まだ見ぬ明日へ 第42話


無事会議を終え解散した後、僕はL.L.とナオト、泉、藤堂と四聖剣、そしてロイドたちを連れてロイドの研究室へやって来た。C.C.は早速何かをするようで、マオと共にさっさとどこかへ行ってしまった。
研究室に用意されたその部屋は、ロイドとセシル、そしてL.L.が対ギアスも兼ねたジャミングもしかけていて、どの場所よりもセキュリティが高く設定されていた。
ここでなら何を話しても大丈夫。
全員が席に着いたのを見て、僕は話し始めた。

「これから、私はここに居る者たちに話しておきたい事がある。私の秘密と、黒の騎士団の最終目標についてだ」

その言葉に、藤堂たちは息を呑んだ。

「ある程度の事までは、ナオトとセシル、ロイドには話をしてはいたが、今日話す事はそれだけではない。・・・L.L.とC.C.、マオは全てを知った上で私の協力をしてくれている者だ。これから私の話す事を理解し、貴方達にも私の仲間となって欲しい」
「仲間?黒の騎士団とは別にと言う事か?悪いが、我々の目的は日本の解放。いかに黒の騎士団のトップの願いでも、協力は出来かねる」

藤堂はそう即答し、席を立とうとしたので、この人は変わらないなと、僕は思わず笑ってしまった。その声が聞こえたのだろう、藤堂は馬鹿にされたと思ったのか、眉根を寄せ、こちらを睨みつけてきた。四聖剣も同様だ。

「貴方ならそう言うと思いました。ですが、その回答は、まず僕の素顔を見てから決めてくれませんか?」

僕はそう言いながら仮面に手を掛けた。
ゼロが仮面を外すと思っていなかったのだろう。
泉も藤堂も、四聖剣も驚き、こちらを見つめた。
カチリとギミックが作動し、仮面が外される。口元の息苦しい布も降ろし、一息つくと、僕は藤堂に向かい、にこりと笑った。

「お久しぶりです、藤堂先生」
「まさか、スザク君か!?生きていたのか!」

僕の素顔と、その素顔を藤堂が知っていた事に皆驚き声を無くした。

「はい。あの時、どうにか生き伸びました。それで、先生。僕の仲間になる気はありませんか?」

にっこりと笑いながら再び聞くと、藤堂は先ほどまでの厳つい顔を崩し、笑みを浮かべながら椅子に座りなおした。

「まいったな、まさか君だとは・・・いや待ってくれ。君が生きているという事は」
「はい。先生の想像した通りです。その為の仲間です。黒の騎士団も確かに仲間ではありますが、あくまでも日本解放の、ブリタニアと闘う為の仲間です」
「同じ事ではないのか?」
「全く違います。僕が守る宝は、その存在を知られるわけにはいきません。多くの者が知ればそれだけ危険が増します。だからこそ桐原も僕の生存を先生に伝えなかった」
「桐原公がゼロに従い、何があっても裏切るなと言っていたが、その正体には触れなかった」
「六家で僕の生存を知っているのは桐原だけのはずです」
「そこまで徹底していながら、我々に正体を知らせる理由はなんだ?」

すでに出す答えは決まっているのだろう。だが、やはり先生は先生だ。その辺はしっかりと確認してくると思っていた。

「僕自身が見て信頼できる人間を選んでいるだけです。六家は日本のためだと、僕たちを御輿として担ぎあげる可能性は高い。それは絶対に避けなければなりません。僕は、宝を守る仲間が欲しいのです。・・・本当は僕と咲世子だけで守り続けるつもりだったのですが、L.L.という共犯者を僕は手に入れました。人間とは欲深い生き物です。L.L.という頭脳を手に入れた僕は、宝をただ守るだけではなく、宝を収める台座が欲しくなりました。その結果、僕自身、今のように宝から離れる時間が増えています。その事でもし宝に何かがあれば本末転倒、出来れば僕は宝の傍で常に守っていたい。でも、台座も欲しい。だから困っているんです。みなさんは顔も名も売れてしまっているので、直接宝を守る事は出来ない。でも、宝を守る僕の協力は出来ますよね?」
「全く、君は随分と話し方が丸くなったと思ったが、性格の方は変わらないか。もう私たちが協力するのは決定事項のようだな」
「え?まさか断るとか言わないですよね先生!?」

