まだ見ぬ明日へ 第47話


「あの時の事は本当に悪かったと思ってる。今後は君にちゃんと一言相談して、意見を聞いてから大事な案件は進めるようにするから、機嫌直してよ」

先程は、つい怒りに我を忘れて怒鳴り付けてしまったが、追いかけている間にいくらか冷静になれた。元を正せば自分の言動から来たこと。ならば先日の反省を示すことが先だと、頭を下げた。
目の前にいるL.L.は、さっきの剣幕の後謝ってくると思ってなかったらしく、驚いたようにスザクを見た。

「・・・いいだろう。もしこの約束を破れば、俺はC.C.とマオを連れてここを去る。勝手に動く者の共犯者など続けるつもりはない。たとえ、恩人でもな」

凛とした声音でそう言い放ったL.L.に、僕は息を呑んだ。L.L.の表情と声からは本気だとしか思えない宣言。カグヤが、L.L.に見限られると言っていたが、それが現実になる可能性はあるのだ。

「とはいえ、状況によっては機転を利かせなければいけない場面もある。その時は仕方がないが、この前のように事前に話し合える場合は必ず俺かC.C.に話せ」
「C.C.に・・・」

こちらの会話を聞いているのかいないのか、くつろいだ様子でソファーに座り、リモコンを操作してテレビのチャンネルを変えながらピザを頬張っているC.C.に目を向けた。
僕の判断は信用できないが、彼女の判断は信用できるというのだろうか?

「ああ、L.L.。ガウェインの整備に戻るなら、ロイドにフロートユニット作動時左のモニターにノイズが走ると伝えてくれ」
「お前は行かないのか?」
「慣れない作業で疲れた。それに、ゼロとは少し友好関係を深めた方がよさそうだ」

好きにしろ、そう言い残してL.L.は部屋を後にした。残ったのはゼロの仮面を脱いだスザクと、テレビに視線を向けたままのC.C.。

「L.L.が言ったように、私に話せば大抵の事は問題ない。お前と違い、L.L.の考えはよく理解しているからな。だから私の判断に関してはL.L.は何も言わない」

その自信に満ちた言葉に、スザクは不機嫌そうに眉根を寄せた。C.C.はテレビから視線を外していないと言うのに、スザクの表情が解るのか、クスリと笑った。

「何がおかしい」
「男の嫉妬は醜いぞ、枢木。なぜL.L.が今回このような事を言ったか、少しは考えたか?」
「そんなの解りきっている。L.L.に相談せずに僕が勝手に動いたからだろ」
「そうだな。ではなぜL.L.はその程度の事で、お前を切るような発言をしたか解るか?」
「その程度って・・・ブレインである彼の判断を無視した行動だからだろ?」
「その程度さ。この程度のイレギュラー、L.L.なら何でもない事だ。いくらでも修正が効くし、今は心が読めるマオもいる。何も問題にはならないさ。それなのになぜあれだけキツイ発言をしたか解るか?」
「それってつまり、何時も通り流せる程度の事だったと?」

C.C.は何故か助け船を出してくれる事がある。
その時は、彼女の話を真剣に聞くべきだと僕はこの短い間に学んでいた。C.C.の傍のソファーに座り、姿勢を正して彼女を見据えるが、相変わらず視線はテレビに向いたままだ。彼女が選ぶチャンネルは全てニュースで、もしかしたら何か気になる事でもあるのかもしれない。僕は彼女の態度は気にせず、会話にだけ集中することにした。

「あれはL.L.だぞ。あのメンバーが揃った時点で、お前が何を言うかぐらい気づいていた。もし本当に問題があれば、お前が発言する前に、話があると耳打ちしてその場から離れただろうさ。だが、あいつは今回こういう手を打った。それは何故だ?」
「僕に勝手な言動をさせないためだ」

そう言い切ったスザクに、やっぱりそう解釈したかとC.C.は深く息を吐いた。

「外れだ。ブレインはL.L.でもトップはお前だ。お前の思考を押さえつけるつもりなど無いし、お前が望む道を塞ぐつもりも無い。あいつにも、私にもな。だから、お前がそう望んだのであれば、それがより良い明日となるよう全力を尽くすだけだ」
「じゃあ、何で?」
「解らないか?」
「解らないよ」

心底意味が解らないという顔で僕がそう答えると、C.C.はリモコンでテレビのスイッチを消し、ようやくこちらを見た。

「まったく、お前の場合はハッキリと言葉にしないと理解できないというのに、L.L.は何でも自分で考えさせようとするからこうなるんだ。・・・予定外の行動を取られると、どんな思いがするかは嫌なほどわかっただろうから、それは割合するぞ?」

