まだ見ぬ明日へ 第27話

カグヤと咲世子に僕がゼロだと言う事、そしてL.L.との出会いと、彼が不死であること。そして僕のギアスの事、桐原に僕とカグヤの生存を秘密裏に知らせた事を教えた。
シンジュク事変とナリタの攻防戦で、L.L.が一時的にとはいえ死んだことを話したせいか、カグヤと咲世子はそんな危険な目にあわせるなんてと、僕にさんざん説教をし、生き返ったばかりなんだからとL.L.は早々にベッドに戻された。
不老不死なんだから大丈夫だという彼のお決まりセリフも二人は綺麗に無視をした。
ゼロである事には、L.L.なら分かるが、僕が黒の騎士団のトップだなんて、騎士団は大丈夫なのかという心配をされ、ギアスは目の前でどういうものかを見せた後は、L.L.同様滅多に使うなと釘を刺されはしたが、その程度で済んだ。
咲世子は実は密かに黒の騎士団の地下協力員となっていた事を告白され、今後は僕とL.L.の直属となる事とし、カグヤも今後はクラブハウスでの作戦会議に混ぜて欲しいと申し出てきた。
思った以上に2人はすんなりと僕たちの話を受け入れてくれて、不安が一つ解消されホッとしていたその時。
まさか黒の騎士団内で、L.L.の噂が妙な形で広まっているとは思わなかった。



アジトに入った瞬間、彼へ注がれる視線の異常さに気がついた。
この状況は危険だと判断した僕は、周りの視線や空気に全く気が付いていないらしいL.L.を、ゼロの部屋へ押し込んだ。
この状況に気が付かないとか、今までホントどうやって生きてきたんだろう。
彼が程んどの時間を共にしていたというC.C.が守っていたのだろうか?
せっかく来たのにと文句を言っていたL.L.に、会議には迎えに来るからと言い聞かせて、未だ本調子ではない彼は渋々ベッドで休む事になった。
一体今の視線はどういう事なのか通りかかった泉を呼びとめ問いただすと、彼は言いづらそうに今流れている噂を簡単に説明してくれた。
美女説、いや男装の麗人説は学園でもあったが、ゼロの愛人はともかく、男娼、同性愛者は完全に自分たちの願望だろう。
とにかくそんな内容が大半を占めていた。
彼はあれだけ普段から顔だけではなく体型も隠していると言うのに・・・いや隠しているから反対に、ちょっと容姿の噂が流れただけでこうなったのか。
少し出歩けば幻の美形と噂され、住んでる場所がばれれば性犯罪者予備群を量産し、素顔を知られればこうやって危険な噂を流されて・・・今日の会議の為とはいえ、アジトに連れてきた事を心底後悔させられた。
確かに彼は何もせずにただ立っているだけで周囲の目を引く美形だが、流石にここまで来ると変なフェロモンでも出てるんじゃないだろうかと疑ってしまう。
困ったことに彼は体力に難があるから、レジスタンスなんてやってる男どもに勝てるはずがない。
彼を騎士団内で一人にするのはもう無理だ。
ゼロが来るのを待っていたという泉は、すぐにナオトに連絡を取って、会議前に幹部は全員集まる事となった。



「なるほどな」

噂の原因を聞いた僕は、さすがに頭を抱えたくなった。
いや、彼の素顔を確実に見ていた人間は限られていたから、そこに思い至らなかった時点で僕はかなり混乱していたという事か。
仮面が無ければ顔を洗って、水が飲みたい気分だが、今は諦めるしかない。

「すまないゼロ、緘口令を引かなかった俺のミスだ」
「それなら私のミスだろう。ナオトが責任を感じる必要は無い」

あのメンバーなら大丈夫だと思ったが、まさか扇が。
いや、前からL.L.には不信感は持ってはいたが。
扇は、流石にここまで大事になるとは思わなかったのだろう。俯いたまま眉尻をさげ、僕たちの話を黙って聞いていた。

