まだ見ぬ明日へ 第30話 |
「何でそれを俺の前に置く」 「え?だって僕、甘いもの得意じゃないし」 L.L.の目の前に置かれたのは、プリンと沢山のイチゴが乗った美味しそうなパフェ。 ようやく合流できたL.L.と近くのカフェに入り一息つくことになったので、運動したことでお腹が空いた自分用にパスタとピザを頼み、L.L.がちらちらと気にしていたように見えたこのパフェも頼んだのだ。 絶対に食べたいはずなのに、男が頼む物じゃないと我慢しているのか、甘い物が好きだと知られたくないのか、なんかそんな感じに見えたのだ。 「食べないのに頼んだのか」 「お腹が空いてたから美味しそうに見えたんだよ。だけどやっぱり無理。L.L.食べて?」 紅茶だけ頼んでいたL.L.は、仕方ないとスプーンを手に取り、プリンを掬った。 仕方なさそうにスプーンを口に運んでいるが、間違いなく幸せオーラが出てるし、表情もどことなく嬉しそうだ。 う~ん、プリン・いちご・パフェ・甘いもの。どれが好きなんだろう? 今度別々に買ってきて、反応を確かめてみるかな。 食事を進めながら全てを話すと、困ったような、それでもどこかホッとしたような表情でL.L.は聞いてきた。 「で、お前はどう答えたんだ?」 「どうも何も、丁重にお断りしたに決まってるだろ?」 「断ったのか?」 僕の答えに意外だという表情で、L.L.が言った。 「え?断るだろ、僕たちはブリタニアから隠れているんだよ?大丈夫L.L.?疲れたんじゃないの?」 「あ、いや、そうだったな」 僕から目を逸し、窓の外へ視線を彷徨わせながら言うその姿に、やっぱり疲れているんだなと確信した。 もう少し休んだら、今日は帰ろう。 ブリタニアからも日本からも隠れていると言う事は、皇女殿下の騎士なんてあり得ない選択だろうに。 脳の疲労回復に甘いものが良いっていうから、パフェを食べさせたのは正解かな? 「犯人はその場に拘束して、ユフィを連れて地下道を出た後、近くで捜査をしていた軍人に任せて来たけど、まずかったかな?」 「ちゃんと場所は教えたのか?」 「当然。目印もちゃんと付けながら地上に出たから大丈夫だよ」 「指紋は残さなかっただろうな?」 「念のため、皮の手袋ポケットに入れてたからね。君と合流するまで着けてたから大丈夫」 そうか、と言うと彼は紅茶のカップを傾けた。 パフェは半分ほど食べられていたが、そこから先には手をつけようとしなくなった。 元々食が細いL.L.だから、全部食べるのは無理なのかもしれない。 「L.L.パフェの残りもらっていい?」 「・・・結局食べるのか」 「全部は無理だけど、その量なら食べれるよ」 L.L.の返事を聞かずに、僕は彼が残したパフェに手を付けた。 「・・・よく入るな」 パスタにピザ、コーヒーとパフェの半分。 それを見て、信じられないというよりも呆れたという顔で、そう言われた。 「動いたからお腹が空いたんだよ。でも、危なかったな。もしあそこで彼女の騎士のなる道を選んでいたら、君と敵対する道に進んだわけだ」 まるでゲームの選択肢だったな。 A:騎士になる。 B:騎士の話を断る。 Aを選んだらバッドエンドルートに直行だった。 「俺と敵対?何の話だ?」 敵と言う言葉にピクリと反応をしたL.L.は眉根を寄せた。 あれ?と、僕は首を傾げた。 「話してなかったっけ?ああ、L.L.ダウンしてそれどころじゃなかったか。マオの事もあったし、扇の事もあったし」 「・・・何の話だ?」 「ナリタの時に、ショックイメージだっけ?君が赤兜のパイロットに見せてた時、僕君に触っただろ?あの時、色々なイメージが見えたんだ」 「・・・何を見た?」 僕の言葉に、L.L.はすっと目を細め、今までの和やかな空気が一転、ピリピリと緊迫した空気が漂った。 その様子に、やはり本来僕が見てはいけない物を見たのだと確信した。 確かに、未来が見えるなんて本来あってはならない事だ。 未来を変えると言う事は、とても重い罪なのかもしれない。 だから彼が警戒するのは仕方がないが、あんな未来変えた方が良いに決まっている。 「僕がユフィの騎士になって、君が僕の替わりにゼロとして黒の騎士団を率いる未来を見たんだ」 「未来・・・?」 ん?何だろう、L.L.の反応が何かおかしい。 未来が見えたという事に驚いているようにしか見えないんだが? 「うん?だと思うけど、違うのかな?」 「いや、お前があの時何を見たのかは、俺には分からないんだ」 「そうなの?」 「ショックイメージは、その力の対象となった者が持つトラウマを刺激すると聞いているが、未来を見る話は聞いた事がないな」 「聞いている?ああ、C.C.って人?」 「ああ。C.C.は俺より長く生きているからな。ショックイメージを使った回数も俺より遥かに多い。他のコードユーザーと接触もあるから俺より詳しいが・・・」 先ほどまでの警戒を解いたL.L.は、ふむと顎に指を当て思考を巡らせ始めた。 これは、L.L.の知らないショックイメージの影響で未来を見たという事なのだろうか? と言う事は、僕自身の脳が見せた予知なのだろうか? 「う~ん、よくは分からないけど、僕が見たのはユフィの騎士になり、ユフィがゼロになった君に殺される未来だよ」 「俺がユーフェミアを?」 「そして君を憎んだ僕と、ゼロの衣装を着た君が銃を向け合う。そして拘束した君を、恐らく皇帝に売ったんだと思う。僕は皇帝の騎士ナイトオブラウンズになっていた。でも君はどうにか自由になり、またゼロになるんだけど、信じられないような兵器が発明されて、トウキョウ租界と、どこかの都市が消滅してしまう。町があった場所がクレーターみたいになっていて、何も無くなっていた」 「俺が、ゼロで、お前が、ユフィの騎士。ラウンズとなり、トウキョウ租界が、消える?」 僕の言葉に、みるみる顔が青ざめ、明らかに動揺した様子でL.L.はそう口にした。 「うん。でもその後、また僕と君は協力して闘う事になるみたいなんだけど、そこから先は分からない。あとはシャーリーと、見知らぬアッシュフォードの学生が死ぬのが見えたかな」 僕はコーヒーを口にしながら、何れ来るであろうシャーリーの死、その未来も変えなければと心に誓った。 L.L.はテーブルに両肘をつき、両手で額を押さえるような形で顔を伏せている。 先ほどの様子から考えれば、完全に血の気が引いて困惑しているのは顔を見なくてもわかる。 当然か、トウキョウ租界が消えるなんて、信じられない話だ。 僕とL.L.は無事だったが、カグヤや他のみんなが無事だったのかは解らない。 もしかしたら、僕ら以外全員? そこまで思い至り、血の気が引いた。 恐らく彼は、僕程度じゃ予想できない規模で、その被害と状況を予測しているのだろう。 その両手と体が僅かに震えていて、僕の話で彼が受けた衝撃がどれほどのものかを物語っている。 あ、しまった。 僕たちが隠れている事さえ失念するほどL.L.は疲れているのに、さらに心労を増やす事を話してしまった。 ゆっくり休んでから、少なくてもクラブハウスで話すべきだったと、僕は激しく後悔をしていた。 |