まだ見ぬ明日へ 第43話 |
「なるほど、ゼロは正体を明かせない理由は、天皇陛下の生存を秘匿するためだったのか・・・」 呆然とした顔で、ナオトはそう口にした。 スザクはそれに頷く事で答えた。 それを見たナオトは、頭を抱えて天を仰ぎ、大きく息を吐いた。 たしかにこれは、人体実験の被験体であるL.L.の素顔を隠す理由よりもずっと複雑で、どれだけ周りから言われようとも絶対に素顔を晒せないのは当然だと納得した。 「天皇陛下が生きておられる。まさかそんな夢のような事が・・・でも、本当なんだな・・・」 天を仰いだまま、声に喜色をにじませ、今にも笑い出しそうなナオトに、彼は大丈夫だなと判断した。 これは賭けだ。 本来ナオトと泉、四聖剣には隠し通すはずだった枢木朱雀と皇神楽耶の生存。 それを話した後の彼らの反応は、場合によっては彼ら自身の死に直結する。この後、念のためマオの力で彼らの潜在意識にも探りを入れる予定だが、この様子では問題はないだろう。表には出さず、スザクは胸をなでおろした。 頭の回転の速いナオトから遅れる事数十秒。 ようやく四聖剣と泉が状況を理解し、呆然としていたその顔をこちらに向けてきた。 「本当か!?本当に陛下がご健在なのか!?」 仙波と言うこの中で最も年長者が、震える声でそう尋ねてきたので、スザクは笑顔のまま頷き、胸ポケットから携帯電話を取りだし、いくつか操作した後、藤堂へ渡した。 その画面に映し出されているのは、椅子に座り美味しそうにタコ焼きを食べているカグヤの姿。藤堂は幼いカグヤとも面識があるため、成長した朱雀に気づいたように、すぐにその写真が神楽耶だと気付いた。優しいまなざしを写真にむけ、口元を綻ばせる。 「ああ、・・・間違いない、神楽耶様だ」 その声は僅かに震えていて、こんな藤堂を見たのは初めてだなと、スザクもまた口元を綻ばせた。 「この写真は最近の物です。見ての通り、食い意地も昔と変わってないですよ」 肩をすくませ、呆れたように言う僕に、藤堂はその様だなと苦笑しながら大きく頷く。 四聖剣とナオト、泉は立ち上がり、藤堂の傍へ寄って行った。 気付いた藤堂は全員にも見えるよう携帯を持ち直すと、ナオト達は携帯の画面に近づき、食い入るようにそれを見た。 「これが神楽耶様」 「天皇陛下・・・陛下っ!」 穏やかな笑顔で、自分の妹と変わらない年の神楽耶を見るナオトと、感涙で声を震わせながら陛下と何度も口にする泉。 「おお、確かに。お美しくなられた」 「これが、神楽耶様」 「お元気そうだな」 「ああ、よかった、本当に」 天皇の特番などで神楽耶の姿を見て覚えているのであろう仙波と、幼い頃の神楽耶の姿を知らない、あるいは思いだせないようだが、その生存を喜ぶ朝比奈、卜部、千葉。 そんな彼らの様子を見た後、ロイドとセシルへ視線を向けた。 2人は穏やかな表情で口元に笑みを浮かべては居るが、彼らほどの反応はない。 当然か、僕が枢木でも、天皇が生きていても外国人であり、科学者の2人には関係の無い話だ。この二人には素性を話し、神楽耶と朱雀、咲世子の主治医にと言う話もC.C.から出ていたぐらいだから問題はないはずだ。 彼らが落ち着くまでしばらく時間をおくべきだと、L.L.はスザクに耳打ちすると、この部屋の奥に設置されている簡易キッチンへ足を向けた。 数分後、出てきたのは渋めの緑茶と、L.L.手作りの羊羹。 皆が、優しい甘さの羊羹と、それによく合う美味しい日本茶を口にし、落ち着いたのを見計らい、スザクは再び口を開いた。 「先ほども言いましたが、僕の・・・京都六家の一角である枢木家の嫡子、枢木朱雀の役目は天皇である皇神楽耶を守ること。だから出来るだけ僕は神楽耶の傍にいて、彼女を守りたいのです。ですが日本も取り戻したい。その為には黒の騎士団と、ゼロが、指揮官が必要です」 その僕の言葉を全員が真剣に聞いていた。L.L.はこういう場に置いては、僕の言葉を遮ったり表立って否定する事はない。僕の意思に任せ、僕の判断にゆだねてくれる。