まだ見ぬ明日へ 第41話


旧日本解放戦線も合流した今、澤崎の件を話すべきだと言う事となり、黒の騎士団定例会議のある今日、L.L.を連れてアジトへとやって来た。
L.L.を連れてきたのはマオが騎士団に入ってから2回目。
つまりはC.C.救出作戦と今日しか連れてきていない。
C.C.の救出時は作戦中と言う事と、L.L.の姿はC.C.と再会するまで表には出てこなかったから問題はなかったのだが、こうやって騎士団員が一同に会した今回は、団員の視線が彼の方へと集まっているのがよくわかった。
何時も通り黒のコートを着て、容姿どころか肌も見えず体型すら分からないはずなのだが、欲に駆られた視線が彼へと向いていて、僕は仮面の下で眉根を寄せた。
漂う異様な空気に、何も知らないのであろう藤堂をはじめとする旧日本解放戦線は、居心地の悪そうな表情で辺りを気にしていた。この状況に一番注意し、気付かなければならないはずのL.L.は、何故かこの視線に全く気が付いていないようで、平然とパソコンで情報の確認を行っている。
ユーフェミアの騎士発言による情報探索に関しては、落ち着いたから監視をやめたと言っていたので、恐らく調べているのは澤崎の件だろう。
・・・やはりL.L.は連れてくるべきではなかったか。
会議開始まではもう少し時間があるが、ゼロである僕が話を始めれば空気は変わるはず。そう思った時、会議室の扉が開き、遅れる連絡の入っていた5人がやって来た。

「なんだ?この空気は。黒の騎士団と言うのは、発情した雄どもの集まりなのか?」

カツカツと足音を立てながら先頭を歩くのは不敵な笑みを浮かべた少女、C.C.。
その後ろに不機嫌そうに顔を歪め、周りを見回しているマオ。
飄々とした足取りで歩くロイド。
呆けた表情でのんびりと歩くジェレミアと、それを支えるように歩くセシル。
彼ら・・いや、C.C.に騎士団員の欲を宿した視線が向かった。
C.C.は口を開かなければ美少女だ。
その姿に、団員の視線は釘付けとなっているのがわかる。
身に纏っているのは研究所から助け出した時に来ていた白の拘束衣。
気にいったのだろうか?
C.C.はL.L.の傍へと移動すると、L.L.の肩に腕を置き、椅子のひじ置きに腰をおろした。
それは、周りの男を意識したものなのだろう、流し目で会議室にいる団員を一瞥した瞬間、欲を宿した男たちが息を呑むのがわかった。
そして、L.L.が操作していたパソコンの画面を覗き込むと、なるほどと言いたげに口角を上げた。彼女にはその画面の意味が解るらしい。

「なあL.L.、ここはゲスな男どもの盛り場なのか?」

L.L.に寄りかかりながら、C.C.は辺りに聞こえるような声で言った。

「・・・C.C.その言葉遣いは何だ。それに、なぜそんなことを言うんだ?」

失礼だろうと、L.L.はC.C.を叱る。
予想通りではあるが、やはりL.L.はこの異様な空気に気づいていない。
その事に、C.C.はすっと目を細め、ゼロを流し見た後、再びL.L.へ視線を戻した。

「・・・わからないかL.L.?私は事実を言っているだけなのだが・・・まあ、お前は知らなくていい事か。この馬鹿共の更生は私とマオでしてやろう」

C.C.はL.L.と、その隣に座る僕にだけ聞こえるような声音で、そう言った。

「更生だと?」
「気にするなL.L.。お前はそのままでいろ。こんな輩の為にお前が動く必要など無い。ゼロ、お前も動かなくていい。私に任せておけ」

彼女が何をする気かは解らないが、L.L.がこの空気に気づかないまま長い時を生きた原因がC.C.だと言う事はよく解った。
何も知らせず、こういう輩を見つけては裏で始末してきたのだろう。
彼の護衛のプロである彼女が動くと宣言したのだ。
彼女のお手並み拝見と言ったところか。
なんにせよ、あの強烈な一言でこの奇妙な空気を一瞬で消し去り、視線をL.L.から自分へと向けさせた。マオがますます不機嫌そうな顔をしていることから、妄想の相手がL.L.からC.C.に移動した事がよく解る。見えない、あるいは一瞬見ただけのL.L.よりも、こうやって堂々とその顔を晒しているC.C.の方が吸引力が高いという事か。
それらをすべて知った上で、C.C.は自らを餌にしているのだろう。

「・・・何をする気だ」

この状況に気づいていないL.L.は不審げに問うが、C.C.は満足げに口角を上げ、こちらへ視線を向けた。

「大したことではないさ。ゼロ、構わないだろう?」
「ああ、この件は君に一任しよう」

そう言うと、C.C.は満足げな表情で立ち上がり、用意されていた席へと移動した。

「・・・何の話だ?」

C.C.の話の意味が解らないとL.L.はこちらに聞いてきたので「最近騎士団内で問題が起きている。彼女は騎士団員の意識改革をしたいようだ」と言うと「あのピザ女が?」と言ってきたが「まあ、あいつの事だ。問題は無いか」と、再び端末へ視線を戻した。
一先ずこの件はこれで終わりだ。
そろそろ時間だなと周りを見回した時、席が幾つか空いている事に気が付いた。

「扇はどうした?」

僕は隣に座るナオトにそう尋ねると、ナオトは眉根を寄せ、困ったように頭を掻いた。

「来るようには言ったんだが、やはりこの前の処分にまだ納得できないようでな」

そう言えば玉城、南と言った以前紅月グループだった面々の姿が殆ど無い。
扇の処分は、ナオトの補佐から外しただけという、処罰にしてはかなり軽い物なのだが、それすら気にいらないようだ。黒の騎士団は元々自分たち旧紅月グループが中心だったのだから、ずっと中心に居られる、何せリーダーのナオトがNo2なのだからという態度でいたのだが、扇が補佐の地位から降ろされ、藤堂達が入った以上その能力に応じた者たちが中心となっていくことになる話はでていた。その事も納得できないと、自分たちを粗雑に扱いすぎだと、最近騎士団内で玉城を中心に揉め事が起きていた。こうなる事はあらかじめL.L.から聞かされていたので、始まったか、という気持ちしかなかったのだが。

「そうか。だが、失った信頼を回復するために尽力するなら解るが、大事な会議に欠席とはな」
「・・・俺は、最近あいつらが何をしたいのか解らなくなってきた。日本を解放したいのか、権力を・・・いや、すまない。会議の時間だ、始めようゼロ」

暗い表情で話す旧紅月グループリーダーから、黒の騎士団No2へと思考を切り替え、真剣な表情でそう告げたナオトに、僕は頷いた。

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