まだ見ぬ明日へ 第55話


「となると、運搬にトラックがいるよね」
「その前に、何がいくつ必要か、サイズに合わせて数量を計算するのが先だ。でなければ運搬に何台必要かわからないだろう」

そう言いながら、L.L.はパソコンで何やら資料を呼び出し、必要な数量を計算しだした。
本来ならこれらもL.L.がすべき事ではないのだが、今はもう時間がない。
そこまで考えた時、スザクはハッと大切な事に気が付いた。

「って、会長!どうして急に20mのピザなんて作ることにしたんですか!?それでなくてももう学園祭まで時間ないのに!」

ついつい、資料に目を通した途端、この作戦を完遂するためにはどうすればいいのかという思考へ一瞬で切り替わってしまったが、これは黒の騎士団の作戦ではなく、生徒会の学園祭の企画だ。しかも開催までもう一カ月を切っている。これは文句を言ってもいいはずだと、スザクは抗議するため、今渡されたばかりの企画書を思わず握りつぶしながら、立ち上がった。
そう、ここはアジトではなく生徒会室。今ここに居るのは生徒会のメンバーだ。
隣に座るL.L.は何を言っても無駄だと言う顔で、パソコンを操作し、他の生徒会メンバーはいまだ企画書を睨みつけ、内容の確認をしたり、放心したりしていた。

「だって、去年は20cmだったじゃない。なら今回は20m!!テレビ局も入れて、世界記録狙うのよ!」
「テレビ!?本気ですか!?」

ようやく立ち直ったシャーリーは、テレビと言う言葉に反応し、ミレイを見た。
その言葉にはスザクも目を見開いて驚いた。スザク、カグヤ、咲世子、そしてL.L.はテレビになど絶対に姿をさらせない。L.L.の事は知らなくても、スザクたちの事はミレイもよく知っているはずなのに、報道陣を招き入れると言うのだ。
それでなくてもユーフェミアが学園に通っていて、報道陣は学園内の情報を手に入れたくてあの手この手でしかけてきているというのに。
学園祭に報道陣を招き入れると言う事は、あまりにも危険すぎた。

「もーっちろん!どうせやるならちゃんと記録しなきゃね!」

その危険も全てわかった上でそう言っているのだろう。
普通の生徒であれば、報道陣なんてダメだと拒否する理由はない。
報道は入る。
それはすでに決定で覆らない。
となれば絶対に4人とも報道陣に見つからないよう行動するしか道はない。

「って会長、どーやって20mなんて生地作るんですか!?手じゃ無理ですよ?」

皆で麺棒とか使って伸ばすんですか?
リヴァルはミレイにそう尋ねた。

「うちにはガニメデがあるじゃない。大丈夫よ、やれるわ!」

楽しそうなミレイに、駄目だ、この決定も覆らないと、全員嫌でも悟ってしまった。
こうなったら、騎士団で培ったノウハウで乗り切ると、スザクは腹をくくった。
目指すべき結末は決まっている。
スザクたちは報道陣と関わらずに済む場所に陣りながらイベントを成功させる。
今L.L.が必要な材料を計算している。経費もそれで出せるはず。
この程度乗り切れないなら、日本を取り戻すなんて無理だ。スザクは気持ちを切り替えると、くしゃくしゃに握りつぶしてしまった資料を伸ばし、じっくりと内容を確認した。
よし、自分たちはテレビには映らずに済みそうだ。咲世子とカグヤはピザ作りには参加しないから、上手く立ちまわればどうにかなるか?

「ガニメデは会長が操作するんですね。何かあった時の代役は司会のリヴァル。なら、まず考えるのは20mピザに必要な材料、その数量と材料費、今から対応してくれる業者と運搬方法とそれらの入荷予定日。調理・保管する場所、それぞれの場所に必要な人数、所要時間、ピザだから焼き窯も必要ですよね。20mだから特注サイズ。自作するのでなければ、業者を探さないといけませんよね・・・あとは・・・えーと?」
「焼き窯を設置する場所、ガニメデでパフォーマンスを行うなら、それが可能な場所、どこからでも見えるように舞台を用意する必要があるだろう。焼く前そして焼いた後のピザが置ける台、来場者に食べてもらうのであればその用意も居る。何より必要な事は、事故が起きないよう安全面をしっかりと考える事だ」
「そうだね。火事になる恐れもあるから、消火剤なんかもいるね。配る時に列を作るだろうからその用意も必要だし、紙皿とかも用意しなきゃ。ああ、食中毒が起きたら大変だから衛生面も考えないといけないよね。生徒会だけではどう考えても人手不足だから、手を貸してくれる人を探さなきゃ」

スザクは生徒会室に置かれているノートを出すと、それらの要点を纏めて書き出した。書記であるリヴァルもノートを取り出し慌てて書き出す。

「天気が良ければいいが、雨になった場合どうするかだが」
「その時はさすがに諦めてもらうしかないよ。ガニメデでピザ生地を作るのは体育館でも可能だけど、焼き窯は室内には作れない」
「えー!だめよ!雨でもやるの」
「なら、雨の時はどうやってやるのかを考えてください。アイディアがない場合、雨天の場合は生徒会役員と、協力者全員で通常サイズで作成し、配布する。天候がどうであれ、材料は残さず使い切る方向で行きましょう」

ミレイの言葉をL.L.はあっさり返すと、食材を無駄にする事は許しませんと、雨天時の案を提示した。ミレイは「考えるわよ!絶対20m作るわよ!」と宣言した。
他のメンバーは眉尻を下げ、勘弁してくださいと言う顔でミレイを見つめるが、そんな視線で引くような人ではない。その事も解っているからこそ、余計眉尻が下がる。

「それにしても、ジュリちゃんは解るけど、どうしたのスザク君。そんなにポンポン思いつくなんて予想外よ?」
「だよな、スザクはどっちかっていうと運動は得意だけど勉強は駄目じゃなかったっけ?何時も赤点取ってたし」

そのリヴァルの発言にL.L.はキーボードを操作する手を止め、スザクを睨んだ

「・・・赤点、だと?」
「え、えーと、君に教えてもらうようになったから、前回は赤点は無かったよ」

ギリギリだったけど、とは口には出せないが。

「当然だ。俺が教えているのに落第点など取られてたまるか。スザク、部屋へ戻ったら今までの答案全部見せてもらうぞ」
「ええ!?取っておいてないよそんなの!」
「ちっ、なら仕方がない。どの道過去の点など、今からどう足掻いた所で変える事は出来ないからな。今後はせめて平均点が取れるようにはなってもらう」
「・・・努力します」

答案を見られたら、どれだけ頭が悪いかばれてしまう。こんな馬鹿にこれ以上付き合えるか!そう言って見限られる可能性は否定できない。
次回のテストは頑張らなければ。
学生としての勉強、生徒会、黒の騎士団。頭を使う事ばかりだし、休む時間が少なくて正直つらいが日本奪還のためだ。がんばる以外道はない。
L.L.はその返事に満足したのか、頷くと再びキーボードを打ち込み始めた。

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