まだ見ぬ明日へ 第52話 |
ディートハルトも交え、旧紅月グループの者と、ナオト、藤堂、四聖剣、泉、そしてC.C.とマオが次の作戦のための会議を行っていた。 目的はリフレイン工場の破壊と、製造されたリフレイン全ての廃棄。そしてその取引を行っている者たちに裁きを与える事。相変わらずディートハルトは優秀で、たった4時間ほどで詳細な図面や、ある程度の情報を手に入れてくれた。 その図面を拡大コピーしたものが会議室の机に広げられ、前回同様C.C.が用意した付箋やペンもケースに入れられて置かれていた。 まずはどう進めるべきかを話し始めた途端、ナオトを除く旧紅月グループと他の者とで口論が起きたため、会議机は二つに分け、地図も二つ用意する事にした。机の一つは、扇達旧紅月グループが占拠し、ナオトは彼らの様子を口を出さずにじっと見ていた。もう一つの机では、藤堂たちが、ディートハルトからさらに詳しい情報を聞き出そうと話をし、得た内容を前回同様付箋に書き出し、張り付けて行った。勿論将棋やオセロの駒も配置している。 そんな中、たった1時間ほどで作戦を練り、完璧だと玉城が自信満々に言ってきたので、どんな内容だと皆が集まり、扇を中心に説明がなされる事となったが、その作戦概要を聞いたC.C.は、馬鹿にしたように鼻で笑った。 「話にならんな。そのやり方では、一体何人必要なんだ?そこまでの移動方法は?さすがに徒歩ではないだろう?騎士団が所有している車両には限りがあるんだぞ、どうするつもりなんだお前たちは?そもそも、真正面から行くという事は、間違いなく銃撃戦になるな。どれだけ死傷者が出るか、考えたくもない。しかもその分厚い壁を壊すのはまさか人力ではないだろうな?爆薬か?KMFか?KMFを出すなら、さらに運搬方法も考えなければな。それに、見張りの事は考えてないのか?これだけ大きな音を出すならすぐに警察が来る。脱出経路はどうするんだ?ああ、私は頭が悪くて、一度聞いたぐらいでは覚えられないんだ。どこかに書いてくれないか?」 細かい内容は一切考えられていない作戦。 地図にはメモらしきものは一つも書かれておらず、ノートも真っ白。 自分たちの頭の中に作戦はあると自信満々に話をしていたが、L.L.のような頭があるならともかく、こいつらの頭でそれは無理だ。 C.C.はにやにやと馬鹿にするように笑いながら、次々穴を指摘して言った。 その指摘に、彼らは碌に返答は出来ず、C.C.の言い方にただ腹を立てているだけだった。その様子を黙って見ていたナオトは、皆よく聞いてくれ、と言いながら、彼らがC.C.に指摘され、汚い字で何やらたくさん書き込んだその地図を指差した。 「ハッキリ言ってこれは愚策だ。いや、策にすらなっていない。ただ、目的地に数で押し込むことしか考えていないだろう。何人が作戦に携わり、何処に誰を配置するかも曖昧だし、どう動くかも考えられていない。C.C.が言ったように、そこに行くためのルートも、脱出のためのルートも考えられていない。これをそのまま実行するなら、何十人と言う団員が必要で、それだけの人員を動かす車両も用意しなければならない。そして、間違いなく死傷者が出る」 「そ、そんな事無いだろ?」 「なら、俺の質問に答えてくれ。まずは、この作戦には何人必要なんだ?」 ナオトが、しどろもどろになりながら答えた扇にそう言うと、携帯サイズのオセロの駒が入った箱をテーブルに置いた。その様子に扇たちは不愉快そうな顔をしたが、ナオトが聞いてきたのだからと、何人必要か指を折りながら考え始めた。 「そうだな、30人・・・いや、35人欲しい」 「35だな」 ナオトはそう言いながら、オセロを25枚黒い面を上にし、会議用の机の空いているスペースに並べた。 「で、その35人はどう動くんだ?」 話にもならないその策に、ナオトは真剣に向き合い、一つ一つ彼らの考えを聞きだしていく。その様子を、他の面々も真剣な顔で見つめていた。 馬鹿馬鹿しいと、C.C.はマオを連れてすでに部屋を出ており、今日はまともな会議は出来ないなと、藤堂と泉は嘆息した。そんな様子を見ていた四聖剣とディートハルトも、今まで散々ゼロとL.L.を否定していた旧扇グループに現状を理解させるだけで終わるかもしれないなと、冷静に分析していた。 最初はL.L.とゼロがこの会議に参加し、作戦を幹部に伝えて終わるのかと考えていた彼らだが、2人はこの場に居ない上に、藤堂たちは地図を広げ、今回の作戦目的を説明し始め、旧紅月グループとは別の地図が広げられた場所で、どう作戦を進めるべきか意見も求められた。 今日はゼロもL.L.も会議には来れないが、どのように作戦を進めるか大まかな内容を考えておきたいのだと説明され、ゼロとL.L.がその内容に問題があると考えれば一から練り直し、そのまま進めるとなれば、彼らも交えてさらに内容を詰めるのだと説明された。