まだ見ぬ明日へ 第28話

ナリタの後、L.L.が治療を受けたあの建物に移動し、L.L.がマオと言う男と2人で話したいと、別室へ移動して10分ほどが過ぎた。
この場に居るのは、仮面を外し、それを手に持ったまま眉を寄せ、あからさまに不機嫌そうなゼロと、色々聞きたい事はあるが、そういう雰囲気ではないなと、ひとまず落ち着くためお茶をすするナオト。
二人きりで大丈夫でしょうか?と言いながら、お茶菓子を運んできたセシルと、そのお茶菓子を見て一瞬でに顔色を変えたロイドの4人だった。

「・・・やっぱり、僕様子を見に行ってきます」

椅子から立ち上がり、部屋を出て行こうとするゼロに「勝手に行ったらL.L.が怒るよ~」と、ロイドが声をかけた。

「相手は手足を拘束した上に、猿轡もしてるんだし、大丈夫でしょ」
「そんなの分からないじゃないですか!」
「でも、ゼロ。流石に心配しすぎじゃないか?」

少し呆れを含んだナオトの言葉に、ゼロは乱暴に椅子に座り直した後、困ったような顔で嘆息した。

「仕方ないんですよ、L.L.は表の生活でも、普通に歩いているだけでストーカーを量産するし、毎日のように部屋に犯罪者予備軍が押し掛けてくるんですよ。そんな状況でも本人は全然気づいてないし、あまりにも無防備で周りに居る僕たちがどれだけ警戒しても足りないぐらいなんです。腕力ないし、体力ないし。下手したらその辺にいる女性にも負けるんですよ彼」
「・・・そこまで、というか表の生活では素顔を出しているのか?」
「今も出来るだけ隠れては居るんですが、扇が流した話からあれだけの噂が流れたように、表でも色々あって」

幻の美形と呼ばれ、生徒会メンバーでさえその存在を確かめようとしていた事を思い出し、思わずこめかみを押さえた。
あの噂で苦労したばかりのナオトは、うわぁと思わず顔をしかめ、セシルは心配そうな顔でこちらを見た。

「ストーカーと犯罪者予備群なんて、大丈夫なの?」
「ええ、今はなんとか。証拠を押さえて、18人ほど退場してもらいました。近々4人ほど追加で退場予定です」
「うわぁ、それは何と言うか。ゼロが常にL.L.を背に庇っている理由はそこからか」

妙に納得顔で頷くナオトとセシルと、再び機嫌が降下していくゼロに向かって、それまで会話に加わらず何やら端末を確認していたロイドが手をひらひらと振った。

「話が盛り上がってる所悪いけど、ゼロ。L.L.が部屋から出てきたみたいですよ」

部屋のロックが外れた事を画面で確認していたらしい。
盗聴器と監視カメラは無いが、各部屋のロック状況は確認できるのだと言う。
僕は手に持っていた仮面をかぶった。
その後すぐに、部屋のドアが開き、L.L.が中へと入ってきた。

「L.L.大丈夫か」
「大丈夫に決まっているだろうゼロ。何をそんなに心配してるんだ?」

心配されることなど何もない、と言いたげに眉根を寄せながら、L.L.は手近な椅子に腰を下ろした。
その無事な姿にホッとしたのもつかの間、L.L.のすぐ後ろから、辺りをきょろきょろと見回しながら入ってきた長身の男の姿に、思わず目を疑った。

「へ~?ホントだ。L.L.が言った通り4人もいる」

こちらを見たその男は、赤い両目を細め、にやりと笑った。
それは、先ほど手足を拘束した白髪長身の男、マオ。
僕とナオトは立ち上がり、マオに対して警戒を示す。

「あっれぇ?ゼロの素顔って、へ~そうなんだ」

警戒をするナオトとゼロをきょろきょろと見比べながら、マオはにやりと口角を上げた。
マオは人の心を読み、心の奥底にある深層心理まで全て暴きだすというギアスの持ち主。
心を読み、ゼロの正体を知ったという事か。

「マオ、まずは座れ。ナオト、ゼロ、お前たちもだ。マオの事はもう問題は無い」

警戒を強める2人に座る様促し、セシルとロイドにも話に加わる様、L.L.は声をかけた。

「さて、ナオト、ギアスの話は聞いたか?」
「あ、ああ。正直冗談かと思ったんだが、ゼロが目の前で姿を消したからな。信じないわけにもいかないだろう」

僅かな困惑は感じられるが、ちゃんと受け入れてくれているその様子に、L.L.はニコリと微笑んだ。

「ギアスとは心の奥底にある願いの具現化。ゼロはその存在を隠さなければいけないという思いから、不可視のギアスが発現した。マオは人の心が分かりたいと言う思いから、人の心を読むギアスを手に入れた。他にも、愛されるギアス、記憶を書き換えるギアスなど、現れる能力は個人差がある。そしてギアスを発現する力を持つのがコード。コード能力者はその名前に特徴がある。俺がL.L.、連れがC.C.。日本には昔J.J.、U.U.とU´と言う者もいたらしい。ブリタニアにはB.B.とV.V.、中華にはK.K.か。他にも世界各地にコード能力者は居たようだ」
「コード能力者ってそんなにいるんですかぁ?」
「ああ。コード能力者の代替わりはあっても、数が減る事は無いからな。俺たちが知らない者もいるだろう」
「へ~、今度詳しく他の能力者のお話も聞かせてくださいねぇ」
「俺もC.C.以外の者とは殆ど接点は無いから、残念ながら話せる事は無い。所でロイド、お前ゼロの仮面に何をした?」
「仮面に、ですかぁ?」
「そうだ。仮面を所持しているゼロ、そしてロイド、セシル。お前たち3人にはマオのギアスが効かない。元々ゼロの仮面にそんな仕掛けは無いからな。お前が何かをしたと見るべきだろう?」

