まだ見ぬ明日へ 第39話


「え!?駄目だよ!ちゃんと食べるから作ってよ!」

何時もなら6時にはお弁当作りを始めるL.L.が、朝の鍛錬の終えて戻って来てもまだ部屋でパソコンの画面と睨めっこをしていたので「あれ?お弁当もう作ったの?」と聞いたら「ユーフェミアの弁当を食べているだろう?今日は昼にカグヤは戻ってくるからな、だから弁当は作らない」と、返されたのだ。
予想外の答えに、僕は思わずL.L.に詰め寄った。

「何言ってるんだ。ユーフェミアが弁当を作って来ると、昨日言っていたんだろ?どうして別に用意しなければならない?大体、前々から言いたかったんだが、何時の間に俺はお前たちの弁当係になったんだ?」
「それは、君たち三人はよく一緒にお昼を食べているのに、僕だけ除けものなのはずるいから、それなら毎回L.L.がお昼を用意すればいいって話になったんだよ」
「話になったって」
「僕とカグヤと咲世子の話し合いの結果。駄目?僕L.L.のご飯好きなんだけど・・・。ユフィがお弁当持ってきても、僕、L.L.のお弁当残さず食べてたよね?」

上目づかいでL.L.を見ながら、悲しげな表情で見つめていると、L.L.は言葉を詰まらせ、戸惑っていた。
それなりに一緒に居るのだ。
僕がどういう態度を取ればL.L.が弱かは把握している。
我ながらずるいなとは思うが、ここは引けない。
毎日楽しみにしているL.L.のお弁当を食べられないなんて嫌だ。

「・・・無理して食べても体に悪いぞ?」
「無理なんてしてないよ。2時間目終わったら食べてるから大丈夫」
「は?2時間目?」
「うん。何時もは朝に購買でパン買って食べてるんだ。でもユフィとL.L.のお弁当がある日は買わないでお弁当を食べてる。だから、別に食べてる量は増えてないよ」

購買で売られているパンより断然L.L.のお弁当の方がいい!と強く言うと、予想通りあっさりとL.L.は折れた。

「・・・まあ、お前は体を動かすから、その分空腹になるのも早いのか・・・それならそうと早く言ってくれれば、おにぎりぐらい用意したのに・・・」

まさか、朝昼晩の三食以外にも食事を取っていたとは、想像もしていなかったらしいL.L.は、思わず口を滑らせた。
それを聞き逃すスザクではない。

「じゃあ、おにぎり作って?」

用意してくれるんでしょ?
にっこり笑いながらそうお願いすると、L.L.は一瞬しまったという顔をした後、仕方がないなと、パソコンを監視画面からフェイク画面へ切り替え、立ち上がった。



「あら?スザク、それは何ですか?」

2時間目が終わり、さっそく僕はL.L.が握ってくれたおにぎりを取り出した。
それを見て、ユフィは不思議そうな顔で僕の手元を指差した。
この時間に僕が何かを食べているのはユフィもすでに見慣れたらしく、その事についてはもう何も聞いてこなくなっていたのだが、いつも取り出すのはL.L.のお弁当だったので、お弁当箱にも入っていない二つの塊に興味を持ったようだった。

「おにぎり。エリア11でよく食べられていた、お米を握ったものだよ」
「おにぎり?お米だけなんですか?」

エリア11という言葉に、2時間目が終わり、すぐにこちらの席までやって来たニーナは、あからさまに嫌そうな顔をしたが、ユフィは純粋におにぎりに興味深々だった。

「お米と塩が基本で、お米の中には色々な物を入れるかな。魚とか肉とか、野菜とか」
「お米を、その黄色いので包んでいるんですね」

今日おにぎりを作る予定はなかったので、海苔の用意が無いし、中に入れる物も無いから塩握りでいいと言ったのだが、それならばと、L.L.が握ってくれたのはたまごにぎりと言う、うす焼きにした卵で塩握りを包んだ物だった。

「これは薄く焼いた卵で包んでいるんだ。卵で包んだ物は僕も初めてだよ。普通はエリア11の特産品である海苔を巻くか、なにも巻かないものがおおいかな」
「簡単そうですね。今度私も作ってきます!」

料理の腕が上がらないユーフェミアは、これなら作れそうだと笑顔で言った。

「わ、私も作ってみようかな?」

同じく料理に難のあるシャーリーも、それなら私にも作れそうだと頷く。

「お米に塩に海苔・・・。私でも作れそう」

ユーフェミアが作るという言葉に反応したニーナも呟いた。


女性陣がおにぎりに対し何やら盛り上がりはじめ、その盛り上がりがその後誰に伝染し、どうなるか、少し考えれば解ったはずなのに、僕は初めて食べるたまごにぎりのシンプルな美味しさを堪能していて、その後の事を全く考えていなかった。


おにぎりを久々に握ったせいか、刺身が食べたくなったL.L.が、良い魚介類を売っている店は近くに無いのか咲世子に聞いたところ、普段はイレブンである咲世子相手に売る物は何もないと、門前払いする海鮮市場がある事を知った。
いい品が置いてあるという話は聞いていても、どんなものがあるか咲世子も知らないというので、 今日は2人で買い出しに出た。海鮮市場に入ると、最初は咲世子を見て嫌な顔をしていた店主・店員も、咲世子がカートを押し、ブリタニア人であるL.L.が咲世子に話しかけながら品物を選んでいる姿を見たせいか何も言ってこなかった。
その店には新鮮な生の魚だけではなく、質のいい海苔と良質な米酢、新鮮な生わさびも売っていて、今日のお昼は、L.L.と咲世子特製の海鮮丼となった。
エビの頭から出汁を取ったみそ汁も用意している。