そう言うC.C.に僕は頷いた。
居るはずのL.L.とC.C.の姿が見えず、あるはずのガウェインが格納庫から消えていて、全てを聞いていたのだろうマオが「2人とも作戦で出たけど、聞いてなかったの?」と、何事も無いかのように言って来た時は血の気が引いた。ガウェイン専用のトレーラーも無く、ナオトが万が一作戦を失敗した時にサポートするため、昨夜のうちに出ていると聞いた時には、どうして相談してくれなかったんだ、僕は共犯者で、この黒の騎士団のトップなのにと、不安と怒りで、ランスロットクラブとガウェインが無事に戻るまで始終いらいらしていたのだから、勝手な行動がどれだけ相手を不快にさせるかは、C.C.の言うように嫌なぐらい理解できた。

「いいか、お前のサポートは今L.L.がしているが、戦況によってはL.L.も私もお前の傍を離れる時が来る。それも1日2日という短期間ではなく、1ヶ月2ヶ月と長期にわたってだ。そうなればお前の傍に居るのはナオトや泉、藤堂といったカグヤを守る仲間だ。その仲間に、この前と同じ事をしてみろ。お前の信頼は一気に落ちるぞ。お前の予定外の言動を周りがサポートしきれるとでも?私とL.L.なら可能だが、あいつらには無理だと思え」
「L.L.が僕の傍を?」

聞き流せない言葉に、思わず眉を寄せた。

「場合によっては手分けをする事もあるだろうし、私と違いL.L.は死からの回復に時間がかかる。そんなときに、お前一人の考えだけで、これだけの大組織動かせるのか?無理だろう?」

その言葉に、僕は何も言えなかった。実際にL.L.が蘇生のため何日も眠り続けている姿を2度も目の当たりにしているのだから、同じような状況がまた起きないとは限らない。その時に僕一人で黒の騎士団を動かすなんて、考えた事もなかった。
前と今とは状況が違う。L.L.が動けない間騎士団の動きを止めると言う事はもう出来ないだろう。状況によっては彼なしで動く事は避けられない。

「だからこそ、余裕のある今からちゃんと、癖をつける事だ。信頼できる仲間に相談し、過程を考えて結論を出す癖をな。L.L.も言っていたが、全てそうしろと言う話ではないぞ?お前の場合は、まずL.L.に頼り切っている現状を変える努力をする事からだ。まずは私にも相談するようにし、それに慣れたら、ナオトや泉、藤堂を混ぜて本当の作戦会議をする。いままでの、結論が出てから行う形だけの作戦会議ではなく、一から彼らと作戦を組み立てると言う事だ。そうすることで、彼らもゼロの思考を理解し、独自の判断でサポートもできるようになるだろう。日本を取り戻した時、中核に居るべきは私とL.L.か?違うだろう?ナオトや泉、藤堂と言った日本人だ。日本を取り戻した時、彼らが胸を張って神楽耶の後ろに立てるようにするためにも、彼らが新たな日本の中核となるためにも、彼らと共に黒の騎士団の行動を決めなければならない。ゼロが表立って作戦に出る回数を減らしているならなおさらだ。つまり、今お前がやるべき事は、お前自身と、幹部たちの意識改革だな。」

C.C.はそこまで一気に言うと、ピザの横に置いていた炭酸飲料を手に取り、口を付けた。

「L.L.なしで騎士団を動かせと?」
「そうは言っていない。あれはお前のブレインだろう?L.L.も参加するが、まず今後の行動や、作戦のひな形をお前たちが作り、それをL.L.と私がより良い物となるよう提案をする形を取るのが理想だ。今は全てL.L.が決めているだろう?それでは日本を取り戻した後もL.L.が居なければ何もできないし、万が一L.L.に何かあれば崩壊する。忘れるな、私とL.L.は不老不死。その事が知られれば私たちは排除される。それ以前に姿の変わらない私たちは表立って動ける時間はそう長くはない。だからこそ、中心はあくまでお前だ枢木スザク。お前を中心に人を動かせ。彼らとの信頼関係を築き、役割分担をし、共に日本を取り戻す道を探ることだ」

私に言えるのはそれだけだと、空になった皿と、飲み終わった炭酸飲料の缶を手に持ち、C.C.はその部屋を後にした。

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