まだ見ぬ明日へ 第35話

目が覚めた時、僕は林の中に倒れていた。
・・・なぜこんな場所に居るのだろう?
身体には多少打ち身による痛みはあるが、それ以外問題は無さそうだった。
僕は辺りを見回しながら、先ほどまでの状況を思い浮かべる。
シュナイゼルが来るという式根島に、黒の騎士団は向かった。
目的はシュナイゼルの捕獲である。
クロヴィスとユーフェミア率いる部隊を牽制しつつ、シュナイゼルの乗る戦艦アヴァロンをもう少しで落とせる所まで行ったのだが、前線に出ていた僕とナオトを含めたナイトメアが突然動かなくなった。
その瞬間姿を現したのは赤兜。

『第一駆動系は動くはずよ、ナイトメアから全員降りなさい!』

あのパイロットの声が辺りに響く。
罠だったのか?そう思ったその時、騎士団の攻撃から逃れたアヴァロンは空中に浮かぶと、戦艦のハッチを開き、そこから赤い光が地上に降り注いだ。
そして気が付いたらこの場所に居た。
ランスロットはどうなったのだろう?傍に居たナオトは無事だったのだろうか?
歩いていると遠くから波の音が聞こえたので、そちらへ足を向けたのだが。
視界に映る景色から、ここが式根島とはとても思えなかった。
似てはいるが、ブリタニアの戦艦も何も海岸には見えなかったのだ。
となると、ここはどこなのだろう?
連絡は取れないだろうかと通信機器をいじるが、どれも通じなかった。
ただ、ペン型の通信機に、L.L.から3通のメッセージが届いていた。

[神根島へ数名転移]
[KMF回収済、騎士団撤退]
[ERROR-004]

3通目はエラーとなっていた。
つまりここは神根島で、転移と書かれているのだから、L.L.が何かをして僕を移動したのか?これもコードの力なのだろうか?
いくら考えても答えが出るはずがない。
移動させたのがL.L.だと言う事が解れば今はそれでいい。
数名か、誰が来たかは解らないが、警戒は必要だろう。
僕が神根島に居る事をL.L.は知っている。
ならば僕がすべきことは、ブリタニア軍に捕まることなく、救援を待つこと。その為には現状の把握と、安全に身を隠せる場所の確保。飲み水も手に入れたい。
現在地を知るために僕は少し高めの岩場に上った。神根島と式根島は近い場所にあるとL.L.は言っていたが、少なくとも今いる場所からは島影らしきものは全く見えない。
辺りを見回していた時、視界に入った姿に思わず懐から銃を取り出した。
何でここに居る?どうする?
砂浜を歩いてこちらに近づいてきたのは、ユーフェミアだった。
ユーフェミアはすぐにこちらに気が付き、呆然と僕を見つめていたがその視線がどこか奇妙だった。銃を突きつけられているのに、やけに落ち着いた眼差しでテロリストであるゼロをじっと見つめている。
どうするべきだろうか。
ブリタニア軍がここに来た時のために、人質にするのが得策だろうか。
そんな事を考えていると、彼女は嬉しそうに顔を綻ばせ、こう言ったのだ。

「スザク」

突然彼女から呼びかけられ、僕は目を見開いた。

「やっぱり、スザクなのでしょう?心配しないで、この事は誰にも話してませんし、話しません。それに、今は私一人です。ですからその仮面を外してくれませんか?」

彼女の瞳は確信に満ちていて、ここで違うと否定しても意味がない事に気が付いた僕は、仮面を外すギミックに手を掛けた。



「カレ・・・ン・・・?」
「お兄ちゃん・・・?」

私は自分の目を疑った。
お兄ちゃんが黒の騎士団に所属している事は知っていた。
あの河口湖でのホテルジャック事件での黒の騎士団の映像。ゼロの後ろに立っていたその姿で気が付いたのだ。
私が見間違えるはずがない。たった一人の兄なのだから。
私がシュタットフェルト家に引き取られ、お母さんが私の傍へ一緒に来た時、お兄ちゃんは一人ゲットーに残った。
自分にはやる事があるのだと、最近はなかなか会う事も出来なくなっていた。
そのやる事がテロだとは、私はその時まで気が付かなかったのだが。

「カレン・・・それは、パイロットスーツか」

私が着ている服を見て、お兄ちゃんは眉を顰めてそう聞いてきた。
お兄ちゃんに私が軍属である事は話していない。ナイトメアに騎乗している事もだ。
唯の学生として普通に生活していると、何時も話していたのだから。
だが、この状況で隠し通すことは無理だ。私は素直に全てを話すことにした。

