まだ見ぬ明日へ 第54話


「予想通りの結果になったね」

泉からの報告を聞いて、僕は思わず頭を抱えた。
今回のリフレイン工場の作戦には、ゼロもL.L.も参加せず、代わりにC.C.とマオがサポート役として全面協力していた。通信でゼロとL.L.も作戦会議には参加し、細かな打ち合わせを行い、前回と同じくL.L.とC.C.が最終的に手を加え完成するという方法を取ったその作戦は見事としか言えず、ナオトを指揮官とし、旧紅月グループを中心に作戦を進めていた。だが、L.L.とC.C.が危惧していた通り、今回の作戦内容が漏れ、ブリタニア軍が罠を張っていたのだ。
地下からナオト達が侵入し、工場に着くと同時に全ての地下出口が封鎖され、工場内で待ち構えていたブリタニア軍に、銃口を向けられた。サザーランドやグロースターも配備されたその状況に、逃げる事も闘う事も出来ず、ナオト達は言われるがまま投降するしかなかった。
ナオト達をブリタニア軍が拘束したその瞬間、工場内の全ての電気が落ち、藤堂率いる別働隊が奇襲をかけ、無事ナオト達を救出。撤退することに成功した。
情報漏れのため、リフレインは既に工場内にはなく、取引自体が行われなかったのだが、L.L.は移動されたリフレインの場所も探り当て、全て廃棄することに成功していた。
この作戦は幹部のみが知るもので、指揮は以前スザクにしていたように、藤堂の衣服に通信機と小型カメラを取り付け、クラブハウスからL.L.が行っていた。
神がかり的なその救出劇は、L.L.の作戦指揮能力の高さ改めて知らしめる事となる。
ちなみに、スザクはクラブハウスに居たため、通信機と小型カメラから得られる僅かな情報で指揮を執るL.L.を見て「こんなの真似できないよ」と、呟いていた。

「誰から情報が漏れたかは、言うまでもないな」

C.C.とマオ突き止めていると思うが。
紅茶のカップを傾けながら、L.L.は呆れたように呟いた。

『ああ作戦の後始末が終わったら、扇たちを呼び出して話を聞くつもりだ』

泉は怒りを滲ませた声でそういった。
作戦が終わり、黒の騎士団のアジトに無事引き揚げてきたナオトと藤堂たちは、作戦の後始末に追われていたため、泉が代理で報告を上げていたのだ。
死者は無し。けが人はブリタニア軍から受けた打撲程度。
ただし無頼と、銃火器は回収できなかった。
あの状況で、その程度の被害に押さえたのだから、今回の作戦は大成功と言ってもいいだろう。
その為、今話題になっているのは、件の問題児の事だった。

「困ったね。話をして彼らは納得するのかな?」
「難しいだろうな。ディートハルトと四聖剣は今後の会議に参加させても問題はないが、扇たちは論外だ」
「口が軽すぎるよね。守秘義務って言う言葉、解らないのかな?」
「仮にも扇は教師を目指していたと聞いたんだがな」
『あ、すまない、一度通信を切る。誰か来たみたいだ』

