まだ見ぬ明日へ 第31話

「ユーフェミア・リ・ブリタニアです。みなさんよろしくお願いいたします」

突然の転校生、そして予想外の人物に、教室にいた生徒全員が驚きの声を上げた。
なにせアッシュフォード高等部の制服に袖を通し、教師の横に立っているのは間違いなく副総督のユーフェミア。
庶民にとっては雲の上の存在である皇族が目の前にいるのだ。

「副総督であらせられるユーフェミア皇女殿下は、本来一学年下でありますが、皇女殿下のたってのご希望で、この学年となりました」
「あら?先生、そんなに堅苦しく話さなくていいのですよ?私はエリア11に来るまでEUの学校に一般人として通っていました。学校に通っている間は皇女としてではなく、ただのユフィとして接してくださいね」

額の汗をハンカチで拭きながら、顔色を青くし話す教師とは対照的に、にこにこと機嫌良さそうに話すユフィの姿に、僕は血の気が引いた。
彼女は辺りを見回しながら話すのだが、僕の方に視線を向ける時間が異様に長い。
一体何がどうなってこうなった?僕は完全に混乱していた。

「ランペルージ、皇女殿下の御世話役としてお前が指名された。いいな、くれぐれも、失礼の無いようにな」

青白くなった顔で教師はそうこちらに視線を向け告げた。
ユーフェミアもまたこちらを見てニッコリと微笑む
いきなり名指しされた僕に、全員の視線が痛いほど集まった。
イレギュラーには強いと自負する僕だが、完全に血の気が引き、身動きをする余裕すら無くなっていた。
まさか、名前と年齢からここを見つけたのか?それともただの偶然で、クラスメイトの中にたまたま僕がいたから?
どっちなんだ?それによって状況は全く違うモノになる気がする。
いや、それ以外にも考えないといけない事が。
駄目だ頭が真っ白で何も考えられない。

「スザクが私に失礼なんて、そんな事あり得ないわ」

くすくすと笑いながら、ユフィはそんな事を口にする。

「ユーフェミア様、ランペルージを御存じで?」

教師は驚いたようにユーフェミアに尋ねた。

「はい、スザクには2回も危ない所を助けてもっらたんです!」

両手を合わせ、嬉しそうに語るユーフェミアと、僕を見るクラスメイトの視線に、僕は今すぐここから逃げ出したくなった。
特にニーナの視線が物凄く痛くて怖い。
何で?
というか、どうしようホントに。
とりあえず、僕は制服の内ポケットに入れていたペンに手を伸ばし、スイッチを入れた。
L.L.は寝ているかもしれないが、会話は記録としてパソコンには残されるはずだ。
今の状況に気がついてほしい。そして、最悪の場合カグヤを頼む。



「・・・なんだこれは」

突然起動した通信システムに、俺は目を走らせた。
起動した通信システムは、スザクに持たせているペン型の通信機の物だった。
音声を文字に変換後、暗号化してからこのパソコンに送信される。
このタイプは声を直接飛ばすより傍受されにくく、暗号も俺とロイドが組み立てた物だから万が一の場合も内容が知られる事は無い。
今用意できる中で一番安全な通信機だからこそ、スザクに持たせているのだが、問題は音声認識に失敗した場合、正しい言葉では飛んでこないため、それを解読しないといけないと言う事だ。
次々流れる文字の殆が、スザクが動揺しているせいで文章として成立していない。
スザクの平常時の声に設定しているため、動揺し声音が設定よりもずれてしまうとこういう事も起きるが、それにしてもひどい。
俺とは違い、スザクはイレギュラーに強い。
だからこそ使えるシステムだったのだが・・・スザクがここまで動揺?
あり得ない。
あり得ないが、実際に起きている。
まあいい、今回のデータを解析し、スザクが動揺していても完璧に情報を飛ばせるように改良するだけだ。
新型の通信システムが完成するまでもう少しかかる。
それまではこの端末を使うより他にないのだから。
起動して10分ほどで、文章が送られてこなくなった。
時計を見ると、授業が始まったのだと言う事が解る。
俺は何度もその暗号化した文章を最初から目を通し、解読を試み、あり得ない結論を出す事となった。

「ユーフェミアが、スザクのクラスに転校してきたのか?」

あり得ない。
副総督であるユーフェミアが学校に通うなど本来あるはずがない。
だが、何度解読を試みても出てくる結果は同じだった。
最悪の事態を想定し、俺はこの時間洗濯をしている咲世子に内線電話を掛けた。
予想通り洗濯をしていた咲世子はすぐに捕まった。
2時限目になるタイミングで、カグヤを病院に連れて行くという口実で迎えに行く事となり、俺はスザクとカグヤ、咲世子を逃がす用意を始めた。
念のため三人を逃がすための準備はしていたので、さほど時間はかからない。
学園内のコンピューターにハッキングし、スザク、カグヤ、咲世子、そして自分に関する必要最低限のデータを残し、残りのデータは削除する。 特にイベント関係で生徒会と関り深い2人が写っている写真が、学園のデータベースに大量に保管されているので、データはこちらに移し復旧可能にはしておくが、さて。
データ上はこれでいい。
俺は机から離れると、クローゼットから中に荷物が入ったキャリーバッグを取りだした。
カードの類も普段からまとめて、スザクの衣類と一緒にこの中に入れてある。
ここの部屋に居座る事になってから、俺の私物を入れるために使っていた大きなキャリーバッグの中に、スザクの鞄も詰めこんだのだ。
後入れるとしたら今使っているパソコンだけだ。
カグヤと咲世子の荷物は、咲世子の部屋にキャリーバッグに纏めて置いてあるから、二つのキャリーバッグを持ってカグヤが戻り次第隠れ家に移動する。
スザクはギアスで逃げ切れるから、今は置いていくしかない。
最悪の事態に備えての準備はこれでいい。
次の問題はユーフェミアが通学を始めた理由か。
学園内の監視カメラをハッキングして辺りを伺うが、恐らくユーフェミアの護衛として来たのだろう純血派のヴィレッタとキューエル以外特に変わったところは見えない。
監視カメラの記録で、アッシュフォード高等部の制服を身に纏ったユーフェミアを確認する事が出来たので、自分の解読が間違っていない事に思わず嘆息した。
しかし、ユーフェミアは一学年下のはず。
なぜスザクと同じ教室に?
ユーフェミアに意識を集中させ、その間に軍が二人を?
いや、スザクとカグヤの生存が知られている事が前提になる。
それはあり得ないか。
スザクとカグヤにこの話が来なかったという事は、ミレイはまだ知らない。
となるとルーベンも知らない可能性が高い。
理事長すら知らない事態、つまり今朝突然ユーフェミアが押し掛け、職員室で強引に入学を決定させた、か?
皇女が入学すると、制服まで着てやってきたのだ。
断るなどと言う選択肢は無い。
となると、こちらもあまり考えたくない話だが、ユーフェミアの目的が、純粋にスザクと学生生活を送る事という可能性が高い。
俺は思わず米噛みを押さえ、1時間目の終わりの休み時間に交わされるであろう会話が画面に流れるのを待った。
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