まだ見ぬ明日へ 第26話 |
黒の騎士団のアジトでは、ある話題で持ちきりだった。 「なあ、泉。お前もキョウトの代表と会った時見たんだろ?あれ、ホントの事なのか?」 玉城が南、吉田と共に、アジトの休憩室へと入ってきた泉に詰め寄っていた。 「見たとは何の話だ?それだけでは何も分からないだろう」 キョウトの代表との話は機密事項が多すぎて、キョウトの代表の名前も、会合の場所も、ゼロと代表の会話も、偽りのゼロの事も除くと、キョウトが全面的に支援してくれる事、ゼロを信じて着いていくよう言われた事、ナオトが代表から強い信頼を得た事ぐらいしか話せる事は無いはず。 後はゼロとKMF、そしてSPとの戦闘ぐらいか。見た、という表現で言うなら戦闘の話か?確かに一瞬で3騎戦闘不能にしたのはすごかったが、と泉が思い当った時、予想外の言葉が玉城の口から飛び出した。 「偽のゼロが物凄い美人って話だよ!お前、見たんだろ?ブリタニア人だけど黒髪美人ってホントか?」 その内容に、思わず泉が目を見開いた。 「お前たち、どうしてその事を」 「ってことは本当なんだな!」 満面の笑みで言う玉城に、泉はしまったと顔を歪めた。 「誰から聞いたんだそんな話」 「誰だっていいだろ?それより、その美人、男か?女か?うちの団員なんだよな?」 玉城は泉の肩に手を置き、にやにやと笑いながら聞いてくる。 「しかも若いって話なんだが、何歳ぐらいだ?」 「泉さんから見て、どんな感じだったか教えてくれないか?少しきつめの美人としか分からなくてな」 南と吉田も泉に詰め寄った。 「誰から聞いたのか答えろ玉城!」 「しつけーな。いいだろ別にそんなの。どーせもうみんな知ってる事なんだしさ。偽のゼロが誰かも、予想はついてんだしよ」 「いいわけないだろう!玉城!!」 その怒声は、泉から発された物ではなかった。 思わず玉城、南、吉田はびくりと勢いよく姿勢をただし、恐る恐る声のした方へと顔を向けた。 そこには腕を組み、仁王立ちしたナオトが怒りをあらわにして立っていた。 「あー、なんだナオトいたのかよ。吃驚させんなよな」 「吃驚したのは俺の方だ。・・・あの場に居たのはゼロと、あの人と、俺、泉、そして扇。あとはキョウトの方たちだ。ゼロとあの人が言うはずがない、お前たちが泉にそうやって聞いてると言う事は、要か」 ばつの悪そうな顔で泉を解放した三人は、ナオトに促されその場で正座をさせられた。 その正面には険しい顔のナオトと泉がソファに座って三人を見下ろしていた。 「呼んだか?ナオト」 ドアが開き、ナオトに携帯で呼び出された扇が休憩室に入ってきた。 そして、5人のその姿を見て、思わず体を硬直させた。 「って、何かあったのか?」 「何かあったのかじゃない。要、お前もそこに座れ」 何時になく目が据わったナオトの声音に、扇は言われるまま玉城の横で正座をした。 腕を組み、じっと見つめてくるナオトと泉の視線に居心地悪く身じろぎ、視線を玉城たちに移しても、三人とも顔を下に俯けてこちらを見ようとはしない。 「え~と、ナオト。説明をしてくれないか」 「ああ、分かっているさ要。お前、キョウトの代表と会ったあの日の話を、どこまで皆に話をした?」 「え?どこまでと言われても、大したことは言っていないが。ゼロが代表に素顔を見せて、信頼を得た事とか、お前が代表から信頼された事とか」 頭を掻きながら、扇はそれがどうしたんだ?と不思議そうな顔でナオトを見つめた。 「ゼロのKMFとSPとの戦闘、キョウトの全面支援、ゼロが素顔を見せられない理由は代表も納得の理由だった、あとは?」 ナオトが、団員の間で話されている内容を次々上げる。 「あとは、そうだ、あの偽のゼロの話はしたが」 「どんな話だ?」 その質問で、ようやく扇は思い至った。 顔色を悪くし、視線をさまよわせたが、ナオトがゴホンと咳をしたことで、びくりと体を震わせて、顔を俯けた。 「いや、大した話では・・・」 「なあ、要。何であの時俺たちに素顔を見せてくれたと思う?」 腕を解いて、先ほどよりはいくらか和らいだ顔で、ナオトは扇を見つめた。 「何でって、やはり俺たちは仲間なんだから、隠す必要は無いと判断して」 「違うだろ?あの場に居たのはキョウトの代表と、口の堅いキョウトのSP達、そしてゼロと副司令の俺、そしてその補佐の泉とお前だ。機密事項でも決して口外しないメンバーだけが集まった場だから、仮面を外したんだ」 「でも、ゼロはともかく、L.L.が素顔を隠す意味は無いだろう。仲間なんだから、皆がどんな容姿なのか気にするのは当然だし、多少知っていたっていいじゃないか」 「気づいていたんだな、彼がL.L.なんだって。当然だよな?団員にあれだけの目を引く美形がいれば、知らないはずがない。その上ゼロの代役までやるほど、ゼロに近しい人間。そんなの彼以外いないもんな?それが分かっていて何で話したんだ?L.L.も素顔を知られる訳にはいかない事を、その理由を俺が知っている事を、お前には話したはずだよな?ブリタニア人には珍しい黒髪と紫の瞳、その上あれほどの美形だ。その噂だけでL.L.を探している人間には、彼だと解るかもしれない。それがどういう事か分かった上で話したんだよな?」 「団員に話しただけだろう。団員にも知る権利がある!大体L.L.はブリタニア人だったんだ、何時裏切るかもわからない!」 その扇の言葉に、ナオトと泉は驚き、玉城たちは、だよな~と同意を示した。 扇は人が良く、人を纏めるのも上手い。気が弱い面や優柔不断な面もあるが、その姿を見て周りの人間は自然と彼をサポートしようと動く。 だが、彼は疑心暗鬼にかかりやすい面も持っていた。 自分が信じられない、認められないなどマイナスに思える相手を排除しようとする。 自分の考えをそのまま皆に伝え、周りの人間も、扇が言うのだからきっとそうなんだと信じてしまう。 扇の本質は守る事。 自分が仲間と認め、身内と認めた者を守るためには、手段を選ばない面もある。 ゼロは認めるがL.L.は認められない。扇が常々口にしている言葉。 あのゼロの影武者がL.L.だった事も納得できず、ゼロやナオト、泉がL.L.を頼っている事も認められず。自分の姿を隠し、団員を信じない態度が許せない。 なかなかアジトに来ない事も、偉そうに話す所も、何よりブリタニア人だと言う事も気に入らない。 プラスに傾けば、仲間を纏めるうえで頼りになるが、マイナスに傾けば内部分裂を起こしかけない。 そして今はL.L.に対してマイナスに傾いている。 これは厄介な状況になったとナオトは眉をしかめ、扇を見つめた。 扇は自分は間違っていないと、強い眼差しでナオトと泉を見つめていた。 アジト内でそんなやり取りが行われている時、アジトの外で見張りの団員が集まっていた。 警戒を見せる団員たちとは反対に、そいつは楽しげに手を叩くとこう言った。 「ねえ、ゼロはどこ~?僕、ゼロに会いたいんだけど?」 白髪に長身、サングラスを掛けた奇妙な男が黒の騎士団のアジトにやってきていた。 |