まだ見ぬ明日へ 第44話


「なるほど、そう言う事ですの。それは枢木のお兄様が悪いに決まっていますわ」
「スザク様、もう少し考えて行動していただかないと・・・」
「う、やっぱりそうだよね」

朝食を食べながらカグヤと咲世子に昨夜の会議の報告をしたのだが、そうきっぱりと断言されてしまった。あの会議の後、L.L.は僕と殆ど会話を交わすことなく、戻って来たC.C.と共に「研究室に用があるから今日はクラブハウスへは戻らない」と言って立ち去ってしまい、しばらくしてからC.C.が帰宅しようとしていた僕の前に現れた。
呆れたように僕を見て、何をやっているんだお前は。と溜息と共に口にした。

「何があったかはロイドから聞いた。あいつと手を組むなら、ちゃんと話は通せ。行き当たりばったりでの行動は、あいつが嫌う行為だ。機嫌が治るまでこちらで預かるが、早ければ2、3日で鎮まるだろう」

まあ安心しろ。私とマオが付いている以上、あれの身は安全だ。むしろ害虫退治のいい餌になってくれる。
と、言いたい事だけ言うとさっさとこちらに背を向けL.L.の元へ戻って行った。

「藤堂を引き込む話は私も聞いておりましたが、ロイド、セシルはともかく、ナオト、泉、四聖剣は聞いておりませんわ。その場に居たL.L.は、さぞ驚いた事でしょう」

直感と言えば良いように聞こえますが、行き当たりばったりですものね、お兄様は。
その上、謝るタイミングも逃しましたわね?

「もしかしたら、今回の事でスザク様を見限る可能性もありますね」

となると、もうこちらには戻ってこないかもしれませんね。
そんな2人の言葉に、僕は血の気が引く思いがした。

「え?見限るって、え?戻ってこないって何!?それは駄目だよ!僕今から行って謝ってくる!!」

慌てて椅子から立ち上がった僕を、素早い動きで止めたのは咲世子。

「スザク様、今行ってもL.L.様を怒らせるだけです」
「少し落ち着いたらどうですの、枢木のお兄様。ゼロとして会う事は出来るのですから、その時に謝ればいいのです。授業をさぼれば、余計怒らせるだけですわ」

出来るだけ学生として生活さようとしているL.L.だ。学校をサボれば確実に怒る。これ以上彼の機嫌を損ねるわけにはいかない。

「ですが、L.L.様が今日から留守にする、というのは好都合でございますね」
「え?何の話?」
「L.L.様のストーカー一斉駆除を行う事になりました」

ストーカー。最近静かになっていたからすっかり忘れていたが、L.L.を狙う男女がクラブハウスに入り込んだり、盗撮、盗聴、尾行など様々な事をしていた。盗撮、盗聴に関しては気が付いたL.L.が自分で動き全て抹消していて外部には漏れずにすんでいた。あの日、箱庭の番人であるアッシュフォードが事態に気づいた事で、それらは表面的には収まったが、裏ではまだ続いているのだという。
とはいえ、L.L.はあれ以降クラブハウスから一人で出る事はなく、僕と夜抜け出すときは裏道を使っているので、実害は受けていなかったが、咲世子がカグヤ、ミレイと打ち合わせをしながら、L.L.に変装して定期的に状況の確認をしていたのは知っていた。

「ここ数日、咲世子がL.L.に変装し学園内外に探りを入れたのです。ミレイと今日詳しく打ち合わせをする予定ですが、今回で一気に片付ける予定なので、枢木のお兄様、御一緒にどうですか?」

良いストレス解消になりますわよ?という神楽耶の言葉に、僕は二つ返事で答えた。



「それで、どんな状況だ?」

研究室にある高セキュリティの部屋には、L.L.が入れた紅茶とクッキーが乗ったテーブルを、L.L.、C.C.、マオが囲んでいた。美味しい美味しいと、マオは満面の笑みでクッキーを頬張っていたが、L.L.のその言葉に、皿に伸ばしていた手を止めた。
もぐもぐと、口に入っていたクッキーをよく噛み、飲み込んでから口を開く。

「多分大丈夫だと思うよ。てんのーだっけ?神楽耶のためなら命を捨てる覚悟をしたのは、仙波と泉。卜部、朝比奈、千葉の3人は、藤堂が命じたら命を掛けるだろうけど、神楽耶より藤堂の方が上かな。藤堂、ナオトはスザクとカグヤとL.L.を守るために全力を尽くすつもりだね。ロイドとセシルは聞こえないから分かんない」
「ほぼお前の予想通りだなL.L.。ロイドとセシルは問題ないだろう。冷静だったのはやはり藤堂、ナオトか。命を掛ける意思は結構。だが、こちらが望んでいるのは肉の盾ではなく、守るための力なのだろう?もう少し時間を置いて冷静になってもらわないと、足元をすくわれるぞ」
「そうだな。次の作戦、澤崎の件に関しては彼らは動かさない方がいいだろう。浮足立っている今、どんなミスをするか解らない。となると、動けるのは俺とお前、そしてナオトか。藤堂はナイトメアが汎用しかないからな」

三人しかいないので、重苦しいコートを脱いだL.L.は端末を操作しながら作戦の概要をまとめ始めた。

「枢木スザクは動かさないのか?」
「あれはイレギュラーすぎる。今回の作戦では、限られた機体・・・1騎だけで動くことになる。そんな中でイレギュラーを起こされれば、命にかかわる。ガウェインも一緒に出さない限りフォローしきれん」

本来ならガウェインで動くのが一番なのだが、手に入れてから今まで、ゼロが煩くてL.L.での調整をしていなかった。こうしてあの会議を口実にL.L.だけで研究所に来る事が出来たが、5日でドルイドシステムも含めての調整はぎりぎり間に合うかどうかと言ったところだ。

「ならば、動くのはガウェインか、ランスロットクラブか。フロートユニットは完成したのか?」

それが無ければ空を飛べるのはガウェインだけだ。選択の余地はない。

「最終テストは明日行われるが、問題はないだろう」

シミュレーターは何度も確認した。飛行距離と飛行時間の誤差もさほどないだろう。

「そうか、ではランスロットクラブで決定だな。どうせブリタニアが出すのは紅蓮だ」

調整の終わっていないガウェインより成功率が格段に高い。問題はフロートユニットによる飛行にナオトがどれだけ順応できるかだが、あの運動神経なら問題はないだろう。

「兄妹・・・か。まあ、今回の目的は同じだから、戦闘にはならないだろう。・・・澤崎に日本を名乗られては此方も困るからな」
「奴らが動くのは何時だ」
「恐らく、5日後」

端末を打つ手を止め、L.L.は恐らく日本を名乗り、中華連邦の傀儡として澤崎が攻め込んでくるであろう日を告げた。

「なるほど、ではその間、お前は機嫌を損ねたままで居なければな。ガウェインの調整と改良のためにはここに居なければならない。最悪の事態も想定して、ガウェインで待機はするのだろう?」
「当然だな」
「枢木スザクが怒るぞ?聞いていないと」
「こちらが聞いていない事もどんどん勝手に進めている奴だ。それをやられたらどう思うのか解らせるには言い手だと思うが?」
「目には目を、歯には歯をか」
「あの直感と感情で動くところは、今のうちに直さなければな」
「昨日よりも良い明日と言う日を迎えるための布石か。まあ、あれに思慮深さが加われば、よりよい指導者となれる」

滅多に人を褒めないC.C.は、そう言いながら紅茶を口に含んだ。

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