「私の記憶では、L.L.はブリタニアから身を隠していると、そのために素顔を隠している、と扇には話していたと思ったのだが」

扇はゼロのその言葉に、さらに顔を俯けた。
さて、どうしたものか。これはまさに爆弾だな。罰を与えないわけにはいかないが、下手な罰は内部分裂を起こす。
僕の発言を、固唾をのんで幹部が見守る中、まずは被害者であるL.L.を連れてくるべきだなと思ったその時、一発の銃声が鳴り響いた。
音はL.L.がいるゼロの部屋の方で、僕は反射的に走り出した。
たどり着いたその部屋は、掛けていたはずのロックが解除されてドアが開いていた。
中へ飛び込むと、銃を片手にベッドの上に横になっているL.L.と、銃を持った彼の腕を押さえながら、彼の上に男が圧し掛かっている姿が視界に入った。

「L.L.!」
「っゼロ!」

僕が彼を呼び、彼が僕を呼ぶ声に、男は驚いたようにこちらを向いた。
僅かに拘束が緩んだその瞬間L.L.は体を捻り、男の体を蹴り上げた。

「うわっ!」

反射的に男はその蹴りを避けたが、彼の体の上から飛びのいたので、すかさず僕は男を拘束した。

「え、ゼロ?なんで?ルル、どういう事なの!?」

男はL.L.の方を見て彼をそう呼んだ。

「ルル?」

僕が男を床に押し倒しその腕を縛り付けた時、銃声に気が付いた騎士団の団員たちもこの場にたどり着いており、ドアから中を覗き込んでいた。
やはり今日の僕はかなり混乱している、何ですぐにドアを閉めなかったんだ!?
L.L.が顔を隠していない事に気が付いたナオトと泉が、慌てて皆を下げようとしたが、遅かった。
呆けたような男の声があちらこちらから聞こえ、僕は思わず舌打ちした。
雪のような白い肌に艶やかな黒髪、男とは思えないほど長い睫と美しい紫の瞳。人形のような整ったその美しい容姿は、モデルや芸能人にもなかなか居ない。
冷たい表情を乗せていても、その美しさは損なわれず、むしろ強い意志を宿したその瞳は美しさを際立たせる。
彼のその顔だけではなく、コートを脱いでいる彼の細身の体も彼らの視界に映されてしまった。
黒の騎士団は女性の割合が少ない。そんな中にこの美形だ。僅かな情報であれだけの騒ぎになったのだから、もう嫌な想像しかできない。
どうにか中を覗こうと、まるで花の蜜に群がる、あるいは闇夜に光に誘われる虫のように手を伸ばす男たちを押さえつけ、ドアの外に泉、中にナオトが入りドアを閉めロックをかけた。
ドアの外から男たちの騒ぐ声と、それを鎮めようとする泉の声が僅かに聞こえてくる。
この部屋にはゼロ、L.L.、ナオト、そしてこの男の4人だけとなった。

「ちょっと!痛いよゼロ!ねえルル、なんでルルもゼロもC.C.みたいに静かなのさ!?他の奴は煩いのに何で!?」

ルル・ゼロ・C.C. 。やはりルルは彼の事、2人は知り合いなのか?
L.L.はその後もしばらくの間、じっと僕が押さえている白髪で長身の男を見下ろしていたが、その男の前にしゃがむと、男がつけているサングラスを外した。
その瞳は両目とも真っ赤で、ギアスの紋章が浮かんでいた。
その事に、L.L.が息を呑むのが分かった。

「・・・お前、マオか?」

僅かに震えたような声で、静かにL.L.は質問した。

「そうだよ、忘れたのルル?ねえ、それよりC.C.はどこ?僕C.C.とルルを迎えに来たんだ」
「迎えに?」
「うん、今度はルルも一緒に連れてってあげるよ。C.C.と僕とルルと三人で静かに暮らそう」
「・・・俺の知るマオは、俺を恨み、俺を絶望させ、殺す事を目的にしていたはずだが?その俺と一緒に暮らすと?」

暗く冷たい笑みを乗せ薄く笑うL.L.に、思わず背筋が凍る思いがした。
だが、今何と言った?L.L.を殺す?絶望させて?彼にこんな笑みをさせるなんて、この男は何をしたんだ?
僕は自分の目が据わっていくのを感じ、マオと言うその男を拘束する腕に知らず力が入った。

「僕あれからずっと考えたんだ。人間は醜く汚いくて、煩くてホント皆死んじゃえばいいんだ。さっき外で騒いでた男たちなんて、ルルを見てあんなこと考えてさ。あいつらさっさと死ねばいいのに。けど、ルルは違った。ルルは他の人より何倍も煩かったけど、すごく優しかった。綺麗で、優しくて、強かった。自分の事ばかりで煩い奴と違って、ルルは自分のためじゃない、愛する人たちのために闘ってた。ルルなら僕、一緒に居てもいいって思ったんだ。だからルルとC.C.を迎えに来たんだけど、ルルがこーんなに静かになってるなんて思わなかったよ!僕、静かなルルなら余計欲しくなった。一緒に行こうよルル!」