そのL.L.の指摘に、ロイドは両手を広げて「大当たりぃ~」と明るい声で言った。

「いえね、実は前にC.C.から、人の心を読むギアスの話は聞いていたんですよぉ。心なんて読まれたらこちらに勝ち目は無いですからね。万が一にも敵にそんな能力者が現れた時のために、色々研究したんですよ?その研究成果と言えるものをゼロの仮面と、僕とセシル君の、このペンダントに仕掛けてあったりするんですよ」

そう言いながら、首元から2人はペンダントを引っ張り出した。そのペンダントは、僅かに黄色の光を放っていた。

「ただこれ、希少中の希少と言われるレアメタル。サンフラワーストーンを使うんですよ。おかげで量産は不可能。用意できたのは3個だけ。ざ~んね~んでした」

サンフラワーストーン。
20年ほど前に日本で発掘されたサクラダイトに替わるレアメタル。
ただ、採掘量がほんの僅かで、その大半が研究機関に保管されている。
ひまわり畑の下から発掘され、色は黄色と言う事もありその名が付いた。
金属でありながらも半透明で、鉱石のようなその姿から太陽石とも呼ばれている。
金属なのに正式名で石と呼ばれるこの奇妙なレアメタルは、砂粒ほどの欠けらでも、もし市場の出れば数百万はするだろう。

「そうか、ならば俺が個人的に所持している分を回すから、マオにも作ってくれないか?」
「お持ちなんですか?このレアメタルを」

ロイドでさえ、伯爵と言う身分とコネと膨大な資金を投入してようやく手に入れる事が出来た代物だ。
L.L.が入手しているという事実に、ロイドは素直に驚きを顔に乗せた。

「ああ、研究に使えるかと思ってな」
「マオにも、と言う事は、制御の利かないそのギアスを、機械の力で制御しようというわけですね」
「可能か?」

にやりと口角を上げながら尋ねるL.L.は、無理なんて言うはずは無いよな?というような視線でロイドを見た。
その眼差しに、ロイドも口角を上げ不敵な笑みを浮かべた。

「防ぐ事が可能だったのですから、オンオフをするための装置を作ることは可能でしょう。ですがお時間は頂きますし、マオには研究に付き合ってもらう必要がありますが?」
「ああ。では明日にでも持ってこよう。いいな、マオ。ちゃんとロイドとセシルの言う事を聞くんだぞ」

ロイドの返事に大きく頷いたL.L.は幼い子供に言い聞かせるようにマオに言う。
マオは能力の制御という言葉に目をキラキラと輝かせ、満面の笑みを浮かべていた。

「もっちろんだよ!ギアスが制御できるようになるなら、実験台になるのも仕方ないし、この二人は静かだし。L.L.が大丈夫って言うんだから、僕ロイドと一緒に居るね」

まるで幼い子供がそうするように、両手をパンパンと叩きながら、マオは喜びの声を上げた。

「待ってくれL.L.。その男の事だが」

よし、と頷くL.L.に、ゼロは思わず声を上げると、ああ、そうだったなとL.L.が忘れてたと言う顔でゼロと、周りを見た。

「ゼロ、マオはもう敵ではない。マオの能力を制御できるようにする代わりに、騎士団のためにその力を使ってもらう契約をした。俺に対しても、もう危害を加える事は無いから、心配はいらない」

その言葉に、ゼロを含めた全員が不審げにマオを見つめると、まるで叱られた幼子のように、口をとがらせた。

「L.L.が駄目っていう事はもうしないよ。約束したし、L.L.怒ると怖いって僕、昔L.L.の罠にはまって死にかけたから知ってるよ。でもL.L.、先にC.C.探すからね!C.C.大丈夫かなぁ?」

コロコロと、悲しみ、怒り、笑う不安定なその様子は、危うさがにじみ出ており、マオに対する不安はぬぐいきれない。
だが、L.L.の話では、マオのこの狂気じみた精神はギアスの暴走によって引き起こされたもので、ギアスの制御ができるようになるという、未来への希望で先ほどよりも安定したのだと言う。
安定したと言っても、すぐに暴走するし、人の命をあっさり奪い、人の心を壊すことにも躊躇することは無いので、危険人物であることに変わりは無いようだった。
C.C.が戻ればさらに安定し、ギアスの制御ができるようになれば人並みの状態になるだろう、今は自分の言葉を信じて欲しい。というL.L.の言葉を信じる以外無い僕たちは、不安を抱きながらも頷いた。

「C.C.が今どのような状況かは解らないが、少なくとも死ぬことは無い。現在確認されているギアスユーザーはゼロとマオ。お前たちだけ。コードを奪える者は居ないはずだ」
「コードを奪う?」
「今のマオの状態、両目にギアスの力が宿った暴走状態を<達成者>という。この状態であれば、コードを継承する資格が手に入る。その上にある<到達者>と呼ばれる状態になった場合は、コード能力者からコードを奪う事ができる。ただし、コード能力者が拒絶した場合は奪えないから、奪うなら意識を奪うなり、気付かれないように奪う必要はあるらしいが、そこまでの能力者が居るとは思えない」

ブリタニアとの戦闘は今まで通り続けられるが、L.L.の連れだというC.C.探しも行われる事となり、騎士団内のごたごたも含め、しばらくその場で打ち合わせをした。

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