まだ見ぬ明日へ 第48話


黒の騎士団作戦会議室。
そこには眉根を寄せ、真剣な顔を突き合わせているスザク、ナオト、藤堂が居た。
会議用のテーブルをいくつもつなげ、今度の作戦地となる場所の地図、建物の図面、地下道など、何枚も図面が広げられていた。その上にはいくつものオセロと将棋の駒が置かれている。駒は団員と相手側をイメージしやすいようにと用意されたものだ。
それぞれの駒には付箋で、当日作戦に参加する人物の名前が書かれ、張られていた。別の色の付箋で、当日注意しなければいけないポイントなども書きだされている。
最初は地図を指差しながら話していたので、段々内容が整理できなくなった僕たちを見かねたC.C.が、頭でイメージするより解りやすいだろうと、色とりどりの付箋と、カラーペンを用意してくれたのだ。

「いや、そこを進めるのであれば、俺はこの、こちらの通路を使い、この駒をこちらに」

直人はそう言いながら、水色の付箋に青ペンで書いた指示を貼る。

「ふむ、ならばこちらはこう進めて」

藤堂もまた水色の付箋に黒ペンで指示を書き、順路に沿って貼る。

「そこを進めるのであれば、こちらは不要ですよね。どう思うL.L.?」

スザクにそう尋ねられ、L.L.は彼らが作った作戦案を頭の中で整理した。
今後勝手な行動をするなら手を引くと話してからまだ3日。
この短期間で目覚ましい成長をするスザクに、驚かされてばかりいた。
男子三日会わざれば刮目して見よ、か。

「この作戦で進めるのであれば、ここは不要だ。必要人員は24人。悪くはない」

スザクに過程と結果をしっかりと考えさせ、仲間との連携と信頼関係を築かせる事は考えていたが、それには時間がかかると見ていた。ふと、C.C.と目が合い、彼女が不敵そうに口角を上げた事で、C.C.が何かをした事だけは解った。
何をしたかは解らないが、まあ問題はないだろう。それに成長は早い方が良い。

「悪くはないという事は、もっといい手があるんだね?」

そうスザクが訪ねてくるので、俺は頷いた。

「俺ならその通路は使わない。使うのはここだ」
「そこは、通風孔か?」

ナオトが、他の地図と見比べながら、俺の指差した場所が何かをすぐに調べ出した。俺が示してから気付くまで10秒かからないか。全ての資料に目を通し、現場を把握しているという事だ。
すぐにナオトはその場所に今まで使っていない色の付箋を張り、通風孔と書きだした。

「通風孔か、サイズはどのぐらいだ?繋がっているのはどこだ?」

別の地図も広げながら、藤堂とスザク、ナオトはさらに話し合いを続けた。
そうだ、考えろ。
作戦を行うために必要なルート、人材、道具、資金、考えるべき事は沢山ある。
今までは全て俺が準備をしていたが、その結末を導くためにどれだけの思考を巡らせる必要があるのか、ナオトはかつてリーダーとしての、藤堂は軍人としての経験があるのである程度解っているが、それでもまだまだ甘い。いや固い、か。だが、悪くはない。三人に足りないのは柔軟な思考と経験だ。

「ここは此方とつながっているな」
「では、こちらから・・・」
「なるほど、だったら」

スザク達は地図の上にいくつかの駒を再配置し、この作戦に誰を出し、どう進めるべきかを何度も話し合った。どんな作戦でも味方の命がかかっている。
絶対に安全な策など無い。
だがより精度の高い作戦を考えるのが役目。
今までL.L.に任せきりだったから解らなかったが、物凄いプレッシャーだった。

「一度休憩しろ。そんなに根をつめては良い案も出ないぞ」

その言葉に声の主の方へ視線を向けると、香り高いコーヒーと、恐らくL.L.の手作りだろうクッキーが乗ったお皿を別のテーブルに用意していた。

「会議を初めてすでに4時間。今回の作戦は決行までまだ時間はある。休憩も取りながら考えろ」

お前たち、すごい顔をしているぞ。
不意打ちのような穏やかな彼の笑顔に、思わず見入ってしまった。
が、すぐに立ち直ると同じく息を呑んでいた2人に声をかけ、休憩に入ることにした。
席に座り、温かいコーヒーを一口飲み、ホッと一息つく。
藤堂とナオトも、コーヒーを飲んだからか、彼の笑顔の効果かは解らないが厳しかった表情が和らいでいた。クッキーを食べながらコーヒーを啜り、僕は置いたままにしている地図をここから眺めて、嘆息する。

「難しいなやっぱり」
「だが、通風孔を使うなら人員は19人ですむ上に、成功率は格段に上がる」

藤堂は、スザクにそう言うが、スザクの眉間の皺はますます深くなった。

「確かに成功率は上がります。でも、全員無事に戻る保証はできない」
「馬鹿かお前は。どんな作戦でもノーリスクなんてあり得ないだろう。必ず何かしらリスクはある物だ。怪我人が出るかもしれない、死人が出るかもしれない。当り前だ、私たちはレジスタンスだぞ?最終的には革命戦争を行うのだろう?死者が出るのは当然。だが、無駄死にはさせるな。出来るだけ被害を最小限に抑えられるよう考えろ。結末はすでに描いているのだから、そこに至る過程には何が必要かいろいろ案を出せばいい。ここにはL.L.が居るのだから、そう不安になる必要はないさ」

C.Cは呆れたようにそう言いながら、砂糖とミルクをたっぷり入れたコーヒーを啜った。
L.L.は地図の方へ歩み寄ると、張り付けられたいくつもの付箋に目を通し、頷いた。

「まだこの話しが出て6時間しかたっていない。ディートハルトを最大限活用し、これだけの図面をそろえるのに2時間。作戦を考え始めて4時間。そう焦るな、時間はある」

そう言いながら、休憩中の4人の元へ戻ったL.L.は、全員のカップが空になっている事に気が付き、お茶を入れよう。と、急須と湯呑を用意し、美味しい煎茶を入れ始めた。

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