まだ見ぬ明日へ 第25話


「これは何ですの?」

カグヤの手には爪楊枝が握られていて、その先には丸い物体が刺さっていた。
香ばしい匂いと、ほこほこした温かさが指先に伝わってくる。

「タコ焼きだ。食べた事は無いか?」
「まあ、タコ焼きですか!懐かしいですわ!小さな頃、枢木神社のお祭りで頂いた事がございます!」
「懐かしいですね、最近では東京租界内でも出店が出ている、という話は聞いていましたが」
「熱いから一気に口に入れるなよ?」

ふーふーと息をかけた後、パクリと一口齧りついたカグヤと咲世子に、L.L.は穏やかな笑みを向けた。

「って!どうして僕がいない時にそう言う物食べてるの!!」

ドアを開けたらそんな穏やかな雰囲気の三人がいて、僕は思わず怒鳴りつけた。

「何だスザク、今日は生徒会の用事でリヴァルと買い出しじゃなかったのか?」
「なんでそれ知ってて、今作ってるんだよ!」

香ばしい匂いを漂わせながら、ホットプレートタイプのタコ焼き機を使って、くるくると次々にタコ焼きを焼き続けるL.L.に僕は詰め寄った。
お皿の上には焼きあがったタコ焼き。たっぷりの鰹節と、L.L.が調合したソース、そしてマヨネーズがかけられていた。
僕は爪楊枝を一本手に取り、ぷすりとタコ焼きに刺すとそのまま口に放り込む。
表面はパリッとしているのに、中がふんわりしていて、とても美味しく、同時に懐かしい味がした。

「いいじゃないか別に。お前は外で買い食いができるが、カグヤも咲世子もそう言う事は出来ないだろ?俺はこういう食べ物は正直好きではないが、先日このタコ焼き機をジャンク屋で見つけてな。ようやく修理が終わったんだ」

箱付き、取扱説明書付きの綺麗な物だから、つい衝動買いをしてしまったのだと言う。
衝動買いなんて、じっくり品物を吟味するL.L.にしては珍しい事だが、カグヤと咲世子を喜ばせるためだと考えれば納得はできる、が。

「僕が居るときに作ってくれてもいいじゃないか」
「そう怒るな。ちゃんと帰ってきたら作ってやるつもりではいたんだよ。大体、食べるペースが速いから、スザクが一緒だと2人が食べられないだろ?」

そう言われてはたと手を止める。言われてみれば、僕は次から次へと口に運んでいたので、お皿の上はほぼ空。

「あ、ごめん。美味しくてつい・・・」

眉尻を下げ、困ったような表情をした僕の反応に、三人がくすくすと声を出して笑う。
何で笑われたんだろう、と不満げに視線を向けると、L.L.が、まるで怒られた子犬のようだ、と笑いながら言った。
その三人の様子に、僕は思わず頬を膨らませ、口をとがらせた。

「そこまで笑わなくてもいいじゃないか」
「だって、枢木のお兄様、本気にしているんですもの」
「え?」
「スザク様の生徒会の用事がなくなった話は、先ほど生徒会室に来られたミレイ様が教えてくださいました。なんでもリヴァル様のバイクの調子が悪いとか」
「あ、うん」
「だから、わざわざお前が帰宅した頃に、焼きあがるよう作って待ってたんだよ。そうでなければ、これだけの材料用意するわけないだろ?」

言われてみれば、この三人が食べるにしては用意されている材料の量が多い。

「お兄様がどんどん食べてくれるので、私たちは常に焼き立てを食べれますわ」

はふはふと、出来たての熱いタコ焼きを頬張りながらカグヤが満面の笑みで言ってくるので、僕は不貞腐れながら出来たてを頬張った。
つまり、僕の反応を楽しむため、最初から僕を騙していたという事だ。

「三人ともひどいよ」
「悪かったって。ほら、焼きあがったぞ。今度はマヨネーズにわさびを混ぜてみた」

わさびマヨネーズ味もおいしく、L.L.が用意した材料はあっという間に僕たちの胃に収まった。

「ねえL.L.、昨日の話なんだけど」
「昨日?ああ、夜に話してたあれか?どうした?」
「話すのは、早い方が良いと思うんだ。だから今話そうと思う」

僕の真剣な声に、食後のお茶を飲みながら、日本のお祭りの話題で盛り上がっていたカグヤと咲世子がこちらを見た。

「いいのか?話したら戻れないぞ」
「うん。話さずに済ませる事も考えたけど、やっぱり話したい。ちゃんと話をして、2人にもロイドさんとセシルさんのような、僕らの理解者になって欲しいと思う」

そう、真剣に僕はL.L.を見つめていると、なぜかカグヤが頬を染めながら小さな悲鳴を上げ、咲世子がやはりそうだったのですか、とにこやかに笑った。

「え?なに?2人とも?」

不穏な空気を発する2人に、僕とL.L.は思わず顔を見合わせた。

「わたくし、お二人がお幸せならそれもいいと思いますわ!」
「私もお二人の味方です」
「ちょっと待って2人とも、何の話?」

幸せ?味方?いや、幸せになるための闘いだし、味方になって欲しいんだけど、え?なんか意味が違う気がする。
言っている意味もわからないし、2人とも何で頬を染めて、こちらを見ているんだろう。

「お二人がお付き合いをされている事には気が付いている、というお話ですわ」
「「え!?」」

僕とL.L.は同時に驚きの声を上げた。

「あらあら、本当に仲がよろしいのですね」

ほほほほほと口元に手を当ててカグヤが微笑んだ。

「いやいやいやいや!まって、ホントに待って2人とも!なんかすごく勘違いしてる!!」
「大体俺とスザクは男同士だ!どうして付き合うと言う話が出てくるんだ!」

僕たちが驚いて2人の話を否定すると、2人とも、え?、という顔をこちらに向けた。

「違うのですか?」
「違う!違うから!L.L.も言ったけど、僕たち男同士だよ!」
「わたくしは見る事ができませんが、L.L.さんはとてもお美しい男性なのですよね?」
「いや、確かにL.L.は美人だけど!料理出来て美人なんて男にとっては理想だけど、って違う!違うからっ!」

カグヤと咲世子を説得には、20分ほど時間を要した。
L.L.はあまりの内容に、途中で頭を抱えて台所に逃げた。どうやら現実逃避にクッキーを焼いているらしく、生地の焼けるいい匂いが台所から漂ってきた。

「そこまで言われるなら、わたくし達の勘違い、と言う事で今回は退きますわ。それで、一体どのようなお話をなさるつもりでしたの?」

物凄い疲れた。ようやく終わったのかと、L.L.が焼きたてのクッキーと紅茶を持ってきたので、僕はクッキーを3枚ほど一口で頬張り、紅茶を一気飲みした。
すぐにお替わりの紅茶が注がれ、L.L.が席に着いてから僕はようやく本来2人に話すべき内容を口にする。

「カグヤ、そして咲世子。黒の騎士団のゼロは、僕だ」

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