まだ見ぬ明日へ 第51話


「すまないL.L.、急に呼び出してしまって」

ナオトから今アジトに来れないかと連絡があり、時間を見ると10:20。スザクは授業中で動けないので、代わりにL.L.が召集に応じた。途中でC.C.、マオと合流したL.L.は、黒の騎士団アジトで普段ゼロが使う会議室へと足を踏み入れると、待っていたナオトが頭を下げ、呼びだした事を謝って来た。
疲労のせいか顔色が悪く見えた。

「気にするな、ゼロは今動けないからな。それで、どこだ?」
「第三会議室だ」

すぐに行く必要はないだろう。
L.L.は行く前に少しナオトと話をしようと、まずは一息入れるためのお茶の用意をする事にした。昨日作ったクッキーも持ってきたので、ナオトには酸味のあるコーヒー、自分に紅茶を用意する。C.C.はその横でマオと自分の分のカフェオレの用意を始めていた。その様子に、ナオトは「すまないな」と、会議室の椅子に座り、先ほどより幾分か落ち着いた顔で息を吐いた。

「マオ、様子はどうだ?」

L.L.がそう声を掛けると、ギアス制御装置をOFFにして第三会議室を伺っていたマオは眉根を寄せて、あからさまに不機嫌そうな顔を向けてきた。

「第三会議室に居るのは扇と玉城と南の3人。自分たちは黒の騎士団の代表だって顔で待ってるよ」
「で、ゼロか俺をと言ってきた理由は解るか?」

マオは人の心を読む事が出来る。今はこうしてL.L.の相棒であるというC.C.と共に動き、C.C.が自分が監視している限り大丈夫と言うから安心していられるが、もし敵にいたらと考えると恐ろしい。
どんな作戦も筒抜けになってしまうし、人には言えないような秘密も全て覗き見られてしまうのだ。
とはいえ、落ち着いたマオは人の心を読む事を嫌悪し、出来るだけ制御装置をONにしているため、むやみやたらと人の心を覗き見る趣味が無かった事が救いだった。
今もある程度読んだ後はさっさと機械をONにし、ホッと息を吐いていた。

「この前の作戦、怪我人も出ずに完璧に終わったよね?なんか参加した奴から、もう少しで怪我をするところだったって話を聞いたみたいでさ、その事に対する文句だよ。危ない事をさせるのは、自分たちを駒として考えているからだってさ」

怪我って言っても、慌てて足を滑らせて階段から落ちかけたっていうそいつのミスの話みたいだね。あんな自分勝手な奴の心読みたくないよ。と、不機嫌そうなマオに、C.C.は甘いカフェオレを入れて「ありがとう、マオ」と、他の者には見せないような笑顔で笑いかけた。
マオはぱあっと嬉しそうに笑い「有難うC.C.!」と、機嫌よくカップを受け取ると、美味しそうにカップを傾けた。
ナオトの前にはL.L.の入れたコーヒーが置かれた。ナオト好みにいれられた美味しいコーヒーを一口飲み、クッキーに手を伸ばした。

「抗議される理由が解らない私がおかしいのか?作戦を練る時に兵を駒として考えるのは当たり前の事だし、あの作戦をどれだけ悩んで作り上げたか少しは考えているのか?あのもじゃ頭は」

しかもあの規模の作戦で全員無傷。まさに奇跡的な勝利だぞ?
C.C.は呆れたように言うと、自分用に入れたカフェオレを煽った。
たまたまではあるが、今回作戦はL.L.ではなく、ゼロ・ナオト・泉・藤堂といった幹部が散々頭を悩ませて作ったのだ。まあ、その事は誰にも話していないから、何時も通りL.L.とゼロの作戦だと勘違いしているようだが。
悩んだ一人であるナオトには不愉快な発言だろう。
藤堂と泉もスザクも、聞いたらきっと不愉快になるに違いない。

「団員が怪我ひとつしないような作戦を立てろと?まさにゲームだな。しかも強者が弱者を甚振る一方的な殺戮ゲームだ」

ノーリスク・ハイリターン。理想ではあるが、流石の俺でもそんな作戦思いつかないな。
L.L.は香り高い紅茶を一口飲むと、呆れたと言わんばかりに鼻で笑い、ナオトは眉根を寄せ、こめかみを押さえながら疲れたように嘆息し、残っていたコーヒーを一気に煽った。

「何を考えているんだあいつら。俺たちはレジスタンス・・・ブリタニアから見ればテロリストだ。シンジュク事変で多くの日本人が殺された原因を作ったのも俺たちだってこと、忘れたのか?相手を傷つけ、殺しても、味方は無傷なんて・・ホントにゲームだな」
「現実ではありえない話だ。そんな奇跡のような作戦、ぜひ考えてもらいたいものだ」
「なら考えてもらえばいい。次の作戦、是非会議に参加してもらおうじゃないか」

C.C.は不敵に笑いながら、あっさりと解決策を提示した。

「たしか、リフレインの新しい工場が見つかったんだろう?作戦決行は土曜日の夜、情報によればその日取引業者がそこに来ると言ってたか。今日が水曜だから作戦立案に3日猶予がある。ローリスク・ハイリターンの作戦を練る事がどれだけ大変か、経験してもらうのは悪くないだろう?」
「確かにな。だが、俺は扇達を信用していない。重要な情報も簡単に口にしすぎる」
「それを踏まえたうえで、お前はお前で策を練ればいいだろう?ゼロを含めた幹部の策と、お前の保険の策。二重の策でかかればどうにかなるさ」

難しい話ではないだろう?と、C.C.は不敵な笑みを浮かべた。

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