えたその姿が映し出された。 「人々よ我らを恐れ、求めるがいい。われらの名は黒の騎士団!我々黒の騎士団は、武器を持たないすべての者の味方である」 そう、今この時からゼロと黒の騎士団は民衆に広く知られる事となる。 「私は戦いを否定しない。しかし、強いものが弱いものを一方的に殺すことは断じて許さない!撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ!我々は力ある者が力なき者を襲うとき、再び現れるだろう。たとえその敵がどれだけ大きな力を持っているとしても!力ある者よ、我を恐れよ!力なき者よ、我を求めよ!世界は・・・我々、黒の騎士団が裁く!」 |