慌てたような泉の声と共に、通信が切断された。

「・・・何かあったのかな?」
「どうだろうな。まあ、何かあればあちらにはC.C.が居る」
「では、ひとまず休憩といたしましょう。今お飲物を用意いたします」

咲世子は席を立ち、キッチンへ移動した。

「ああ、咲世子。きんつばを作ってあるから、日本茶にしてくれないか?」

そう言いながらL.L.も席を立ち、キッチンへ向かった。

「きんつば・・・戦争前に食べたきりだね」

懐かしいなと、思わず笑みが溢れる。

「ええ、あの頃は、桐原がお土産に持って来るきんつばを、いつも枢木のお兄様と奪い合って食べてましたわね」

カグヤもまた先程までの渋い顔を消し、にこにこと笑みを浮かべた。

「そして何時も僕が負けるんだよね」
「当然ですわ」

黒の騎士団への差し入れにも持って行くため、最近のおやつは和菓子だった。
そのため、スザクとカグヤ、咲世子は、L.L.がおやつを出してくるのをいつも以上に楽しみにしていた。特にあんこの入った物は市販では殆ど手に入らないため、7年ぶりに口にする物ばかりだ。
咲世子もあんこを作れるのだが、作るのは主にどら焼きと羊羹。
戦後日本の本は殆ど焼かれたため、料理の本など手に入らないのだから仕方がない。イレブンは携帯を持てないのと同じように、パソコンも持てないため、ネットで検索しても外国の食の研究家が乗せない限り、和食は出てこないのだ。
それに咲世子は元々SPだから、料理は戦前殆ど作った事はなかったため、記憶を頼りに作れる日本食は限られていた。

「それにしても、大事な作戦を口外するとは、あまりにも無責任すぎますわ」
「そうだね。何時も何時も行動が軽率すぎる。L.L.が居なければ、全員掴まっていた所だよ。拷問で情報を吐かせた後、公開処刑されてもおかしくはない」

何せ知名度の高い黒の騎士団なのだ。そしてそのNo2である紅月ナオトも含まれている。悲惨な目に会う事は間違いがなかった。

「ただでさえ口の軽い連中だから、知っている情報を全部吐き出して命乞いしそうだよ」
「全部ゼロの指示で、自分たちは悪くない、とでも言いそうですわ」

騙されたんだ、とかも言いそうだ。

「随分前L.L.が言ってた。兵士には駒に徹する意思を教え込まないと、作戦を無視したり勝手な行動したりして、作戦を駄目にするって。まさに今それをやられているわけなんだね?」

キッチンから戻って来たL.L.にスザクはそう言うと、その通りだとL.L.は頷いた。

「旧解放戦線の者は別としても、他の者たちにも兵士としての意識は芽生え始めている。が、扇たちは未だテロリストのままだ。訓練も遊び感覚、作戦内容もナオトが指揮官の時は問題ないが、泉が指揮を執る場合、大まかにだけ覚えて、自分たちに都合のいいように動こうとする事も多々あった。そう、今はまだナオトの命令は素直に聞くからどうにかなっているが、もしナオトの制御すら受け付けなくなった時が問題だ」

泉よりも自分たちのほうが立場は上なのだと思っている節がある。
確かにゼロと組んだのは扇達が先ではあるが、それとこれとはまた別問題なのに。

「考えたくもないけど、考えなきゃだめなんだよね」
「どうしたらいいんでしょう?」

渋めの緑茶ときんつばを食べながら、考えてみるが何も思い浮かばない。
恐らく全て予想をし、その対策も考え済みのL.L.は口を出さず、スザクとカグヤ、咲世子に考えさせる事にしたらしい。会話には加わらず、パソコンを起動させると、キーボードを恐ろしい早さで打ち込み始めた。

「下手をしたら黒の騎士団乗っ取りとかやりそう。扇たちって、下の構成員には何故か慕われている所あるからね」
「彼らが乗っ取りに成功したとして、ブリタニアと戦えるとは思えませんわ」

だよね。と、スザクは頷いた。
そもそもあの程度の輩に乗っ取られるほど、今の黒の騎士団は甘くはない。

「でも、今あるアジトはほぼ全部彼らに知られているから、黒の騎士団から抜ける選択をした場合、ブリタニア軍に通報すると思う。なにか褒賞をもらうためにね」

ありえますわね。と、カグヤは頷いた。

「その点はもう少し時間をくれ。団員も増えたからな、新たな拠点を用意している所だ。本拠地も移る」
「そうなると、扇たちには新しい場所は教えたくないよね」

となるとどうしたらいいかな。
再び通信が繋がるまで、扇たちへの対応を考える事となった。

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