今回は、旧紅月グループの問題があるため、ディートハルト、四聖剣、旧紅月グループも呼ばれたが、今後はまた幹部だけの会議になるかもしれないし、今のメンバーを集めるかもしれない。それは未定だとも伝えられた。 つまりここでちゃんと会議に参加し、何らかの功績を残せば、今後も作戦会議に参加でき、反対に扇たちのように考えなしの発言をしていれば参加を拒否されると言う事。 今後も是非参加したいディートハルトと四聖剣としては、扇たちの言動は、今後の自分たちが取るべき行動の反面教師として役立てる事が出来るため、たとえ馬鹿げた内容でも真剣に聞く必要があると判断し、口を挟むことなくじっと話に聞き入っていた。 その彼らの態度は、扇たちから見れば「これは素晴らしい作戦だ」と感心しているように見えたらしく、気を取り直した扇たちは、ナオトの質問に次々答えていった。ハッキリ言ってその場の思いつきでの回答で、話にならないと言うのが、その場に居た物全員の感想だった。 「だが要、そうなるとおかしなことにならないか?動くのは35人なんだろう?もう全員配置を終えたぞ?」 ナオトのその言葉に、扇たちは、え?と驚き、地図を見直した。ナオトが用意した黒のオセロはすでに全て配置し終えたが、この作戦を完遂するのであれば、この倍は必要になってしまう。扇、玉城、南達は再び一から、ここはこうして、これは・・・と、考え始めた。そんな場に、C.C.が何やら紙袋を持ったマオと共に会議室へと戻って来た。 全員が扇たちの図面の前に集まり、扇たちがいろいろ話をしながら作戦っぽい何かを話をしているのを見、C.C.は呆れたように嘆息し、その地図へ再び目を向けた。ナオトが一つ一つ説明をさせた事で、新たにいくつもの付箋が貼られ、その場に居なかったC.C.でも、ある程度内容を把握できるようになっていたため、しばらくその文字を追った後、C.C.は何だこれは、と再び嘆息した。 「これを本気でやるなら35人どころか60人でも足りないぞ。しかも机上の空論ばかりで、実際に可能な内容が一つもないじゃないか。しかも何だこの、第4地点の見張り2人は、3人の団員が背後から奇襲を掛け無力化させるっていうのは。見張りと言う事は周囲を警戒している人間だぞ?その背後を取る?そんな芸当出来るのはゼロぐらいだろう。気をそらす役も居ない、その方法すらない。見張りが常に一つの方向を見ているわけもない。どうやって背後を取るのか是非実見せて欲しい物だ」 そのC.C.の言葉に、周りで見て居た物は全く持って同意と言う顔で頷いた。 ようやく扇たちは、自分の策が認められていたわけではない事に気が付き、顔を青ざめさせたが、玉城はそれすら気づいていないようで、C.C.に食って掛かった。 「へっ、ちょっとはその頭使ったらどうだ?いいか、見張りがちょっと他の方を見たすきにサッと襲いかかるんだよ。あっちは2人でこっちは3人だ。万が一ばれても負けるわけないだろ」 「頭を使うのはお前だ、このど阿呆。やれるものならやってみろ。見張り役は朝比奈と卜部で良いだろう。そっちは扇、玉城、南でいいか?」 「ふざけんなよ!軍人相手に俺たちが勝てるかよ!」 「何を言ってるんだ?銃を持っている見張りが、何も訓練を受けていない人間だとでも?ちょっと襲いかかれば、怖気づくような相手だとでも?反撃してくるに決まってるだろ?撃ってくるぞ相手は。ナイフも使うぞ?どう対処するんだ?やり方を間違えればこの団員3人は死ぬぞ?」 C.C.のその指摘に、玉城は解った!という顔で自信満々に答えた。 「そこに配置する奴はちゃんと訓練を積んだ軍人をいかせりゃいいんだよ。四聖剣とか、旧解放戦線とかうちにはいっぱいいるじゃん」 その言葉に、流石の藤堂も眉をしかめ、四聖剣は怒りを顔に乗せた。 「なるほど、捨て駒にするわけか。もし失敗したらそいつがミスをしたんだ、俺たちの作戦は完璧だったと言うつもりか?素晴らしい作戦だな。素晴らしい作戦だから、ぜひともお前たちだけでやってくれ。他の団員は巻き込むな。私は藤堂を含む旧日本軍も全員計算に入れたうえで、そんな芸当出来るのはゼロだけだと言ったんだ。あくまでも、その方法が可能だと言うのであれば、それが出来る3人をちゃんと選んでくれ。軍人にだって得手不得手はある。しっかり各自の能力を把握したうえで指名しろよ。ああ、解っているとは思うが、間違ってもゼロを配置するな。あれは指揮官だし、そもそも今回の作戦には参加しない」 C.C.はそう冷たく言った後、固まっている旧紅月グループから視線を外し、他の面々に視線を向けた。 「L.L.からの差し入れを持って来たから、休憩したらどうだ?今日は豆大福だ」 美味いぞ?と、自慢げに微笑みながら、お茶を用意しているマオの元へ足を向けた。 |