藤堂を味方に引き込むとL.L.には話していたが、ナオト、泉、四聖剣を呼ぶ事は彼にとって予定外のはずだ。 それでも彼は何も言わなかった。 ただ静かに僕の話を聞いている。 後で叱られるかもしれないが、その時はその時だ。 一度お茶を口にしてから、僕は話を続けた。 「ナオトと泉は気付いているかもしれないけど、ゼロの作戦と、ナリタでの指揮は僕ではなくL.L.のものです。L.L.は僕の頭脳で、僕はL.L.の手足。表立ってゼロと名乗っているのは僕ですが、ゼロは僕一人では成り立ちません。ですから、僕に協力すると言う事はL.L.に協力する事と同意です」 その僕の言葉に、ナオトと泉、ロイド、セシルは解っているという顔を、藤堂と四聖剣は見定めるような視線をL.L.へ向けた。 「ですが、僕が神楽耶の傍に居て、L.L.がゼロになればいい、という話にはなりません。今の僕が守るべき対象にL.L.も含まれているからです。L.L.という共犯者が居なければ、僕はシンジュク事変で殺されています。あの日僕が助かったのは、たまたま出会った僕を庇い、L.L.がその身を盾にして守ってくれたからです。彼が心臓付近を撃たれた、と言うのはこの時です。ナリタでも同じで、赤兜に捕まり、生身の僕にKMFの銃が向けられていましたが、その場に彼が現れ、僕を救い出しました。その結果、瀕死の重傷を負う事になったのです」 僕はスッと視線をロイドに向けると、ロイドは解っていると言いたげに頷いた。 「ナリタで重傷を負ったL.L.様の治療は僕とセシル君で行いました。L.L.様の体にあった裂傷は大小合わせて32か所。その内致命傷は4か所。全て体の表側の傷です。L.L.様でなければ4回死んでもおつりがくる怪我をしながらも、スザク君の盾としてKMFの前に生身の体で立ち続けた。痛覚は僕たちと変わらないのに、よく意識を保ち続けた物です」 「痛覚が僕たちと同じ?」 その情報は知らない。僕は驚きロイドに訪ねた。 「あれ?知りませんでした?まあ、L.L.様は」 「ロイド」 ロイドが話を続けようとしたのを、L.L.は低い声で名前を呼ぶだけで止めた。 何を言いかけたかは解らないが、つまり僕は肉体的な損傷だけではなく、彼に死の苦痛を味あわせていたのか。 ロイドはL.L.に止められた以上もう話す事はないと言いたげに、羊羹をパクリと口に入れ、すでに冷めてしまったお茶を美味しそうに口にした。 この話は今追求するべきではない。僕はL.L.を一瞥した後、再び視線を全員に向けた。 「L.L.はこの体質のせいで自分の命を軽視し、僕とカグヤを守るために傷つく事を躊躇いません。彼は僕と共に居るか、C.C.が護衛に着きますが、ここに居る方に彼をお願いする事も出てくると思います。その時は、いくら怪我が治る体質でも、普通の人間と同じように守ってもらいたい」 「必要無い。自分の身ぐらい守れる」 「駄目だ。君の、君自身に関する大丈夫は当てにならない」 「僕もスザク君に同意です。貴方は無理をしすぎる」 「そうですよL.L.様、怪我も病気もすぐ治るというのは、無理をしていい理由にはなりません」 僕の言葉に、ロイドとセシルも援護をしてくれたので、L.L.は反論しようとしたが、その言葉を呑みこむと、不機嫌そうに腕を組み、顔をそむけた。 後で絶対口論になるな。 まあ、僕も問いただしたい事が出来たから、好都合だ。 不機嫌になったL.L.は放置し、僕は再び口を開いた。 「お願いしたい事はL.L.の事だけではありません。現在、全ての作戦の指揮をゼロが取っていますが、大きな作戦以外、指揮を貴方達にも任せたいのです。作戦や指示に関しては、ロイドとセシル、そしてL.L.がブリタニアの最新技術にも負けない、傍受が困難な通信機を用意しています。僕とL.L.が神楽耶の元に居ながらも指示が出せる環境を作り出す事が今なら可能なのです。勿論大きな作戦にはゼロは参加します。ですが、全てにゼロが参加する必要はないと思うのです」 その僕の言葉を、藤堂たちは真剣な顔で聞きいっていた。 |