呆れたように溜息を吐く藤堂に、その反応は予想外だと僕は思わずそう聞くと、藤堂は苦笑した。

「君が持ちかけてきた時点で、私には断ると言う選択肢はない。その事を知った上で聞いているのかな」
「・・・ひどいな先生。断らないと思っていても、宝を守る者としては不安なんですよ?この7年、宝の番人は4人だけだったのに、ここに来てその秘密をこれだけの人間に知らせる事になるんですから」
「・・・そうだな。すまなかったスザク君」
「所で先生、四聖剣は信用しても?」

僕は藤堂の後ろに座る4人に視線を向けた。
藤堂は自信満々という顔で、大きく頷いた。

「ああ、信じてくれ」

僕はその言葉に、ホッとし、笑いながら頷いた。僕たちの会話を驚きながら聞いていた他の者たちの顔を見回した後、僕は意を決して、彼らの警戒を解くためにも人好きのする笑顔を向けて話し始めた。

「では、改めて自己紹介をしましょうか。僕の名は枢木朱雀。日本最後の首相と呼ばれる枢木玄武の息子であり、京都六家の一角を担う枢木家の者です」

その言葉に、ナオトと泉、そして四聖剣は驚きの目を向けてきた。開戦前に生きていた人間なら、枢木玄武とその息子朱雀の身に起こった事を知っている。いや、その後に生まれた者も、話には聞いているかもしれない。

「開戦前、父は殺害されました。いえ、父だけではなく、枢木本家にその日居た者たち・・・皇のじい様も、桐原の息子も、その護衛や使用人も含め殺されました。僕もその場に居合わせましたが、自分の血液を残す事で、死を偽装したのです。その後7年間、協力者が用意した偽りの戸籍を使い、身を隠して生きてきました」
「あの血は自分で?」
「正確には咲世子・・・先生は面識ありましたよね?長年六家に仕えている隠密、篠崎流頭首・篠崎咲世子の機転です。あの日、皇のじい様と共に警護のため来ていた咲世子は、僕を守るためそうしたのです。・・・もう一つの血は違います。僕たちが駆け付けた時には、傷がつけられた後でした」
「・・・!ご無事なのか!?」

慌てた様子の藤堂に、僕は安心させるよう頷いた。

「もちろん無事ですよ。でなければ僕が隠れる理由がありません」

僕の言葉に藤堂は安堵の息を漏らし、その顔に笑みを浮かべた。
何の話かわからない、あるいはまさか・・・と思いながらこちらの話を聞いていた面々に、僕は居住まいを正すと、真剣な顔で彼らに告白した。

「ナオト、泉、ロイド、セシル、そして四聖剣。僕が守る宝、それは天皇陛下です。現人神であり、今生天皇である皇神楽耶様。彼女は7年前、父を殺した者たちの手で傷を負ましたが、今も元気に過ごしています」

その内容に、ナオトと泉、そして四聖剣は驚き目を見開いて絶句した。
当然の反応だ。
7年前に失われたはずの尊い血。
日本が2000年以上守り続ける血族。
日本が日本であるために必要な象徴。
天皇の血筋である皇家全員の死、それも次期天皇であった神楽耶の死は、日本軍にも、日本人にも大きな衝撃をもたらし、戦意を喪失させた。
朱雀と神楽耶の死体が見つからなかった事で、ブリタニアに抵抗すればその死体が穢され、晒しものにされるのではとも言われていたのだ。

「ブリタニアは神楽耶が死んだものと思っていますが、万が一その生存が知られれば、再び命を狙われます。彼女の生は日本人を決起させる起爆剤ですからね。この日本を奪還し、ブリタニアに対抗できる状況となってからでなければ、その生存は明かせない。その為の黒の騎士団と仮面の司令官ゼロ。・・・日本を取りかえしただけでは、再び攻め込まれて終わります。僕たちはブリタニアをこの国から退け、場合によってはブリタニアその物に致命傷を与えなければならない。ブリタニアが騎士の国だと言うのであれば、日本は侍の国です。陛下を守るため藤堂将軍を中心とし、僕に協力してほしい。・・・そして、万が一僕が倒れた時、L.L.と咲世子と共に陛下を守ってください」

僕はそう言いながら深々と頭を下げた。
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