嬉しそうに語るマオと呼ばれた男を、凪いだ瞳で見つめていたL.L.はその銃口を男の頭部に当てた。

「黙れマオ」
「撃たないよルルは。僕、知ってるんだ」

断言した真央の言葉に、苛立つようにL.L.は眉を寄せた。

「撃てるさ」

撃てないはずがない。
嘲笑するようにL.L.は吐き捨てた。

「ルルが最初に殺したルルのお兄さんは、ルルの親友とC.C.、そしてその場所に住んでた日本人を全員殺す命令をしてたから殺したんだよね。ルルは優しいから、自分に害がある程度なら殺さないよ。C.C.を撃って、切り刻もうとした僕でさえ殺せなかったんだから。C.C.が僕との事を話したから、僕の事殺せなかったんだよね。ああ、何も言わなくていいよ。僕は全部知ってるからね。ルルの事なら、ルル以上に」

にこやかに、でも狂気を宿して笑うその男を見つめながら静かにその言葉を聞いていたL.L.から、感情が抜け落ち、その瞳は暗い光を宿した。
その表情を見て僕の体はザワリと粟立った。
この男がどんな自信でそんな事を言ったかは解らないが、確実にL.L.の逆鱗に触れたのだ。間違いなく、撃つ。

「L.L.撃つな!」

僕の制止も聞かず、カチリと撃鉄が上がる音がした。
それでも男は、何も心配無いと言いたげにきらきらとした目でL.L.を見つめていた。
まるで迷子の子供が、父親か、あるいは兄を見つけたというような嬉しそうな瞳で。
これ以上この男に話をさせてはいけない。僕は手刀を男の首筋に打ち込み、男の意識を奪った。一瞬でがくりとうなだれ、ピクリとも動かなくなった男の頭に、銃口を当てたまま、L.L.は引き金に手をかけた。

「L.L.、駄目だって言っただろ」

反射神経でL.L.が僕に勝てるはずはない。
その銃を一瞬で僕は奪い、撃鉄を降ろした。
銃を奪われたL.L.は恨めしそうに僕を見た後、再びマオに視線を向けた。
幸いというべきか、僕を一瞬見た後L.L.の表情が僅かに戻って来ていた。

「で?ちゃんと僕に解るように、説明はしてもらえるのかな?」
「・・・俺のほうが説明を聞きたいところなんだがな」

じっとマオを見るL.L.の瞳は不安げに揺れていた。

「知り合いなんだよね?」
「・・・これが本当にマオだと言うのであれば、俺を殺し、C.C.を手に入れようとした男だが・・・マオはC.C.が殺した。その死体は俺も確認している」
「生き返ったんじゃないの?」
「それは無い。マオは普通の人間だった。あの時、間違いなく死んでいる。だがどういう事だ?俺が静かだと言う意味は分かるが、お前まで静かだと?」
「まあ、僕は喋って無かったからね?」
「ちがう、そういう意味ではない。これがあのマオだと言うなら、そのギアスは人の心を読み、心の奥底にある深層心理まで全て暴きだす。暴走しているから、マオの意思とは関係なく周囲の人間の心がマオに流れ続けているんだ。そのマオが静か、と言うのは、マオのギアスが効かないという事だ」
「あー、ギアスって何か説明してもらっても?あと、ゼロ。それが素の喋り方なのか?随分と口調が柔らかいんだな」

その声に、僕とL.L.はハッとし、声の方へ視線を向けた。
そうだ、この部屋の中にはナオトも居た事をすっかり忘れていた。
かなり動揺していたL.L.も同じらしく、しまったというような顔をナオトに向けていた。

「やっぱり忘れられてたかな?」

と、本当に聞いてはいけない話題がこれ以上でないうちに、その存在を思い出させてくれたのだろうナオトは、困ったような笑みを向けてきた。

「仕方ない。ナオト、その話は後だ。この男の拘束を頼む、猿轡も忘れないでくれ。ゼロ、ロイドとセシルに連絡を。あの二人に確認をしなければならない事が出来た」
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