「うん。あの右手に銀の爪を付けた赤い機体、私はあれの乗っているの」
「なっ!あの赤兜にか!」

赤兜、その日本人らしい呼び名に、私は思わず笑ってしまった。

「赤兜って呼ばれてたんだ。あれはグレンよ。グレンtype‐2nd。世界で唯一の第七世代ナイトメアなの」
「グレン・・・そうか。俺たちは何度も戦場で戦っていたんだな」
「うん。お兄ちゃんもナイトメアに?」
「ああ、前線に出ている白と青の機体解るか?」
「うん、ホワイトとブルーって呼んでる。あの馬鹿みたいに強い機体よね」
「あの、青い方に乗っているんだ。ちなみに名前はランスロット・クラブだ」
「ランスロット?裏切りの騎士の名前よね?」
「ブリタニアの技術者が作っているからな。祖国に対する裏切りと言う意味かもな」

お互いが乗っている機体は、どちらも最前線に出ていて、何度も闘っていた。
私たちは、殺しあってたんだ、本当に。
その事を実感してしまい、とても苦しく、辛かった。
思わず暗い顔で俯いた私に、お兄ちゃんは苦笑しながら、腕を組んだ。

「で、どうするカレン。俺たちは敵同士なわけだが?ちなみにこの島は式根島では無いみたいだ。どこか分かるか?」
「やっぱり式根島じゃないんだ。・・・ブリタニア軍か黒の騎士団、どちらかが救助に来るまで停戦じゃ駄目なのかな?」

だめだ、なんだか泣きそうだ。
ナイトメアに騎乗していないのに、私たちは兄妹で殺しあわなければいけないのだろうか? いやだ、お兄ちゃんと闘いたくない、捕まえたくない、死んでほしくない。どうしたらいい?私が騎士団に捕まればいいのかな?

「いや、俺としては停戦大歓迎!さーて、まずは焚き火か?なんかキャンプに来たみたいだよな!」
「ちょっお兄ちゃんっ!もうちょっと緊張感持ってよ!真剣に悩んだ私が馬鹿みたいじゃない!」

心底楽しそうにそう言う兄に、私は思わず怒鳴りつけてしまった。



ユフィに素顔を見せた後、ビバークできる場所を探す事となった。
しばらく海辺を歩くと、川の合流地点を見つけ、少し川を遡った所に、丁度いい場所を見つけ、そこで過ごすことにした。
川魚を取り、焚き火で焼いている間にすっかり日は落ちてしまった。

「はい、どうぞ。あ、内臓は食べないようにね?川魚は小骨も多いからよく噛まないと駄目だよ」
「有難うございます、スザク」

相手は皇女様だ、こんな風に木に刺して焼いただけの魚を食べた事は無いだろう。
ナイフ一本でもあれば、内臓も取り出せたりできるんだが、残念ながら銃以外の武器は持っていなかった。
今度からナイフは持って歩こうかなと思いながら、どうやって食べればいいのだろうと困っているユフィに、こうやって食べるんだよ、と僕は魚を背中の辺りから齧り付いた。
それを見ていたユフィは恐る恐ると言った感じで、同じように魚に口を付けた。
空腹の効果もあるだろうが、美味しいと、二口目をパクリと食べていた。
その姿が微笑ましく、僕は思わず笑ってしまった。

「よくゼロが僕だってわかったね」
「ええ、ホテルジャックの時に助けてくれたゼロと、美術館で誘拐された私を助けに来たスザクの動きが、とてもよく似ていたので」

しまった、動きからか。その可能性は全く考えていなかった。
ゼロはKMF以外での戦闘は基本しないから、他の人にばれる事は無いだろうが、彼女は唯一ゼロと僕の戦闘を見ていたのだ。

「じゃあ、僕がゼロだと知っていて、騎士になって欲しいと?」
「いえ、確信したのはさっきです。それまでは、どこか似ているとは思っていましたが、ゼロ本人とは思ってませんでしたよ?ですが、スザクが私の騎士を拒んだ理由はこれでよく解りました。ゼロであるスザクは騎士にはなれないという事だったのですね」

ユフィは少しさびしそうに笑いながら、そう言った。

「うん、僕はブリタニアが許せないんだ。ごめんねユフィ、僕は君の敵だ」
「ええ、解っていますスザク。安心してください、貴方がゼロだと言う事は、誰にも言うつもりはありません。でも今はゼロと皇女ではなく、唯のスザクと唯のユフィですよ?」
「そうだね。救援が来るまでは、停戦ってことで」
「はい」

ユフィは嬉しそうに返事をすると、魚を一口食べた。
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