まだ見ぬ明日へ 第32話

流石に教室でこれ以上スザクに迷惑はかけられないと判断したユーフェミアは、放課後の生徒会室にやってきた。
クラブハウスへ戻ってきたときに、お茶を入れるという口実でスザクはユフィの傍を離れ、こちらの様子を伺っていた咲世子と話をする事ができた。
L.L.がカグヤを連れてクラブハウスを離れたと聞き、一先ず2人はこれで安全だと解ると精神的に余裕が出来たのか落ち着きを取り戻す事ができた。
なにせ休み時間もお昼も抜け出すことが出来ず、ちゃんと気づいてもらえたのかずっと不安だったのだ。
万が一のときは、僕と咲世子は何も持たずにここを離れても大丈夫だと言う。
その為の部屋もL.L.が事前に用意していた事も知り、本当に彼が味方でよかったと心底思った。
お茶を持って生徒会室へ戻ると、にこにこと笑うユフィの傍に軍人が二人付き、ミレイだけではなくルーベンも来ていた。
咲世子はルーベンが来る事に気が付いていたのだろう、用意されたカップはルーベンを入れてちょうどの数だった。

「替わるね。スザク君は、座って話をした方が良いよ」

と、お茶を入れる役をシャーリーが替わってくれたので、僕は笑顔でこちらを見つめるユフィの前の席に座った。
僕の左右にはルーベンとミレイが座っている。
ホント逃げたい、L.L.とカグヤの所に行きたいよ僕。
あ、通信機スイッチ入れなきゃ。と、僕は制服の上をぎゅっと握るように掴み、ペンのスイッチを押す。
流石にこの状況で内ポケットに手を入れるのは無理。
空気が読めないと言われる僕でも、それぐらいは解る。
服を握る仕草は、緊張のためだと認識されるはずだ。
うん。大丈夫、怪しくない。

「ユーフェミア様、本校へのご入学をご希望されていたのでしたら、事前にご連絡くだされば、私共も出迎えをいたしましたのに」

ルーベンがそう話を切り出す。
事前に知っていれば、僕とカグヤは念のため姿を隠せたのだ。
そのルーベンの言葉に、ユフィは嬉しそうな笑みを消し、申し訳なさそうな表情をした。

「ごめんなさい、驚かせてしまって。でも、少しでも早く来たかったんです」
「早く?何かございましたか?」

何かあったのだろうか?と、身に覚えの無いルーベンは困ったように眉根を寄せた。

「いえ、その、早くスザクに会いたくて。ようやく今朝、アッシュフォードに通っている事が解ったんです。探したんですよ?」

その言葉に、通信を確認していたL.L.は、ああ、やっぱりそうなのか。と嘆息した。
今朝気が付いたという事は、早朝からアッシュフォードの制服を扱っている業者を叩き起こして、その制服を手に入れたという事だ。
思い立ったら即行動の人物ではあるが、行動力がありすぎる。
その内容に青ざめたミレイとルーベン、僕を睨んだりユフィを見て顔を赤らめたりと忙しいニーナ、ただただ驚いているシャーリーとリヴァル、そして緊張しているカレン。
今の僕はどんな表情なんだろうか、ちゃんと普通に驚いているだろうか。
緊張で喉がカラカラに乾いていた。
声が裏返ったりしないよう注意しながら口を開いく。

「僕に、ですか?」
「はい、貴方に、です」

にこにことそう言うユフィに、僕は引きつった笑みを浮かべる事しかできなかった。
ミレイとルーベンの視線が痛いほど感じられた。
何をやらかしたんだ、と言いたげだ。
いや、僕悪い事はしてないからね!?
その事を解らせるためにも、僕はミレイとルーベンに話していなかった事を口にした。

「ユーフェミア様、あの時のお話はお断りしたはずですが」
「あらスザク、ユフィと呼んでくださいと言いましたよね?」
「初めてお会いした時、自分はユーフェミア様が皇女殿下とは知りませんでしたので」
「そう言えばそうでしたね」

ころころと、相変わらず嬉しそうな笑顔を絶やさずユーフェミアは言う。

「ですが、今日からはクラスメイトです。ユフィと呼んでくださいねスザク」

庶民の分際でユーフェミア様を愛称で呼ぶな!と言う顔で睨みつけてくる軍人二人の視線は気付かないのだろうユフィは。
普通皇族相手に愛称で、しかも敬称抜きで話しかけるなんてありえない事だと解っていないのだろうか。
下手をすれば不敬罪で牢獄送りだ。
その上、軍人でも貴族でもない一般人が、皇女自ら騎士にと望んだのに断ったんだ。
下手をすれば死罪だと解っているのだろうか?
僕にとっては、万一の時はスザク・S・ランペルージを捨てて、カグヤと共に逃げる選択肢があるからこそ断れるが、普通は望まれた時点でイエス以外の選択肢など無い。

「お言葉ですが、ユーフェミア様」
「ユフィですスザク。あと敬語もやめてください」

駄目だ。愛称で呼ばないと会話をしないと、笑顔で圧力をしっかりかけてきた。
さすが皇族、折れるということを知らないのだろう。
僕は覚悟を決めて、深呼吸をした。

「ユフィ。あの日僕は、君の騎士にはならないと、言ったはずだよね?」

その僕の発言に、ミレイもルーベンも驚き、目を丸くし僕を見た。
何も聞いていなかったのだろう、軍人二人も驚き僕を見つめてきた。
後ろからは息を呑む音も聞こえる。

「ええ、聞きました。でも、一度断られたからと言って、諦める程軽い気持ちで言ったわけではありません。何度でも申し出るつもりですので、覚悟してくださいねスザク」

ユーフェミアはにっこりと笑い、僕にとっては死亡宣告をした。
それはつまり、イエスという返事が出るまで申し出るということ。

「なぜ僕を?僕は貴族でも軍人でもありません。騎士としての教養も、訓練も何も受けていない唯の学生です」
「だって、スザクは私の危機に二度も駆けつけてくれました。貴方以上に私の騎士にふさわしい人はいません」

不味い、これは不味い。
これは噂の吊り橋効果と言うやつか?
あの二回でユフィの信頼をがっちりと掴んでしまったらしい。

「一度目は、たまたま橋の下を通りかかっただけですし、二度目も運よくユフィのいる場所にたどり着けただけで」
「運も実力のうちです。私は貴方に、私の騎士になって欲しいのです。ただし、皇女からの命令ではなく、貴方自身の意思で」

幸い彼女のこの発言のおかげで僕には選択する権利が出来たのだが。
ああ、失敗した。
ユフィが誘拐された時、僕はどうしてゼロとして動かなかったのだろう。
ゼロが動けばこんな事にはならなかったし、何より騎士団の評価が上がっただろう。
ブリタニア側に貸しを作る事も出来たのだ。
同じような事を、この会話を見ていたL.L.も潜伏先で考えていた。
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