まだ見ぬ明日へ 第53話


日本茶を飲み豆大福を食べた後、これ以上扇たちに構うのは時間の無駄だと言うC.C.の意見に幹部は賛同し、今度はナオト、泉、藤堂を中心とした作戦会議が始まった。
扇たちはとりあえず口を出さず、周りの人たちの話をよく聞き、よく考えるようナオトに釘を刺されたため、不満そうな顔で、皆が意見を言う様子を黙って聞いていた。
話を聞くだけでもいい経験になるのだが、この様子では馬の耳に念仏だろうなとC.C.は思っていた。
そんなC.C.は少し離れた席でマオと共に地図を見ていた。
明日の朝マオと偵察に行くため、どこを重点的に調べるか考えているのだ。
作戦の成功率を上げるため、手に入れられる情報は全て手に入れる。
万が一C.C.がマオから離れる時が来ても、C.C.から直々に情報収集のノウハウを学んだマオは黒の騎士団でその地位を確固たるものとするだろう。
マオの瞳は時折狂気を滲ませるが、以前には無かった知的な光が宿っており、冷静な判断と、ギアスに頼ることなく周りの状況を分析する能力を身につけ始めていた。
そこにギアスが加わるのだ。
この手の事でマオの右に出る者など居なくなるだろう。
心を壊し、幼い子供の心のまま体だけが大きく成長してしまった愚息であり、愚弟であった男。その子供が成長をしていく姿に、C.C.は知らず笑みを浮かべた。

「C.C.、今いいか?」

ナオトが手を上げながら声を掛けてきたので、C.C.とマオは会話を中断させると席を立ち、彼らが考えた作戦の説明を受けた。



放課後、緊急通信の連絡がペン型端末に残っていたので、スザクは急ぎ部屋へ戻るとL.L.を起こした。パソコンを開くと、C.C.からリフレイン工場に関する地図などのデータが送信され、それらの資料を印刷し、ダイニングテーブルに広げた。
テーブルの端に通信端末を置き、スザク、L.L.、カグヤ、咲世子は作戦内容を聞いていた。黒の騎士団の活動をカグヤは知りたいと常々言っており、普段は概要を話すだけに留めていたのだが、こうして通信で会議に参加する事が可能となり、カグヤと咲世子も参加出来るようになったのだ。
とはいっても、彼女たちがこちら側で聞いている事は相手には言っていない。
そのため、基本的に会議中は咲世子とカグヤは発言はしない。
今はスザクが、ナオト達にいくつか質問をして居るのを黙って聞いている所だった。

「なるほど、ここから進むか」

工業地帯に隠されるようにあるリフレイン工場。
黒の騎士団はリフレイン工場を発見次第強襲し、そこにある全ての薬を廃棄し、関係者に裁きを与えていたため、当然だが警戒は厳重になっていた。
見張りが多く、しかも一部の警察も関わっているため、何度もこなした工場襲撃でも回を追うごとに難易度は跳ね上がっていた。
結成当時は正面突破もしたが、今は無理だ。
今回提案された策は、この工業地帯の地下を通るかつての地下道を利用した奇襲作戦だった。

「L.L.、意見を聞かせてくれないか」

そうゼロとして質問をしてきたので、L.L.はしばらく思案した後答えた。

「地下を通る案は悪くないが、地下の出入口はどうなっているんだ?」

悪くないという事は、他に手はあるのだろう。
だがスザクはその事に今回は言及しなかった。

『それなら私とマオで今日調べてきた。転送するから確認をしてくれ』

地図に、C.C.の字で色々な書き込みがされた物が送信されてきた。
先ほどから情報を集めていたL.L.は一度作業の手を止め、送られたその地図を印刷するとスザクに渡した。
使用可能か不可能か。
見張りの人数、交代時間など細かく記されている。
マオの心を読むギアスを使い得た情報なのだろうが、こちらが知りたいと思う内容をきっちり抑えているのだから、C.C.の能力もかなりの物だと言う事がよく解った。
今説明されている策も、恐らくC.C.の修正が加えられた後の物なのだろう。
本当に味方でよかった。
スザクは心底そう思っていた。

『ナイトポリス対策に無頼を一騎持って行く。そして』

ナオトが次々説明していく内容を、咲世子はてきぱきと付箋に書き込み、地図に張り付けて行った。こうやってこちらにゼロとL.L.が居る状況で幾度か連絡を取り、作戦を詰める形を今回は試験的に取る事となったのだ。
今日の会議が終わった後、部屋に戻ったL.L.は、渡された資料などを自分なりに纏めながら、疲れた顔で椅子に座っていたスザクに声を掛けた。

「スザク。杞憂であればいいが、この作戦が相手側に漏れている事も考えて、秘密裏に俺が別の部隊を動かすが、問題はあるか?」

情報漏れ。
誰からなんて聞かなくても解る。
L.L.からのその申し出に、「勿論構わないよ」と答えた。

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