「懐かしい味。本当においしいですわ。枢木のお兄様が知ったら、また不貞腐れてしまいそうですね」

くすくすと笑いながら、カグヤは美味しそうに海鮮丼を頬張った。

「そうですね。お刺身も戦後は口にできませんでしたから」

新鮮な魚が手に入れば、咲世子も刺身を用意できるのだが、イレブンだという差別で買える物も制限されてしまい、作れない料理も多いのだ。

「問題無い。ちゃんと残しているから、スザクには夜食に出せばいい。近くにこれだけ新鮮な魚介類が手に入る店があるなら、寿司も作れるな」

そんな会話をしながら、食べ進めていると、校内放送を示すピンポンパンポンと言う音が響いた。何かあったのだろうかと、三人は食べる手を止めた。

『みんなー、美味しくお昼を食べているかな?さてさて、皆さんお待ちかね、生徒会主催のイベントの開催決定しました!その名も<おにぎり祭り>!開催は来週のお昼休み。ルールは簡単!一番美味しいおにぎりを作ったクラスが優勝!優勝したクラスには学園祭での出店の位置と資金を優遇します!皆さん、愛情あふれるおにぎりを用意してね。詳細は放課後までにプリントで配布するから、よーく読むこと。以上、生徒会会長ミレイ・アッシュフォードでした』

必要な事を言い終わると、校内放送の終わりを示す音が響いた。
これから大急ぎで予算編成と告知のプリント作成をするのだろう。今日は風が強いので昼食は生徒会室で取っているはずだ。となると、生徒会執行部の全員は、昼食後強制的に準備を手伝わされることになる。
今日から祭りが終わるまでは生徒会室に近づくべきではないなと、L.L.は結論付けた。
スザクとカグヤ、咲世子の情報監視もあるのだ、祭りなどに関わるつもりはない。
いや、関わりたくない。

「おにぎり祭り、ですか」
「そう言えば今朝、L.L.様はスザク様におにぎりを作っていましたね」

朝食を用意していた咲世子の横で、L.L.がたまごにぎりを作っていたのだから、当然スザクがそれを持って行った事を咲世子も知っていた。
玉子を巻くおにぎりは咲世子も初めて見たと、興味津々でその作り方も見ていた。

「恐らくあれが原因だろうな。ブリタニア人には珍しかったのか・・・失敗したな」
「おにぎり、私も久しぶりに食べたいですわ」
「では、明日の朝食はおにぎりに致しましょう」
「おにぎりとみそ汁・・・漬け物は今から漬ければ朝食に間に合うな」
「白菜と人参、胡瓜がありますので、さっそく漬けておきます」

そんな話をしていると、シュンと音を立ててダイニングのドアが開き、スザクが部屋へ入って来た。

「スザクどうしたんだ?こんな時間に戻ってくるなんて珍しいな」

おにぎり祭りはいいのか?と続けようとしたのだが、スザクが不愉快そうに眉を寄せたので、思わず口を閉ざした。

「・・・って、何で三人でそんな美味しそうなもの食べてるんだよ!」

僕の居ない間に!
和気藹々と、海鮮丼を食べている三人の姿を見て、スザクは思わず不機嫌な声音でそう言った。
あ、しまったという顔で三人は口を閉ざす。

「ずるいよ!僕だって食べたい!」

ずかずかと足音を立て、不機嫌だと全身で訴えながらにテーブルに近づいてきたので、L.L.は仕方ないなとスプーンに一口分の酢飯と鮭の刺身を掬うと「食べるか?」とスザクに差し出した。
一瞬スザクが驚いたような顔でそれを見た後、恥ずかしそうに頬を染めながらも「食べる」と、それをパクリと口にした。「L.L.様も天然ですよね」とお茶をすすりながら話す咲世子と、女のカンか、何があったのか気付き頬を染めながら笑うカグヤ、何の話だと言うL.L.に、スザクは苦笑するしかなかった。

「うん、美味しい。L.L.、僕の分は無いの?」

こう尋ねれば、もし無かったとしても、きっと用意してくれるだろう。
予想通りというべきか、L.L.は苦笑しながら安心しろ、と言った。

「お前の分は夜食用に残しているから、今はこれで我慢してくれ。それよりどうしたんだ?また何かあったのか?」
「ああ、忘れてた。咲世子さん、炊いたお米ってまだあるかな?」
「お米ですか?まだ少しでしたら残っていますが、今食べられるのですか?」
「ううん。おにぎりがどんな物かよく解らないって会長が言うから、もし残っているなら見せた方が早いと思って」
「でしたら、すぐ用意いたします」

そう言ってすぐに咲世子は台所へ姿を消し、少し小さいサイズではあるが、おにぎりを3つ作って来た。
海苔の無い物、海苔を全面に巻いた物、長方形に切った海苔を下の方に巻いたもの。スザクは咲世子にお礼を言うと、それを持ってすぐに生徒会室へ戻って行った。

38話
40話